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岡本圭人、「雨月物語」が抱える表裏一体の美しさと醜さに心惹かれる

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世田谷パブリックシアターの企画・制作による“あたらしい国際交流プログラム”の最新作『月を抱く人魚』-雨月物語より-が、岡本圭人を主演に迎え、8月にシアタートラムにて上演される。劇団印象-indian elephant-を率いる鈴木アツトが上田秋成による江戸時代の怪異小説「雨月物語」を翻案し、現代劇として戯曲化。演出を、昨年同プログラムの『不可能の限りにおいて』も話題を呼んだ生田みゆきが務める。主人公である絵画モデルの青年・勝四郎を演じる岡本圭人が本作への意気込みを語るとともに、生田と鈴木が制作の経緯について語ってくれた。

岡本圭人「“ドキドキ”じゃなくて“ゾクゾク”する感覚」

――溝口健二監督の映画も世界的に高い評価を得ている、「雨月物語」原案の本作の企画を聞いて、どのような印象を受けましたか?

岡本 まず、日本から世界に発信するプログラムへ今後発展させていくと聞いて興味を抱きました。僕自身、幼少期にイギリスに住んでいて、アメリカやイギリスの演劇学校にも通って、いつかお芝居で日本と世界の架け橋になれたらということはずっと夢見てきたので。

もともと古典演劇は好きで、ギリシャ悲劇やシェイクスピア作品に出演した経験もありますが、日本の古典にも興味があり、そこに語られるべきもの、長く受け継がれてきた“力”があるような気がしていました。原作の「雨月物語」を読んでみて、自分の中にある日本人としてのDNAに働きかけるような“何か”を感じましたし、日本ならではの怪談的な要素があり、ゾクゾクする――“ドキドキ”じゃなくて“ゾクゾク”するような感覚を覚えました。

――リーディング公演『不可能の限りにおいて』に続いての生田さんとのお仕事になりますが、演出家としての印象を教えてください。

岡本 最初に浮かんでくるのが「愛」――役者に対しての愛ですね。すごくオープンに「こういうふうにやってみたらいいんじゃない?」とか「こうした方がいい」というふうに、たくさんのノート――僕は“ダメ出し”という言い方が好きじゃないんですけど――をくださって、作品をより良くしようという愛がとても強い方だなっていうふうに感じました。

そしてもうひとつ、生田さんの魅力は、いまの世界情勢や日本で起きている問題――いま日本に住んで、安全に生きているとなかなか自分ごととして届かないようなことを、演劇を通して届けたいっていう思いを強く持っているところだと思います。

愛だけじゃなく、愛に比例する人間の苦しみや汚らしい部分、でもどうにかして生きたいという思い、そういったものにすごく目を向けている方だなと思いますし、だからこそ「雨月物語」を生田さんの演出で舞台化すると聞いた時、ただ古典を現代劇にした作品にはならないなと。人間の醜い部分、目にしたくないような部分を美しく演出してくださるんだろうと思いました。

――勝四郎と一夜を共にした日本画家の宮木が彼の背中に背ビレを描き、目覚めると宮木は消えていて……という物語の始まりから美しく幻想的な空気に満ちていますが、むしろ醜さやドロドロした内面的な部分に惹かれると?

岡本 そうですね。もちろん美しさもありますが、自分が原作の「雨月物語」を読んで感じたのは、男女の嫉妬や愛憎といったものが散りばめられているなと。中学、高校生の頃、蜷川(幸雄)さんの稽古場を見学する機会があったのですが、やはり美しさがあるんです。どれだけ醜いことをしていてもそこに美しさがあり、いろいろなものが混ざって、カタルシスにつながるというか、見ていて浄化される。今回の作品でも、美しければ美しいほど、醜いものが出せるような気がしています。

生田みゆき「圭人さんは、希望を持てる人」
鈴木アツト「勝四郎は、ほしいものを持っているのに居場所がない男」

左から)鈴木アツト、生田みゆき

――『不可能の限りにおいて』に続く“あたらしい国際交流プログラム”で「雨月物語」を原作に選ばれた経緯を教えてください。

生田 私はずっと日本で育ってきて、基本的に日本語で作品をつくっていますが、自分のバックグラウンドというのをもう少ししっかりと見直したい、世界に発信していく作品をつくる上で、自分が抱えている背景をちゃんと言語化できるような作品をつくりたいと思い、「古典をベースにしませんか?」という提案をさせていただきました。いろんな古典がある中で、最終的に「雨月物語」が上がってきました。

