NormCoreの個性と魅力を全方位から体験 念願の初ワンマンで繰り広げた熱い夜
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Fümi(ボーカル)、Tatsu(バイオリン)、Natsu(クラシックギター)の3人からなるシンフォニックロックユニット、NormCoreのワンマンライブ『NormCore Night Vol.1』が、7月1日にCIRCUS Tokyo(渋谷)で開催された。メンバー全員が音楽大学出身であり、ボーカリストや演奏家として一流の実力を持つ彼らが、単独公演を行うのはこれが初めてのこと。いわば自身のアーティスト性をファンに向けてライブでアピールする最初の機会になったわけだが、パフォーマンスはもちろん、照明や映像などの演出、本人たちのキャラクターを含め、NormCoreという存在の個性と魅力が全方位から体験できるステージとなった。
この日の会場となったCIRCUS Tokyoは、普段はクラブイベントで使用されることの多いハコ。地下にあるメインフロアは天井が高く、スペース的にはそれほど広くはないかもしれないが、開放感があって音響的にも広がりを感じさせる場所だ。フロアいっぱいに集ったお客さんは、10〜20代ぐらいの若いリスナーがほとんどで、なおかつ女性の比率が高い。やがてスクリーンにバンドのロゴが浮かび上がり、バキバキのクラブトラック風のSEと共にメンバーが登場する。Fümiは客席に向けて投げキッスをするノリノリぶりで、ステージ中央に立つとライダー風のポーズで決め。そしてピアノのイントロが流れ出し、メジャーデビュー曲「それでも僕は生きている」からライブをスタートする。
スクリーンに同曲のMVが投影されるなか、冒頭の繊細なファルセットから徐々に感情を高ぶらせるようにハイトーンを炸裂させ、初っ端から「ヘイ! ヘイ!」とお客さんを煽りまくるFümi。彼は白い衣装、TatsuとNatsuは黒い衣装で揃えており、その対照的な姿も楽曲の鮮烈さを強調するかのようだ。スタンドマイクを使って切迫感のある歌声を叩きつけるFümiは、間奏部分では指揮者のように腕を振ったりと、フロントマンとしての魅せ方は心得たもの。TatsuとNatsuも同期音源に合わせて情熱的な演奏を繰り広げる。ラストでFümiが超高音からさらにギアを一段上げる圧倒的な歌唱で盛り上げると、間を置かずピアノ主体のバラード「天空の涙」で切々とした歌世界を広げていく。
MCで「今日はこのライブができて相当に! 相当に! うれしいです!」と喜びを爆発させるFümi。TatsuとNatsuも『名探偵コナン』のBGMを生演奏で披露するサービスでうれしさを表現する。「僕の毒をこの二人がいつも中和してくれます(笑)」というFümiの言葉通り、二人の和やかな雰囲気はFümiの押しの強いキャラクターと不思議にもマッチングしており、絶妙なバランス感が見ていて楽しい。そしてFümiが「今日は俺色に染めてやるぜー!」と言い放ち、2ndシングルの表題曲「傷だらけの僕ら」へ。クワイア風の歌声を導入した壮大なイントロと赤いライトが激情的な光景を作り出し、Fümiが凄まじいシャウトや安定感バツグンのロングトーンで会場の熱を一気に高めていく。Fümiの歌声はテクニックはもちろんだが、とにかく声量と存在感がハンパない。それはやはり、基本マイクを通さず生声で聴かせる声楽を学んできたがゆえのことだろう。これはぜひCDなどの音源だけでなく、生のライブで体験してほしいところだ。
