『いだてん』杉咲花の走りに見た先駆者の輝き 和装からチュニックへ、女子体育の第1歩
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『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第18回「愛の夢」では、女子体育の出発点にスポットライトが当たった。
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女子体育の先駆けとなる人物がシマ(杉咲花)だ。シマは三島家の女中として登場し、弥彦(生田斗真)と四三(中村勘九郎)の姿を見て、スポーツの魅力に引き込まれていく。第18回でシマは、早朝の街中にひっそりと現れる。着物の裾をたくし上げ、その足には足袋。静かに息を吐くと、前を見据えて走り出すシマ。杉咲の表情は、走り出すその瞬間まで緊張感が滲んでいた。しかし走り出した瞬間、目が輝く。当時は女性が走ること自体「はしたない」と思われていたに違いない。裾をたくし上げて走る姿を人に見られ、恥ずかしそうな表情を浮かべるシマ。だが、走る足どりが軽快になるにつれて、シマは清々しい笑顔を浮かべ始める。杉咲は、スポーツに心から魅了されているシマを演じる。恥じらいが清々しさへと変わる瞬間はとても魅力的だった。
シマは走りながら、「日本もいずれ西洋のように、女子のスポーツが盛んになるかもしれん。世の中が変わればな」という弥彦の言葉を思い出す。同時に、ミルクホールで嘉納治五郎(役所広司)に言われた「君たちはいずれ健やかな子供を産まないといかん。無理したら壊れるぞ」という言葉も。走り続けるシマは苦しそうだ。苦しそうな杉咲の表情は、「走り続ける」苦しさだけでなく「女子体育に立ちはだかる障壁」をも表しているようだった。
そんなシマが劇中最も輝いていたシーンは、帯を投げ捨てて走り出す瞬間だ。帯をしていると、腹を締め付けられて深い呼吸ができない。和装は走るのに向いていないのだ。それでもシマは夢中になって走り続ける。息が苦しくなったシマは地面にしゃがみ込み、思い立ったように帯を解いて投げ捨てた。帯から解放されて走り出す瞬間、「パンッ」というピストル音が鳴った。この演出はまさに、女子体育の出発点を表している。帯を解き、がむしゃらに走るシマの姿は美しい。走り出した杉咲の真剣な目つきは、女子体育の先駆者として凛と輝いていた。
女子体育を先導する二階堂トクヨ(寺島しのぶ)にも注目したい。永井道明(杉本哲太)の弟子であり、その勝気な性格で、第14回の初登場時から目を引く存在だったトクヨ。しかし彼女こそ、日本に女子体育を普及させた第一人者である。第18回でトクヨは女生徒たちに「チュニック」と「ダンス」を与えた。自由に体を動かすことのできるチュニックを着た女生徒たちはイキイキとダンスを踊る。ダンスを「破廉恥な舞踊」と呼ぶ永井と対峙したトクヨは、恩師に怖気づくことなく「あなたの教えは古い!」と言い放つ。「女子の体育は女子の手で」と主張するトクヨの表情は活力に満ちている。
寺島は、永井仕込みの勝気な性格と女性らしい優雅さを併せ持ったトクヨを堂々と演じる。寺島演じるトクヨの強烈な目力とハキハキとした物言いは、男性陣をたじろがせるほどの強さがある。だが、彼女が踊る姿は優雅で美しい。今後、女子体育に立ちはだかる壁を越えるのは、決して簡単ではないだろう。しかし、優雅に踊る寺島の表情からは自信が溢れている。「いずれ必ず、その障壁は越えられる」ということが示唆されているようだ。
また第18回では、女子体育の出発点との直接的な関わりはないものの、川栄李奈演じる知恵も魅力的だった。五りん(神木隆之介)が女子体育の語り部となった際、和装とチュニックを着用して登場した知恵。「袴に革靴、たすき掛け」姿で登場した際は、「動きづらいし、息も苦しい。これじゃツイストも踊れません」と不服そうな表情を浮かべた。一方でチュニックを着用した際は、ハツラツとしたモデルポーズを披露。古今亭志ん生(ビートたけし)から「足をあげんな、足を」とつっこまれるほど、豪快に足をあげてみせた。川栄演じる知恵のわかりやすいテンションの差は、女子体育の普及によって解放されていく女性を暗喩しているかのようだ。現代から見れば、チュニックも運動着としては動きにくい印象だ。しかし知恵の元気の良い動きを見ていると、チュニックの存在が、女子体育の普及にとってどれほど大きな前進であったかが伝わってくる。
女子体育に焦点が当たり、オープニング映像にも変化があった。今後も魅力的な先駆者たちが登場するようだ。(片山香帆)