鈴木 ちょうど僕にお話をいただいた時、『女性映画監督第一号』(劇団印象)という作品で溝口健二の弟子にあたる日本の女性映画監督の話を書いていて、溝口がどのような思いで「雨月物語」をつくったのかを調べたばかりの頃だったんです。こんな偶然があるのか!? とノリノリでやらせていただくことになりました。

生田 鈴木さんに「雨月物語」のどのエピソードが印象に残ったかを聞いたら「青頭巾」と答えられたのが意外で読み直したんですが、崇高な思想を抱いて修行をしてきた僧が、美しい稚児を愛してしまい、仏の道から外れていく――。その頃、ちょうど「母親になって後悔してる」(著:オルト・ドーナト)という本が面白かったという話を鈴木さんにして、母親の苦しみということについてもお話ししたんです。

鈴木 その話を聞いて読んでみたら面白くて、「青頭巾」を母親の物語に――勝四郎や宮木がそれぞれに母親を求めるという話に置き換えてみようとなりました。

――原作の「雨月物語」の登場人物たちは、欲望や執着を持っていますが、勝四郎はどこかそういう部分が希薄であるように見え、現代的な人物像とも言えます。

鈴木 “美しい男性”というのは、インスタの時代において、ある意味、みんなが憧れる「なりたい」人物ですよね。いわば、この物語の始まりから、彼は人々が望むものを全部持っているように見えて、本人の意識では「自分には何もない」と感じている。みんなが最もほしいものを持っているのに居場所がない男が、宮木や周りの人物と関わりを持つ中で、自分の居場所を見つけていくんです。

ちなみに僕の中では、勝四郎は執着を「持っている」という設定なんです。でも、それをどう出したらいいのかわからない。執着や欲望の出し方、そして自分の生きていく道を見つける物語になったらなと思っています。

――その勝四郎を岡本さんが演じますが『不可能の限りにおいて』を経て、岡本さんにどのような印象を抱き、今回、どのような期待をされていますか?

生田 圭人さんとは昨年3月のワークショップで初めてお会いしたんですが、彼が持っているピュアなエネルギーに対し、すごく好印象を持ったんです。その一方で当時は、私がそのピュアさをどう扱っていいかわからない部分もありました(苦笑)。

その後、圭人さんにご出演頂いた8月のリーディング公演『不可能の――』は、紛争地域のリアルを描き出す作品でした。これまでも私はそういう作品に何本も携わってきていますが「これだけやっても戦争はなくならない」、「世界は変わらない」というしんどさみたいなものがあり、幕が開いてホッとすると同時に疲れも感じていました。

でも、圭人さんは、最後まで希望を持っていらっしゃって、正直「なんでそんなに?」と思う反面、彼のそういうところからすごくエネルギーをもらっていたんです。「どうせ演劇で世界を変えることなんてできない」という気持ちでつくっても、何も生まれなくて、圭人さんが「きっと世界は少しでも良い方向に行く」と信じ続けながら取り組んでくれたことは、いまふり返っても胸が熱くなるというか、ものすごいエネルギーだなと思いました。

今回、背中に背ビレの絵を背負い、少しずつ泳ぎ始めるという役ですけど、彼なら本当にいきいきと演じてくれるだろうなと思いました。実際、ビジュアル撮影の時に背ビレを持った圭人さんを見た時、そこにすでに物語が生まれているのを感じました。“希望”を持てる人だからこそ、そこに至る前の勝四郎をどう演じていただけるのか? という部分もすごく楽しみで興味を持っています。

取材・文:黒豆直樹
撮影:石阪大輔

<公演情報>
『月を抱く人魚』―雨月物語より―

原作:上田秋成
脚本:鈴木アツト
演出:生田みゆき

出演:
岡本圭人 南沢奈央
薬丸翔 鈴木結里 上村聡
松岡依都美 相島一之

2026年8月7日(金)〜23日(日)
会場:シアタートラム

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2615154

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