店長たちに聞くライブハウスの魅力 第12回 東京・四谷OUTBREAK!
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四谷OUTBREAK!エントランスの看板。
全国のライブハウスの店長の話を通して、それぞれの店の特長や“ライブハウスへ行くこと”の魅力を伝える本連載。今回はオフィス街のイメージが強い東京・四谷で営業するOUTBREAK!を訪れた。
“なんでもやっちゃうライヴハウス”を自称し、これまでに「献血ギグ」「寄席ギグ」「床ギグ」「早朝ギグ」「印刷ギグ」「1週間住み込みギグ」「ヒッチハイクギグ」「デスクワークギグ」など、一般的な音楽イベントの枠組みから外れた個性的なイベントの数々を企画してきた四谷OUTBREAK!。この店が異端の道を突き進み続けるのはなぜなのか、店長の佐藤"boone"学氏に語ってもらった。
40代になってライブハウスにしがみついてる奴って病気なんですよ
「僕はこの店のオープン当初からのスタッフなんですけど、8、9年くらい経った頃に前の店長が独立して別のライブハウスを始めることになったので、そのときに僕が店長になりました。以前はイベンターに務めてたんですが、かなりハードな職場だったので完璧に心を病んでしまって。『もう音楽業界やだー』みたいになって、普通の仕事をするつもりだったんですけど、オーナーが拾ってくれてここで働くことになったんです。まあ、労働環境のひどさはあんまり変わってないんですけどね(笑)」
「深夜帯はいつも、ライブを終えたバンドがそのまま朝まで打ち上げをやったり、別のバンドがレコーディングやスタジオ練習をしに来たりするので、僕は気付いたら寝てて、毎朝この店の床で9:00過ぎに起きるんです。昔、2年間くらい連続でここの床で寝泊まりしてたときは『家いらんな』と思ってました(笑)」
「でも毎日充実してるし、仕事を変えてから気持ちは楽になりましたよ。完璧に依存してますからね、この店に。バンドマンも店員もそうですけど、40代になってライブハウスにしがみついてる奴って病気なんですよ。例えばバンドマンだったら“大学卒業”とか“30歳になった”とか、それまでに何度か卒業のタイミングがあったわけじゃないですか。それを乗り越えてきてしまった奴はもうやめることができないんですよ(笑)」
「最近も忙しいは忙しいんですけど、ちょっと“忙しい”の種類が変わってきました。昔は『365日埋まってるライブハウスがカッコいい。空き日ある店はダセえ』ってずっと思ってて、空いてる日があったら無理やりでもイベントを組む感じでずっとやってきたんですけど、去年から『いや、休みの日があってもよくないか?』って急に思うようになって。というのも、僕は基本的にずっと店にいるので、自分の引き出しがどんどんなくなっていくのがわかるんですよね。これまでは鬱屈とした高校時代の遺産でずっと食いつないでたけど、去年から月に1、2日くらいは休むようにして、インプットのためにいろんなライブハウス行って知らなかったバンドのライブとかを観たりしてます」
「この店だったら大丈夫って言われました」がどんどん集まってくる
「ブッキングに関しては“1つのジャンルにまとめない”っていうのはずっと意識してますね。メタル専門の店とか、パンクに強い店とか、そういう店はほかにいっぱいあるから、同じことをやってもしょうがないので。その結果、ウチはメインストリームから外れたバンドさんたちが最後に流れ着く場所みたいな感じになってるんですよ。一人歩きしてる噂を聞きつけて『この店なら自分でも受け入れられるかも』みたいな感じで、どこにも所属できなかった人たちが店に来るから」
「ほかの店との差別化を図るために、音楽以外のイベントも積極的に増やしてます。映画、演劇、お笑い、落語とか。今はもう、普通にライブをする場所としてしか使わなかったら、ライブハウスはコンテンツとして終わりなんですよ。クローズドで空気悪くてギャンギャンうるさい音鳴ってて、こんな居心地悪いところはないじゃないですか。なのに『もっとみんな来いよ』なんて言っても来るわけないんで」
