舞台「奇子」に向け、中屋敷法仁「現代人の価値観をどんどん揺さぶれたら」
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舞台「奇子(あやこ)」合同取材会より、中屋敷法仁。
舞台「奇子(あやこ)」の合同取材会が5月9日に東京都内で行われ、上演台本・演出を手がける中屋敷法仁が取材に応じた。
手塚治虫のマンガ「奇子」は、青森県で500年の歴史を誇る大地主・天外一族の欲望の果てに産み落とされた少女・奇子を巡る物語。今回は、同作の舞台化を長年切望していた中屋敷がパルコとタッグを組み、手塚治虫生誕90周年記念事業の一環として上演する。
原作マンガ「奇子」について、中屋敷は「物心付くか付かないかという時期に初めて触れた作品。手塚作品は片っ端から読みましたが、『奇子』に関しては、子供心に“読んじゃいけない作品”だと感じながら、夢中になって読みました」と回想しつつ、「手塚治虫の最高傑作だと思っているので、ずっと舞台化したかった。お客様に見せつけてやりたいという気持ちです」と意気込んだ。
「単純なマンガの舞台化だとは思っていない」と胸中を明かす中屋敷は、「手塚治虫は『奇子』で昭和の暗黒期を描く際、物語の出発点をまず青森の田舎に設定しました。その視点が演劇的だと思っていて、例えばチェーホフの戯曲も田舎から都会のモスクワを眺めていますよね。ですから『奇子』は、演劇として非常に上演しがいのある作品だと思っています」と分析。また「もともと純文学に近いマンガということもあり、原作に一番忠実でなきゃいけないのは人間関係の部分」と述べ、少女監禁や近親相姦といった“罪”を題材に扱うストーリーについて触れると「とんでもない罪を犯した人がいたとき、その人の親が悪いのか、社会が悪いのか、時代が悪いのか、そう簡単に犯人が見つからない怖さがあると思います。日本は昔、戦争をしていましたが、あの戦争で誰が一番悪かったんだ?と考え始めると、すぐに結論は出せないですよね。この『奇子』をどう観るかによって、観客が何を罪深いと思うかが浮き彫りになってくると思います」と言葉に力を込めた。
「奇子」の作中では、天外一族の遺産相続を巡る骨肉の争いが繰り広げられる。中屋敷は「『奇子』では、女性が男性に暴力を振るわれる場面が当たり前の日常として描かれていて、幼い奇子は一族の体面を守るため座敷牢に幽閉されてしまいます。僕の青森の実家は昔、豪農で、戦前は裕福でしたが、戦後の農地改革で小作人に土地を奪われて貧乏になったんです。この境遇が天外一族と似ているんですよね」とエピソードを明かす。また「鉄腕アトムが、最新テクノロジーや未来への夢、希望を託された科学の子なら、奇子は我々が一番閉じ込めておきたい因果をすべて詰めこんだ象徴のような子供です。上の世代の罪を下の世代に押し付けていくという残酷さが、少子化の進む今の日本でどう受け止められるのか。現代人の価値観をどんどん揺さぶれたらと思います」と思いを語った。
続けて中屋敷は「いろんな場面で『俳優さんを“裸”にしたい』と言ってきましたが、今回こそ真の意味で“裸”にできるんじゃないかと確信しています」と自信をのぞかせる。話題が次男・天外仁朗を演じる五関晃一(A.B.C-Z)、三男・天外伺朗を演じる三津谷亮、刑事・下田波奈夫を演じる味方良介のことに及ぶと、「彼らがすごく魅力的な俳優ということを僕は知っていますが、彼らの本性がいまだにわからない。(外面を)剥がしがいのあるメンバーがそろったなと思います」とコメント。そして奇子役の駒井蓮については、「キャストの中ではキャリアが浅いほうですが、これから稽古場で駒井さんを“生み育てていく”んだろうなと思います。駒井さんが演じる奇子がどう転ぶかは僕ら次第なので、彼女をデリケートに扱いながらも、さまざまな影響を与えていきたいですね」と抱負を語った。
記者から「本作を立ち上げるにあたっての一番の“壁”は何か?」と問われた中屋敷は「俳優の本性に触れなければ成立しないシーンがたくさん出てくると思います。俳優は役を演じること、つまりその場で“生きているフリ”をするのがとても達者ですが、今回は自分の過去の体験や醜い本性を手がかりにしないと、役を探れないんじゃないかな」と回答。さらに「俳優はお客様の目を引くことは得意ですが、今回の『奇子』では、お客様の目をどれぐらい背けられるかが勝負。観たくないシーンだけど、観なきゃいけない。この差し引きが大事になってくると思います」と続けた。
最後に中屋敷は「平成が終わり、時の流れの残酷さがまざまざと感じられる時代、技術やメディアが発展した現在は、“人間のフリをしている人間”がたくさん見受けられます。この『奇子』を通じて、『本当の生身の人間とは、こういうものだ!』ということを表現したい。人間にうんざりしてしまっている人にこそ観ていただき、『人ってこんなに醜くて美しくて愛おしいものなんだ』ということを感じてほしいです」と観客にメッセージを送った。
舞台「奇子」の公演は7月14・15日に茨城・水戸芸術館 ACM劇場で行われるプレビュー公演を皮切りに、7月19日から28日まで東京・紀伊國屋ホール、8月3・4日に大阪・サンケイホールブリーゼで行われる。チケットの一般販売は5月18日10:00にスタート。
手塚治虫生誕90周年記念事業 パルコ・プロデュース 舞台「奇子(あやこ)」
2019年7月14日(日)・15日(月・祝)※プレビュー公演
茨城県 水戸芸術館 ACM劇場
2019年7月19日(金)~28日(日)
東京都 紀伊國屋ホール
2019年8月3日(土)・4日(日)
大阪府 サンケイホールブリーゼ
原作:手塚治虫
上演台本・演出:中屋敷法仁
キャスト
天外仁朗(次男):五関晃一(A.B.C-Z)
天外伺朗(三男):三津谷亮
下田波奈夫(刑事):味方良介
奇子:駒井蓮
天外すえ(長男の妻):深谷由梨香
天外志子(長女):松本妃代
おりょう:相原雪月花
山崎(親戚の医師):中村まこと
天外市朗(長男):梶原善