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剛力彩芽なんて甘い! 安田成美、牧瀬里穂、そして…『あまちゃん』もビックリの音痴女優列伝

音楽

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リアルサウンド

 人気の朝ドラ『あまちゃん』(NHK)の見どころのひとつに、「音楽を楽しめる」という点がある。なかでも、一番の話題は、小泉今日子が歌う「潮騒のメモリー」だろう。これは薬師丸ひろ子演じる女優の鈴鹿ひろ美があまりに音痴すぎて、デビュー曲『潮騒のメモリー』をキョンキョン演じる春子が禁断の”吹き替え”を行う……という展開の末に生み出されたのだが、7月31日にはCD化までされ、オリコンでは初登場2位を記録した。

 しかし、いくら何でもアリの芸能界でも、現実では吹き替えなどという危険な行為は行われていないだろう。いや、もしも行われていたら、こんな歌は世に発表されなかったと思われる”音痴女優”たちのレコードが数多く存在するからだ。最近では剛力彩芽の歌手デビューに関して、ネット上で「下手すぎ」「生歌ひどすぎ」とバッシングの嵐が吹き荒れたが、剛力なんてまだまだカワイイもの。そんな音痴女優の名曲を紹介しよう。

もはや伝説! 安田成美「風の谷のナウシカ」(1984年)

楽曲は『風の谷のナウシカ』(徳間ジャパンコミュニケーションズ)収録。

 トップバッターは、もはや伝説化している安田成美の「風の谷のナウシカ」(1984年)だ。宮崎駿監督の同名映画を公開するにあたって行われた「ナウシカイメージガール」のオーディションで見事グランプリに輝き、芸能界デビューを果たした安田。用意されたデビュー曲は作詞・松本隆、作曲・細野晴臣という黄金コンビが手がけ、映画のエンディングを大いに盛り上げる一曲に……なるはずだったが、宮崎が気に入らず、なんと映画本編では不採用になり、イメージソング扱いに。

 ポジティブ変換すれば「イノセントな歌声」と言えなくもないが、安田の特徴は一貫した棒読みならぬ棒歌唱にある。しかし、サビでは壮大なアレンジと喉の不安定さが作用し妙な高揚感が生まれているのも事実で、あの世界の坂本龍一も安田成美を称賛。『細野晴臣トリビュート・アルバム』ではこの歌を小山田圭吾の元妻・嶺川貴子とともにカバーしている。実際、「下手すぎて聴いていられない」という人の一方で、「萌える下手さ」と評価する意見も多く、まさに音痴だからこそ誕生した名曲といえるだろう。

ある意味では奇跡の1曲 牧瀬里穂「Miracle Love」(1991年)

楽曲は『P.S.RIHO』(ポニーキャニオン)収録。

 また、世間を震撼させたという意味では、牧瀬里穂も外せない。カリスマファッションプロデューサーのNIGOと結婚したものの、夫の事業の低迷で、多額の借金を抱えるハメになってしまった「残念な玉の輿例」として語られることも多い牧瀬だが、全盛期の輝きはすさまじく、JR東海の「シンデレラエキスプレス」に出演するやいなや「CMに出ている美しすぎる女の子」として一躍ブレイク。宮沢りえ、観月ありさとともに「3M」と呼ばれるほどの人気を誇っていたのだ。そんな彼女が満を持して発表したのが、デビュー曲「Miracle Love」(1991年)である。

 往々にして女優の歌手デビュー曲は豪華な作家で布陣が組まれるもので、「Miracle Love」も作詞・作曲を竹内まりやが、アレンジを小林武史が担当。まるで女優が初めて脱ぐときのように、「ついにあの牧瀬里穂が歌を歌う!」という期待が高まるもったいぶったイントロなのだが、歌い出しから失敗感が楽曲を覆い尽くすという脅威のガッカリ度。しかも、最初は歌ヘタがやりがちな合唱曲ふうの”間違った情感の込め方”で歌っているのに、Aメロの途中にして、突然、地に近い声ではしゃぐように歌い出すという謎……。この”音痴なのに無邪気”っぷりが聴く者に与えるイライラの大きさは驚異的。これは彼女が初主演した月9ドラマ『二十歳の約束』(1992年/フジテレビ)にて「ヒューヒューだよ!」という台詞の言い回しで視聴者をカチンとさせ、顰蹙を買ったのと同じ構造だ。最高潮に達した評価を大暴落させてしまった、まさしく奇跡の一曲である。

音痴女優の決定版! 沢口靖子「潮騒の詩」(1984年)

 だが、音痴女優の決定版は、沢口靖子の「潮騒の詩」(1984年)だろう。これは沢口のデビュー映画『刑事物語3 潮騒の詩』の挿入歌で、彼女にとってのデビュー曲。おわかりのように『潮騒のメモリー』とタイトルも極似で、一部では、クドカンは沢口の凍てつく音痴ぶりから歌の吹き替えという物語の重要な展開を発想した……との説も出ている。そう考えると、この歌が果たした意味は大きいと(今なら)言えるだろう。

 ちなみに沢口は、その後も世間の評価をものともせず、シングルを4曲も発表。上達がまったく見られないどころかどんどんと音痴に磨きをかけ、最後のシングルとなっている『FOLLOW ME』では、作曲の小室哲哉をはじめ、渡辺美里「My Revolution」のスタッフを集結。エバーグリーンな歌を台無しにする”音痴女優の到達点”がここにあるといっても過言ではない、素晴らしい出来栄えである。

 このほかにも、美人とカラオケに行ったら下手でがっかりしたときの気持ちを見事に再現した木村佳乃の『イルカの夏』(1998年)や、なぜかトルコ行進曲のメロディから始まる、つみきみほ『時代よ変われ』(1988年/これも松本隆・細野晴臣の作品)など、発掘すべき楽曲は山ほど存在する。ただ、不思議なことに、上手い・下手では語れない魅力がこれらの歌には詰まっているのだ。

 時代に埋もれた音痴女優による名曲たち。『あまちゃん』人気をきっかけに、歌謡曲における音痴が果たした役割にもスポットが当たることを願わずにはいられない。
(文=宇多野 純)