「だったら音楽好き以外にも楽しんでもらえるような、違った使い方も模索したほうがいい。例えば、ここなら映画館と違って気兼ねなく酒やタバコを楽しみながら映画が観れますしね。はじめましての人からイベントの企画について相談されるとき、だいたい『OUTBREAK!ならできると思って』とか『ここだったら大丈夫って言われました』みたいに言われるんですよ。昨日もはじめましての人からイベントの相談をさせてほしいって連絡があって、『何をやるんですか?』って聞いたら『ごはんを食べたいです』って(笑)。ライブはわりとおまけで、フロアにフードブースを10個くらい作って、ステージでインストバンドが演奏するっていうイベントだったんですけど、『ここだったら大丈夫って教えてもらったんで』って言われました。そうやって謎イベントがどんどん集まってくるんです」
AV撮影ライブ、トイレ工事対バン、瀧逮捕直後の電気DJイベント
「過去のイベントで印象に残ってるのは、どついたるねんの招待制ワンマンライブですね(参照:どついたるねん、「テレキャノ」HMJMと“完全18禁フリーライブ”)。ステージでは普通にどつがライブをやってるんですけど、フロアに花道を作って、そこでAVの撮影をしてるんですよ。お客さんは全員汗だくになって踊り狂ってて、その真ん中で女優と男優が汗だくで絡んでて。で、90分間におよぶライブの、最後の曲が終わった瞬間に男優が発射したんです。とんでもなくないですか? あれはマジで感動しましたね。ちなみにその日、クーラーが壊れて店の中がめちゃくちゃ暑かったんですよ。しかもタイミング悪く照明が熱感知器にあたって警報機が鳴っちゃって。もしこの状況で消防隊員が突っ込んできたら、店の中は完全に地獄じゃないですか(笑)。大慌てで管理会社に『今のは違います!』って連絡して、ずっと店の前に立って『なんでもありません。なんでもありません』って言ってました」
「ほかには、トイレ工事の日にノイズバンドにフロアでライブをしてもらって、どっちがうるさいか対決みたいなこともやりました(参照:エレファントノイズカシマシ、トイレ工事業者と轟音合戦)。お客さんからは工事の様子も観れるようにしたので、『トイレ外れたぞー』みたいな歓声が上がったりして(笑)。ただ、トイレ工事ってガーガーうるさくやってくれるのかなと思ったら、すげえ静かなんですよね。粛々と作業しててまったく音がしない(笑)」
「年に1回、『1週間住み込みギグ』っていうのもやってます。バンドが店に7日間泊まり込んで、毎日ライブをやってチャージバックだけで暮らすっていう企画で。その様子は24時間生配信するんですけど、メンバー同士がケンカしたり、それを経てお互いが成長したり、いろんな人間ドラマが見れるんですよ。僕も一緒に住み込んでるから、いつも最終日になるとギャン泣きしてますね。『うえーん! よかったよー!』って」
「あとは『ヒッチハイクギグ』も最高でしたね。ライブ当日に出演バンドの代表者が1人ずつ、朝イチでウチのスタッフと一緒に静岡とか水戸とか遠いところに行くんです。それで『はい、じゃあ四谷に帰ってきてください』って言って、みんなヒッチハイクをしながらOUTBREAK!を目指し、着いた順にライブをするっていう。これが面白いんですよ。お客さんはここでただ待ってるしかないんですけど、Twitterの中継を見ながら『まだ足柄サービスエリアから出れてないみたいだぞ! ホントに間に合うのか?』みたいに盛り上がって。『ヒッチハイクギグ』は完全にノリでやったんですけど、やってみると興味深いことがわかったんです。バンドって、言い争いをしながら作曲したり練習したりしてて、普段からけっこう大変なわけなんですけど、『今日のためにリハ5時間やりました』みたいな話はわざわざお客さんに言うことでもないし、大変さが可視化されてないんですよ。でも、当日ものすごく苦労して会場に来たことがお客さんに共有されてるから、会場に着いてから聴くバラードがいつもより響くという(笑)。『今日1日こんながんばってきた』っていうストーリーがあると、音楽って普段と違う聞こえ方をするんですよ」
