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『なつぞら』吉沢亮、天陽の魂を表した名シーン 次週より東京・新宿編がスタート

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 『なつぞら』(NHK総合)を観ている上で、視聴者全員が当たり前のように理解していることは、なつ(広瀬すず)がアニメーターを目指すこと、北海道から東京に行くこと、の2つ。それは朝ドラとしては初めて全編アニメーションを用いたタイトルバック、その中で描かれる大自然を駆けていた少女がアニメーターとなるシーンからも見て取れる。日々、タイトルバックを見ていることにより、いずれ必ず訪れるなつと柴田家の別れを視聴者も予感していたことだろう。

 第7週「なつよ、今が決断のとき」は、なつが泰樹(草刈正雄)を始めとした柴田家の人々に東京へ行きたいということ、そして泰樹が1人で北海道に来て荒れ地を開拓していったように、自身も東京で漫画映画に挑戦したいということを打ち明けた。時は流れ、昭和31年3月。なつは勝農演劇部での卒業式を終え、卒業証書を持ち天陽(吉沢亮)の元に向かう。

 天陽は、第6週よりなつに「話したいことがある」と言ったきり、うやむやにしたままそのことをなかったことにしていた。東京に行くことに迷っていたなつに「だったら行くなよ」と気持ちが溢れてしまうほど、天陽も大きくなっている自身の気持ちに痛いほど気づいている。しかし、天陽は小さい頃に絵描きになるという夢を諦め、北海道で生きていくと決めていた。なつには北海道にいて欲しいという気持ちもあるが、「漫画映画を作ってみたい」と真っ先に自分に夢を伝えに来てくれたなつの背中を押したいという思いが同居していたはずだ。

 第7週、第42回ラストを飾るなつと天陽2人だけのシーンは、およそ3分に渡り天陽の魂が伝わってくる名場面だ。天陽はなつの悩んでいることにいつだって簡単に答えを出してきた。そんな天陽が悩み抜いて出した答えが、なつの夢を応援すること。同時に、自分もベニヤ板という広い世界の上で夢を生きることを誓う。

 「何もないキャンバスは広すぎて、そこに向かってると自分の無力ばかり感じる。けど、そこで生きている自分の価値は、ほかのどんな価値にも流されない。なっちゃんも道に迷った時は、自分のキャンバスだけに向かえばいい。そしたらどこにいたって俺となっちゃんは、何もない広いキャンバスの中で繋がっていられる」

 クールに見えて情熱的で、哲学的な天陽らしさが溢れるセリフだ。第6週、第33回で映画『ファンタジア』を観て、「アニメーションってなんでもできる」と感銘するなつに天陽が言った「なんでもできるってことはなんにもないのと同じ」と開拓していくことの難しさを説いたこと、第42回で天陽の父・正治(戸次重幸)が言った「東京に行っても、なっちゃんとは陽平(犬飼貴丈)で繋がっていられるんだな」というセリフにそれぞれ自分なりの答えを出していることも、なつと天陽の会話一つひとつが2人のためにあったことを示している。

 天陽を演じる吉沢亮のセリフ回し、表情もまるでFFJ(日本学校農業クラブ連盟/Future Farmers of Japan)の精神を感じさせるほどに熱い。広瀬すずの頬に伝う涙、広瀬の右手を両手で握り返す吉沢。広瀬のセリフはほとんどなく、その涙と吉沢を見つめる表情、自然と見渡す十勝の冬空に、なつの決断と覚悟が詰まっている。

 第8週「なつよ、東京には気をつけろ」より、いよいよ「東京・新宿編」が本格的にスタートする。公式ホームページにも、新宿編の登場人物相関図が掲載された。注目は、なつの兄・咲太郎(岡田将生)と親子のような関係にある、おでん店「風車」女将・岸川亜矢美(山口智子)。ほかにも、東洋動画スタジオの人々に大沢麻子(貫地谷しおり)、三村茜(渡辺麻友)といった、さらなる新キャストも登場する。これから物語が華やかな新宿と十勝をどのように行き来していくのかにも期待したい。(渡辺彰浩)