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マルコス浄瑠璃『金閣寺』開幕! “灰”の世界で描き出す、三島文学の金字塔

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Bunkamura Produce 2026 マルコス浄瑠璃『金閣寺』より (撮影:渡邉肇)

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2026年8月29日、東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて、Bunkamura Produce 2026 マルコス浄瑠璃『金閣寺』が開幕した。スペイン出身のマルコス・モラウが演出・振付を手がける本作には、文楽の人形遣い・吉田玉助、歌舞伎俳優の中村壱太郎と尾上眞秀、アイドルとして活躍する末永光が出演、世界各国から集まった1,200人以上の中から選ばれた7名のダンサーたちとともに、“新たな人形浄瑠璃”を創り上げる。彼らは一体、三島由紀夫の『金閣寺』をどのように表現するのだろう──。開幕前日に実施されたゲネプロを取材した。

太夫の語りと三味線が、人形による芝居と結びつき、観客を物語の世界へと誘う「人形浄瑠璃」。マルコスによる“新たな人形浄瑠璃”の幕開きで観客を『金閣寺』の世界へと導くのは、歌。スペインの歌手・作曲家、マリア・アルナルの声だ。カタルーニャの伝統歌唱を現代的に再構築してきたという彼女の、その伸びやかで神秘的な声が、「すべて崩れ落ちよ ただあなたを除いて」と歌う。やがて柝の音や読経を思い起こさせる重々しいサウンド、さらには三味線の響きが重なり、その独創的な音響世界が会場全体を呑み込んだ。

舞台に広がるのは、一瞬目を疑うような光景。炎で破壊されたと思しき、灰で満たされた空間だ。「これは炎上後の金閣寺か!?」と、目が釘付けに。

マルコスは三島のテキストをそのまま舞台化することを選ばず、『金閣寺』に描かれた“美と滅び”そのものを舞台上に浮かび上がらせてゆく。モノクロの灰の世界に閉じ込められたかのようなダンサーたちは、白いロングドレスを纏い、圧巻の身体表現で空間を埋め尽くした。彼らは互いに寄り添い、離れ、ときに誰かを取り囲みながら、舞い上がる灰をものともせず、大きなうねりを作り出す。

上手奥を見上げると、灰にまみれた障子。その向こうに現れたのが、文楽の舞台に登場する“床”だ。そこで三味線の演奏とともに太夫が語る義太夫は、鶴澤慎治が作曲。マルコスの振付に呼応する形でマリアが音楽を組み立て、それを受け取りながら作り上げたものだという。伝統的な義太夫のスタイルを踏襲しながら、マリアの歌唱と響き合ったり、より現代的な旋律が登場したりと、その音色、リズムは想像以上に多彩。義太夫の可能性を強く印象付けた。詞章は脚本家のロベルト・ファティーニが手がけ、日本語訳では慎治も三島に立ち返ってアイデアを出したという。第1幕の幕切れに向けての詞章が、ずっと耳に残る。「秀逸を 得るも得ざるもひたすらに 尽きぬ光を尋ぬらん」──。

眞秀は、えもいわれぬ存在感で周囲を翻弄する。ダンサーに抱えられたまま運ばれる姿は、一瞬、本物の人形と見間違えるほど無機質だが、すっと立ち上がって力みなく踊る姿は、僧形のようにも姫のようにも見え、神々しい。

一方、上手に座る末永は、失われた建築物を懐かしみ、愛おしむかのように、焼け残った炭を積み木さながら組み立てる作業に没頭。逆縁の罪を償うために、石を積み続ける賽の河原の子供のようでもあり、『金閣寺』の主人公、溝口の若き日の姿にも、溝口が理想とする“美”そのものにも思えて、目が離せない。やがてダンサーたちのうねりに取り込まれ、踊る彼は、自らの意思で動いているのか、それとも人形のように動かされているのか、定かでない。アイドルとしての輝きとはまた違った、一人の表現者としての身体が浮かび上がる。

壱太郎が自身の身体をもって表現したのは、ダンサーの群れを煽り立てたり共鳴したりしながら、そのうねりをどんどん増幅させていくような不思議な舞。後半に登場する壱太郎と眞秀のデュエットは、本作の大きな見どころの一つだ。表裏一体とも取れる二人の踊りは、もはや歌舞伎ともコンテンポラリーダンスとも定義づけられぬ、唯一無二の熱量、かつ妖しげな空気を湛え、しばし目を奪われる。

玉助をはじめとする三人の人形遣いが操るのは、本作で唯一の“本物の人形”だ。文楽の舞台で多彩な役柄を担い、人形に魂を吹き込んできた玉助だが、マルコスは文楽の人々が繋いできた伝統に敬意を払いつつ、人形が人間を振り回すような力強さ、あるいは禍々しい気配を引き出し、その場の空気を一気に支配するほどのオーラを漂わす。マリアと文楽人形が対峙し、響き合う瞬間は、まるで別世界の光景。金閣寺への執着を募らせる溝口の姿や、作家・三島自身の姿にまで、思わず想像が及ぶ。

炎に焼かれ、灰となった金閣寺。その灰の中で、人々はなお踊り、動き、美を追求する。マルコスはそのさまを、“人形”と、“人形のような人間”で描き出す。様々な才能が交差し、対峙し、混じり合ってのクリエーションを重ねたからこその、濃密な舞台作品が誕生した。

マルコス浄瑠璃『金閣寺』キャストコメント

■吉田玉助
マルコスの金閣寺に文楽人形遣いとしてお声を掛けていただき、良い経験をさせていただいています。
文楽は三人遣いなので、ダンサーの動きに邪魔にならない様に、必死について行けたらと。
美が何なのか皆さまも体験してください。

■中村壱太郎
マルコス・モラウさんの現場の稽古は、これまでのどんな現場よりもエキサイティングでした。共通する "体現" という言語の基で、それぞれの踊り手の特性をリスペクトしながら、それぞれが知らない未知なるセッションで他ジャンルを組み合わせる。焼け落ちた金閣寺に集いし者たちによる、凄まじく驚異的な“芸術”が、今、ここに!!

■末永光
本日はお越しいただきありがとうございます。
バルセロナの稽古から始まったこの『金閣寺』は、自分にとって初めての経験や出会いにあふれていました。間違いなく、自分の中の価値観が大きく変わった時間でした。当初は本当に自分にできるのか不安でいっぱいでしたが、たくさんの方々に支えていただき、こうして無事にステージに立てることを本当に嬉しく思います。

■尾上眞秀
マルコスさんは世界でも有名なすごい演出家だと伺って、この舞台に出演させていただけるのが本当に楽しみでした。お稽古中大変でしたが、頑張って皆さんに付いていって、良い作品を創り上げていく一員になりたいと思っています。美を追求した作品になっていると思います。ぜひご覧ください。

取材・文:加藤智子 撮影:渡邉肇

<公演情報>
Bunkamura Produce 2026
マルコス浄瑠璃『金閣寺』

原作:三島由紀夫『金閣寺』
演出・振付:マルコス・モラウ

出演:吉田玉助 中村壱太郎 末永光 尾上眞秀
音楽・歌:マリア・アルナル
ダンサー:アキーレ・デ・フルーヴェ アダム・ラッセル=ジョーンズ エヴァン・ベスコン
イグナシオ・フィソナ シャケド・ヘラー チョ・ジョンイク ロレンツォ・チマレッリ
文楽人形遣い:吉田簑紫郎 吉田玉延
太夫:竹本拓太夫
三味線:鶴澤繁二

2026年8月29日(土)~9月6日(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/marcos2026/

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