「最近だと『DG祭』っていう電気グルーヴオンリーのDJイベントがめちゃくちゃ盛り上がりました。ピエール瀧さんの逮捕報道があった夜に『どうしてもすぐにイベントをやりたい』っていうファンからの連絡があって、『この日の深夜ならなんとかなる!』って感じで4日後に急遽開催したんです。うちのスタッフにも『受付が足りん! 誰か空いてるやついたら来い!』みたいに声をかけて。ちょうど中止になったZepp Tokyoでのツアーファイナルの日だったので、ツアーのチケットを提示した人はドリンク代のみで入場できるようにしたんですけど、7割くらいのお客さんはツアーのチケットを持ってましたね。当日はOUTBREAK!に初めて来たっていう人がほとんどでした」
「こんなふうに、ライブハウスって瞬発力がないと面白いことはできないと思うんです。ライブの打ち上げでバカなことを思いついたらその瞬間にもうスケジュール決定みたいな。ポンポン決めていかないと僕らも冷めちゃうんで」
機材面でアップデートができないなら、そこで働く人間が変わっていかないといけない
「ライブハウスをやってる人は当然みんな、もっと新しい人に観に来てほしいと思ってるはずなんですよ。なのに結局やり方は昔のままだから『え?』って感じることがよくあって。だからライブハウスって、コンテンツとして古いし終わりかけてるんです。でも面白い部分はまだまだ確実に存在してるので、どうやってそれを広めていくのかを僕たちが考えないとダメだなと思ってます。まあ、こういうことばっかり言ってるのは、同業者に嫌われるしリスキーであんまりいいことないんですけど(笑)。最近は工夫してて面白い店もどんどんできてるんです。例えば3月にオープンした吉祥寺のNEPOはキャッシュレスを進めたりしてて。とはいえ10年も20年も前からやってるうちみたいな店は機材面では大幅なアップデートができないわけです。機材の入れ替え工事ができないなら、そこで働く人間がどんどん変わっていかないといけない」
「うちではカウンターで耳栓を売ってるんですけど、これが最近すごく売れてます。『友達に連れられて初めてバンドを観に来た』みたいな子たちって、だいたいみんな『耳がキンキンする』って言って帰っていくんですよ。それを誇らしいという昔ながらのライブハウスの感覚はもう捨てようぜって思って」
「あと、バンドのお客さんのバンドマン率の高さに嫌気がさしてて。『俺も行くからお前も来いよ』みたいに付き合いでライブに行き合うの、閉鎖的でダサいじゃないですか。『お前ら付き合いでしかライブハウスに来ないのに、人には来い来いって言って説得力なくない?』って思うし。だからうちに出てるバンドマンは、ほかのバンドの公演にドリンク代だけで入場できることにしてるんです。まずはバンドマンがライブハウスに行きたくなる環境を作らないと、お客さんも行きたいと思うわけがないので。それにバンドマンにもっと、知らないバンドを観に来て新しい刺激を受けてほしいし。もちろん、バンドマンが無料で入場しても出演バンドのチケットノルマには加算されないんですけど、『俺は金を払って観たいから』って言って払ってくれる人もけっこういるんですよね。そのへんは任せちゃってます」
「テキーラフィッシュ」は合法か非合法か
「うちの店は調理スペースが極端に狭いので、常設のフードメニューはゆで卵くらいしかないんですけど(笑)、代わりにイベントごとにフードを出店してもらうことはよくあります。投げ銭制で食べ放題のビュッフェをやってくれる人がいて、この間アイドルの生誕祭で27時間イベントをやったときに来てもらったんですけど、食べ放題だから27時間ずーっと唐揚げを揚げてましたね(笑)」
