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『あなたの番です』とうとうマンション住人に犠牲者が 些細なゲームが現実になる不安と恐怖を描く

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 「本当に殺されるなんて思ってなかったから」。502号室の赤池美里(峯村リエ)が殺されたことで住民たちの疑心暗鬼がさらに募る中、ゲームで美里の名前を書いたことを菜奈(原田知世)と早苗(木村多江)、沙和(西野七瀬)に明かす浮田(田中要次)がつぶやいたこの言葉。殺意と言うにも足らない、あまりにも些細な他人の死への欲求が現実のものとなる不安と恐怖こそ、このドラマが描こうとしている最大のテーマといえるだろう。

参考:場面写真多数

 とうとう“キウンクエ蔵前”の住人に犠牲者が出てしまった日本テレビ系列日曜ドラマ『あなたの番です』第5話。警察の捜査が本格的にマンション内に及ぶことになり、刑事の神谷(浅香航大)はいくつもの疑問を感じるようになるわけだ。しかしながら、これまで住民たちの謎多き行動と“交換殺人ゲーム”の存在を観てきた視聴者は、その一歩先を進んでいるといえよう。こうした登場人物との視点のギャップが、このドラマの中ではサスペンスにもなりミステリーにもなり、そしてホラーにもなっているというのが興味深いところだ。

 臨時で行われた住民会での洋子(三倉佳奈)と幹葉(奈緒)の衝突に、304号室の北川澄香(真飛聖)の息子を無理やり部屋に連れて行き騒ぎに発展した102号室の児島佳世(片岡礼子)。そして501号室の佐野(安藤政信)の捨てた何重にも重ねられたゴミ袋の中から、木下(山田真歩)が見つける血のついたタオルのようなものであったり、マンション中にカメラを設置して以降部屋に引きこもりっぱなしだった田宮(生瀬勝久)の怪しげな様子。こうも様々な伏線が張り巡らされてくると、さすがに推理の歯止めが利かなくなるだけに、そろそろ大きなヒントが欲しくなってしまう。ここは前クールの同枠で頻繁に耳にした「上辺だけで物事を見るな」という言葉を思い出し、背筋を正して構え直すのがいいのかもしれない。

 そうはいっても前述の浮田の告白によって示されたのは、“次の番”が浮田に来たのだということに他ならない。シンイー(金澤美穂)が引いた紙に書かれていたのは、浮田が書いた赤池美里の名前であるとするならば、“殺して欲しい人を殺してもらった”浮田はルールに従わざるを得なくなる。そして今回のクライマックスで久住(袴田吉彦)が、自分に似ているからという理由で「俳優の袴田吉彦」の名前を書いたことを菜奈に明かし、撮影現場で襲撃される袴田吉彦。バットを持って襲いかかるのは3人組だっただけに、浮田たち201号室の面々と推察せずにはいられない。ルールに則れば、次は菜奈が書いた細川(野間口徹)を久住が殺す番が来て、その次には菜奈が誰かを殺さなくてはいけなくなるだけに、ドラマが大きな動きを見せる兆しといえるだろう(もっとも、これまでも犠牲になった人たちを誰が殺めたのかと1つも明示されていないことが何だか気に掛かるのだが)。

 ところで、久住が「俳優・袴田吉彦」について話すシーンで菜奈が口ずさんだのは、99年に袴田吉彦が一度だけバラエティ番組の企画でCDデビューした時に発売した「本トの気持ち」のサビの一節というなんともユーモラスな小ネタが登場した。思い返してみれば、藤井(片桐仁)がドクター山際の死の直後に脅迫文を見つける週刊誌の裏のページに、一瞬だけ「袴田吉彦」の名前が確認できたが、ここへ繋がるというわけだ(今回その週刊誌のページが映し出されるが、袴田吉彦のスキャンダルだという。そういえば10月期に放送された『ブラックスキャンダル』(読売テレビ・日本テレビ系)でも袴田の“アパ不倫”スキャンダルがネタになっていたはずだ)。フィクションであるとはいえ、ドラマと現実の壁を超えて物語を展開させるのはなかなかの荒技ではあるが、2クールに渡って描くこのドラマに必要な緩急を与える、ちょっとした遊び心と見えて好印象だ。  (文=久保田和馬)