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『チア男子!!』は意外にもビジネスマン向け? 横浜流星の“笑顔の変化”から学ぶ、チームの築き方

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リアルサウンド

 男子チアリーディングに青春をかける大学生の姿を描いた朝井リョウの小説『チア男子!!』が実写映画化された。

 メジャー競技ではないこのジャンルに挑戦する7人それぞれに「克服したいもの」があり、恥ずかしさや照れ、固定概念を乗り越えながらチアに取り組む姿はそっくりそのまま彼らが自分自身と向き合う過程と重なる。

 主人公の晴希(横浜流星)は道場の長男に生まれ幼い頃から柔道を続けてきたが、連戦連勝の姉と比べて自身には才能がないことを悩んでいた。怪我をきっかけに柔道と距離を置くことになったところに、親友の一馬(中尾暢樹)から声を掛けられ、男子チアチームの結成を目指すことになる。

 この作品内で一貫して打ち出されているのは、チア男子部が部員募集のために配るチラシやポスターに書かれたキャッチコピー「誰かの背中を押すことが自分の力になる」。この「誰かのための応援」という、ともすれば外野からの距離感を保った一方的なものには留まらないのが、この作品の秀逸なところだ。自分自身も打席に立っている渦中にいる者だけができる双方向的な「応援」の本質が、物語が進むにつれて深まっていくグラデーションがきちんと描かれている。

 男子チア部立ち上げの誘いに戸惑う晴希に一馬が言った「ハル、お前には応援の才能がある。お前は自分のことのように応援するだろ」という一言。さらに、男子チア部に否定的な姉に対して晴希が初めてこぼす「俺、柔道やってても誰かを倒したいと思えないんだよ。それよりも誰かを応援したり、誰かと一緒に何かを作り上げたい」という本音にも「応援」が意味するところの双方向性が含まれている。頑張る人を応援することが自分の力にもなり、応援された側もさらに頑張れるというどこまでもプラスの好循環を、彼ら“BREAKERS”が練習時にも見せてくれている。

 メンバーも何とか集まり出演が決まった文化祭開催直前に、突如浮上する解散の危機。そこで晴希が言い放った一言はこれまでの辛く苦しい練習を耐え、その過程で様々な葛藤や自信のなさに向き合った者だけが言えるものだった。

 「俺は結局自分のためにチアやってる。皆だって変わりたかったり、自分のために頑張ってる。好きなこととかやりたいこととか、それぞれ別々のこと思いながらやってるんだけど、それでも支え合ったり励まし合ったりしながらチアやってもいいんじゃないかな」

 この晴希の発言が嘘っぽくなくて胸に沁みる。自己犠牲を強いるような他者への励ましや押しつけがましさなどがなく、能動的な応援だからこそ見る者の心を掴み、鼓舞するのである。

 スポーツでも仕事でもなんでもそうだが、人それぞれにモチベーションは様々で、それでも目指すべき1つの大きな目標に向かって協業して取り組んでいる。さらに本当に辛い局面は誰だって1人で対峙するしかなくて、「自分の課題」として自力でクリアしていくしかないのだ。だが、その苦しい時に、物理的にはたとえ1人であっても、そこでどれだけ「自分は1人じゃない。あいつらがいる。あいつらも頑張っている」と思えるか、そんな風に思い合える相手がいるかどうかが大切になってくるのではないだろうか。それこそが「信頼関係」と呼べるものであり、そんな信頼関係をどれだけ他人と結べるか。これがチームの醍醐味で、人生の充実度にも大きく関わってくる要素だと言っても過言ではないだろう。

 本作は単なる「青春物語」としての側面のみならず、組織論やチームビルディングについてもヒントとなり得る人間模様が映し出された、大人、中でもビジネスマンが観ても学びの多い内容となっている。

 自分ひとりだけのことだったらとうに諦めてしまっていたようなことも「皆がいるから頑張れる」、「誰かを応援したい」、「トップを跳ばせたい」など相手のことを思って取り組むと、自分でも信じられないような底力が湧いてくる。自分だけなら決して進めなかった一歩が踏み出せるというような、チームだからこその相互作用、強さについても描かれている。

 大切なメンバーのことほど放っておけない。近くで見ているメンバーの頑張りを何も知らない人から笑われたりバカにされるのは自分が侮辱される以上に許せない。そんな身近な他者からの思いが呼応し合って本人の中でも前向きな変化が起こり、連鎖していく。青春モノ・スポ根作品の見どころが、本作にはギュッとリアルな温度感で凝縮されている。

 本作を通じて横浜流星が、少し内気で引っ込み思案な主人公晴希に起こる心の変化を、ドラマ『はじこい』こと『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)のゆりゆりとはまた異なるアプローチで熱演している。猛特訓の末撮影に臨んだというチアの演技はもちろんのこと、最初は自信のなさや自分の本音をごまかすために取り繕っていたような「笑顔」が、どんどん達成感の最中にあるキラキラと眩しい正真正銘の大きな「笑顔」に変化していく様も是非劇場で見届けてほしい。(文=楳田 佳香)