続いて、過ぎ行く時のセンチメンタリズムを歌った「永遠の記憶」を披露。時に客席に向けて微笑みを返してファンとの絆を確かめるように歌った後は、再びMCへ。Fümiは2014年に“うみくん”として「歌ってみた」動画を投稿し始めてから、ここまで辿り着いたことへの感謝の気持ちを改めて伝える。そして彼のキャリアを形作った活動のひとつである、ボカロ曲のカバーをこの場所でも披露することに。まずはNeru feat. z’5の「病名は愛だった」をバイオリン&アコギを加えたレアなアレンジでパフォーマンスする。ラスサビに至る高まりもバイオリンの音が伴うことでよりドラマチックに響き渡る。さらにもう1曲、同じくNeruの楽曲「かなしみのなみにおぼれる」をカバー。Fümiが歌詞の冒頭部分〈手足二つずつ生えている程度じゃ〉を歌い始めた瞬間に、客席からは歓声が飛ぶ。ロック調の原曲とは異なり、ビルドアップしていくビートや豪快なドロップも備えたEDMスタイルのアレンジが新鮮だ。
ここでFümiが自身の音楽活動の源泉について語り始める。彼は小さい頃から周囲とのセンスのズレを感じていて、毎日が生き辛かったのだという。そんなときに観た『もののけ姫』に衝撃を受け、そこから「俺は俺のままでいい」というメッセージを得たのだという。Fümiは続けて「みんないろんなものを抱えてると思うんですけど、“そのままでいいんだよ”って背中を押してあげられるような発信者でいたいと思って音楽をやってます。そんな僕の命を込めて作詞作曲した曲を聴いてください」と語り、新曲「モハンカイトウ」を歌い始める。
これまでの楽曲ではクラシック×ヘビーロック的なアプローチが目立っていたNormCoreだが、「モハンカイトウ」は意外にもヒップホップ〜R&B系のリズムトラックに女声コーラスが絡む作りに。〈あんな大人になりたくない〉といったメッセージやサビの突き進むようなメロディ、Fümiのストレートかつクリアな歌声も含め、聴き手の心にわかりやすく突き刺さる一曲となっていた。そしてFümi考案の「ハイ!」「ノームコア!」というコール&レスポンスでお客さんとのシンクロ率を100%まで高め、本編ラストの楽曲となる「カウントダウン」へ。そう、『名探偵コナン』のオープニングテーマとしてオンエア中のナンバーだ。照明が明滅するなか、唸る低音と鋭角的なバイオリンが絡み合い、そこにFümiの高音域を活かしたエモーショナルな歌声が切り込んでくる。終盤には楽器隊の情熱的なソロ回しも挿み、怒涛の畳み掛けでそのままラストへ。「ありがとうございました!」(Fümi)と簡潔に語って、メンバーはステージを降りた。
間髪入れず盛大なアンコールが巻き起こり、やがてメンバーが再登場。ステージ上から記念撮影を行うなど、より親密な雰囲気でお客さんとの交流を楽しむ彼ら。まずは「宴会芸的にラフなセッションをしてみようと思います」(Fümi)と前置きして、Eveのボカロ曲「お気に召すまま」をTatsuのバイオリンとNatsuのクラシックギターのみをバックに披露する。クラシックというよりもブルーグラスに近い演奏で、後半はFümiの「行きまっせ!」という合図に合わせて客席からクラップも起こって盛大に盛り上がった。
「俺んちに集まってぐうたらやる感じに似てるよね? これでたっちゃんがグミを噛じってて、なっちゃんがおにぎりを4個ぐらい食べてたら、いつもの感じですよね(笑)」とリラックスした様子で語るFümi。別れを惜しみながらも、9月8日には同会場にて2度めのワンマンライブ『NormCore Night Vol.2』を行うことを告知して、ファンを喜ばせる。そして最後は、彼がUMI☆KUUN名義で発表した2015年のデビュー曲「I am Just Feeling Alive」で締め括り。アンセムライクなメロディと〈Give me Give me One More Chance!!〉といった合唱向けのコーラスパートを持ったこの曲。当然会場は大合唱となり、みんなノリノリでジャンプして多幸感溢れるラストとなった。
去り際には「また会う日までお互い笑顔でいましょうね! じゃあね!」と投げキッスして、最後までファンをとことん楽しませたいという精神が溢れまくっていたFümi。彼のこれまでのキャリアをさらいつつ、バイオリンとクラシックギターを加えたNormCoreというスタイルの可能性を様々な形で提示した今回のワンマンライブは、バンドの今後の活動の基盤にもなるだろう。次のワンマンではここからさらなる進化を見せてくれはずだ。
(文=北野創)