Uneducated Kid、Reddy、BewhY……独特な世界観と中毒性を兼ね備えた韓国ヒップホップ5選
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2019年に入ってから、けたたましい勢いでリリースラッシュが続いている韓国ヒップホップシーン。1カ月にリリースされる作品は、シングルとアルバムを合わせて60~70タイトルにも上る。
今回は2019年1月から4月にかけてリリースされたトラックの中から、筆者が特にお気に入りの5曲をセレクトした。共通点としては独自性の高いビートやクセのあるリフなどで一度聴くと耳から離れない音楽、あるいは独特な世界観を構築して観る者を釘付けにするMVなど、リピート必至の中毒性といったところだろうか。
まずは新鋭ラッパーUneducated Kidの新作EP『HOODSTAR』から「지금 (今) (Feat. Okasian)」。
徹底したキャラ作りにこだわる彼は、その名が示す通り教育を受けたことがないという設定だ。しかも数々の犯罪行為によって警察から追われる身だという。本EPではそのキャラを貫きつつ、アメリカの最先端トレンドを取り入れたサウンドがラッパーやヒップホップマニアの間で大受け。この曲に客演したOkasianもまた、2010年代序盤にアメリカのトレンドを韓国に持ち込んだ張本人だ。「今」を意味する「チグム」を2人が交互にリピートするフックはかなりクセになる。Okasianの登場は当時の韓国ヒップホップのトレンド形成に大きな影響を与えたが、Uneducated Kidもそういう存在になる気がしてならない。
続いて紹介したいのは、ワールドスターのJay Parkが運営するレーベル<AOMG>所属のウ・ウォンジェ。
2016年にラップを始めたばかりというにも関わらず、今やメディアに引っ張りだこの人気ラッパーだ。リリックの内容もラップのトーンも暗く、そのぽつりぽつりと心情を吐露するような独特なフロウが聴き手を惹きつける。そんな彼が3月にリリースしたトラック「호불호 (好き嫌い) (Feat. GIRIBOY)」は、とにかくあれも嫌い、これも嫌いと嫌いなものを並び立てるウ・ウォンジェに対し、あれもこれも何でも好きと語るGIRIBOYが対照的でおもしろい。インタビュー映像のように演出されたMVも粋だ。ジャジーなビートも絶妙で、フックのメロディは思わず一緒に口ずさみたくなる。
日本のラッパーSKY-HIとの共演でも知られるレディ(Reddy)による新シングルの表題曲「DRESS CODE」は、ポップで聴きやすい曲の多かった近年の方向性とは打って変わってアグレッシブ路線。
韓国ヒップホップシーンきってのファッショニスタである彼は、音楽だけに集中しろと叩かれることがある。この曲ではそういった声に対し、音楽でも十分な結果を出し続けている自負を語っている。シンプルながらずっしりと響くビートに乗せたリズミカルなラップ、キャッチーなフックのメロディなどレディの多芸さを存分に味わうことのできる一曲だ。MVがまた逸品で、作り込み過ぎないナチュラルなセットとモーション、ところどころにかけられたエフェクトが実に新鮮。レディのスタイリッシュさを見事に表現している。
ビートメイカー、ラッパー、シンガーソングライター、映像ディレクターなど多様なメンバーで構成されたBalming Tigerは、メンバーの多くが海外育ちという異色のクルーだ。
高級ブランドに身を包むなど無駄に贅沢したがる世の中を皮肉った新曲「Armadillo」は、中毒性抜群なビートとラップフロウでリピート必至。東京で撮影されたというMVも何とも言えないシュールさで病み付きになる。素朴なルックスと重厚なトーンのギャップで多くのファンの心をつかんできた主要メンバーのビョンオン(Byung Un)は、残念ながらこの曲が出る少し前にクルーを脱退。理由は「バラードやK-POPも歌いたいし、30歳にもなって実家暮らしなのでちゃんと稼ぎたい」ということで、芸能事務所と契約して新たなスタートを切った。
いつの間にか韓国ヒップホップシーンの重要人物となったビーワイ(BewhY)。
どちらかと言えば新人にカテゴライズされる立場にも関わらず、アメリカのレジェンド級ラッパー・タリブ・クウェリとのコラボ、全米ツアーの敢行、韓国独立運動100周年記念公式ソングの発表など、その歩みは重鎮アーティストさながらだ。しかもインディペンデントで活動しているのだから驚く。ずば抜けて正確な発音とリズム感を誇る彼は、新曲「CHALLAN」のトリッキーなリズム展開にタイトなラップを見事に乗せた。曲の後半には得意の三拍子も披露し、ドラマチックな伴奏で聴く者を圧倒。MVでも大物感あふれる堂々とした姿を見せ、一編のショートフィルムを観たような気分にさせてくれる。同世代の人気ラッパーは数多くいるが、彼は完全に別次元のステージに行ってしまったような感じだ。
■鳥居咲子
韓国ヒップホップ・キュレーター。ライブ主催、記事執筆、メディア出演、楽曲リリースのコーディネートなど韓国ヒップホップにおいて多方面に活躍中。著書に『ヒップホップコリア』。 運営サイト「BLOOMINT MUSIC」/ Twitter