「ライブハウスのドリンクはアルコールっていうイメージがありますが、ホットコーヒーを飲みたいっていうお客さん、すごく多いんです。僕もコーヒー好きなんですけど、コーヒーってメニューに入れようとすると難しいんですよ。コーヒーメーカーを使うのはけっこう大変だし。ペットボトルのコーヒーを出してもいいんだけど、ちゃんと淹れたのを飲みたいじゃないですか。でもよく考えたら、この上にコーヒー屋があるんですよね。だから『いいよ、そこで買ってきてよ』ってことにしてます。コーヒー屋さんにメニューをもらってうちの店に貼ったりして。今はやめちゃったんですけど、近所の松屋にうちのチケットを持って行くと卵がタダになるっていうのもやってました。近隣の住民とかお店と仲良くしておくと、もし何かあっても多少のトラブルには目をつぶってくれるんですよね。だから俺、近所の飲み屋に行きまくってめっちゃ仲良くしてます」
「いわゆるドリンクとは違うけど、魚型の醤油差しにテキーラを入れた『テキーラフィッシュ』っていうのも売ってます。頭が悪過ぎますよね(笑)。前はもうちょっと容器が小さくて50円で売ってたんですが、今はショットの3分の1くらいの量で100円です。一応うちが元祖で、完全に悪ノリで作ったものだったんですけど、今はめっちゃいろんな人がやってくれてるみたいで。『テキーラフィッシュ』で検索するとほかの居酒屋とかライブハウスとかでもけっこう売られてるようです。ちなみにネットでバズった結果、『これって法律的に大丈夫なの?』という指摘がありまして。何やら酒類を別の容器に詰め替えて販売するのは違法らしいんですよ。それで国税庁に問い合わせたら、持ち帰らずにその場で飲めば問題ないという返答で。だから『テキーラフィッシュ』は合法です(笑)」
この店は“巨大な自分の部屋”みたいなもの
「『OUTBREAK!は変なことをやってる店』という認知はされてきたので、マジでそろそろ大きくなるバンドを育てたいですね。ジャンルもバラバラでいいので『四谷で育って大きくなりました』っていうバンドが何組も生まれたらいいなと思う。下地はできてるんですよ。うちは深夜は練習にも使えるし、レコーディングもできるし、映像とかも撮れるし。この場所を24時間フルに使って、1年間かけてバンドを成長させていきたい。CDリリースのノウハウもあるから、『四谷OUTBREAK!が推す10バンド』みたいな感じでコンピを作ったり、バンドとがっつりタッグを組んでみたいなと思ってます。音作りとかライブのゲネプロとかって、スタジオでやるよりライブハウスでやったほうが参考になるんですよ。一緒に音作りの研究をしたりとか、僕もホントに24時間付き合っていろいろやっているので」
「ライブハウスに行く魅力って、僕は『1人になれること』だと思うんですよね。いろんなものから切り離されて、1人きりで音楽やエンタメと向き合える場所。そこに僕は魅力を感じています。だから僕は、お一人様でも楽しめる店にしたいんですよ。もちろん『行けば知り合いがいっぱいいる場所』というコミュニティ的な側面も大きいんですけど」
「ライブハウスって要は入れ物なので、防音がちゃんと整っていてバーカウンターがあれば、それ以外はなんでもいいんです。僕はOUTBREAK!は“巨大な自分の部屋”みたいなものだと思ってるので、演奏をしてもいいし、ごはんを作って食べてもいいし、映画を観てもいいし。みんなに僕の部屋に遊びに来てもらって、そういうことをワイワイやってる感覚だから、この店ではなんでもできるんです。まあ大変だし、仕事として考えたらわりに合わないんですけどね(笑)」
店舗情報
住所:〒160-0004 東京都新宿区四谷2-10 第2太郎ビルB1F
アクセス:JR四ツ谷駅四ツ谷口から徒歩3分 / 東京メトロ四谷三丁目駅4番出口から徒歩5分
営業時間:公演により異なる
定休日:なし
ロッカー:なし
駐車場:なし
再入場:公演により異なる
キャパシティ:230人
ドリンク代:アルコールは500円、ソフトドリンクは400円
フリーWi-Fi:あり
貸切:可
取材・文 / 橋本尚平 撮影 / タマイシンゴ