個人フィルムから見知らぬ記憶と時間をたどる、「マルガレーテ」本日開幕
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ヤネック・ツルコフスキ「マルガレーテ」より。(撮影:守屋友樹)
日本ポーランド国交樹立100周年記念 ヤネック・ツルコフスキ「マルガレーテ」が本日5月17日に京都・ロームシアター京都にて開幕。それに先がけて昨日16日にゲネプロが行われた。
本作は、ポーランドの演出家ヤネック・ツルコフスキが、蚤の市で購入した見知らぬ人のプライベートフィルムを手がかりに立ち上げた作品。ツルコフスキ作品は今回が初来日となる。
開場の合図で劇場の扉を開けると、ツルコフスキが笑顔で観客を出迎えた。ツルコフスキやスタッフに「紅茶をどうぞ」と勧められ、観客は色とりどりのティーカップと数種類のお茶の中から好みのものを選択し、紅茶の香りを嗅ぎながらアクティングエリアへと向かう。ニットで編まれたカラフルなラウンドマットには小さなスクリーンとプロジェクターが配置され、それを取り囲むようにソファのような座席や椅子が用意されていた。まるで誰かの家のリビングのような空間に、“これから観劇に臨む”と言うより、“プライベートな上映会にお邪魔した”ような心持ちで着座した。
開演の挨拶を告げたツルコフスキは、この作品を作るきっかけとなった8mmフィルムとの出会いについて語り出す。ツルコフスキは2008年のある日、ドイツ北東部のある街の蚤の市で、個人撮影のフィルムや映写機など一式がそろった木箱を、かなり安い値段で購入した。そしてそれを、息子と何気なく見始め……。
ツルコフスキは最初「何か意図的に撮影されたものや、たまたま映ってしまったものなど、いろいろ想像していた」と言い、でも“風景がずーっと映されている退屈なもの”が多く、落ち込んだと冗談交じりに話す。やがて、どのフィルムにも白髪のある女性が写っていること、そのフィルムの箱に書かれた名前から、彼女がマルガレーテ・ルービではないかということを発見したと言い、さらにマルガレーテがどこに暮らし、どんな仕事をし、どんな人間関係を営んできたのか、見知らぬ女性の半生について、考察を深めていった。
フィルムという誰かの“足跡”から、そこに映された人物の輪郭に迫っていく過程はとてもミステリアスで、わずか1時間程度の上演にも関わらず、濃密な時が流れる。背後にある時代の流れを感じながら、どこまでがリアルで、どこからがツルコフスキがフィルムから読み解いた“ストーリー”なのか、時間と記憶のたゆたいに身を委ねてみては。
ゲネプロ終了後、ツルコフスキが取材に応じた。アットホームな空間作りについて、ツルコフスキは「実際にこういったサイレント(音のない)フィルムを見るとき、かつてはサロン的な空間で、フィルムを見せる人がお話しながら上映会をしていたと思うんです。なので、この作品ではそういったサロン的な空間を取り入れています」と話す。また、本作はこれまで約20カ国くらいで上演されてきたと言い、「マルガレーテの記憶みたいなものを、その場所場所に置いていくようなイメージで上演してきました」と笑顔を見せた。
公演は5月24日まで。なお18日17:00開演回は空間現代の野口順哉、23日19:00開演回は美術家の川田知志によるポストパフォーマンストークあり。
日本ポーランド国交樹立100周年記念 ヤネック・ツルコフスキ「マルガレーテ」
2019年5月17日(金)~24日(金)
京都府 ロームシアター京都
コンセプト・出演:ヤネック・ツルコフスキ
日本語吹替:大庭裕介