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ビリー・アイリッシュ、カリード、ヨルシカ、神山羊‥‥2010年代最後のライジングスター6選

音楽

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リアルサウンド

 今回のキュレーション原稿は、2010年代最後のライジングスター。そして、ちょっと気が早いかもしれないけれど、次のディケイドの音楽シーンを担ってほしいと思っている人たちです。まあ、少なくともビリー・アイリッシュはダントツでそうなると確信してる。そして原稿の最後でその理由を語っているけれど、アメリカのポップミュージックのシーンから4組、日本のボカロカルチャー出自のアーティスト2組という組み合わせで、セレクトしました。

(関連:ビリー・アイリッシュ、なぜ“普段着”でステージに? 女性アーティストによる衣装の変革

・ビリー・アイリッシュ『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』

 すでに世界中で大センセーションを巻き起こしているデビューアルバム。去年から「これはとんでもないニューカマーが出てきた」と予感していたけれど、僕自身、アルバムを聴いた瞬間にノックアウトされた。まだ17歳。間違いなく次の時代を担うスターになるだろうし、その登場が巻き起こしている熱狂をリアルタイムで体験できて、とても嬉しい。今年の『コーチェラ・フェスティバル』だって、宙に吊り下げられたベッドの上で歌う彼女に、何万人のものすごい絶叫と大合唱が起きていた。伝説のステージになったと思う。

 ビリー・アイリッシュの音楽性はとてもユニーク。兄・フィニアスと共に作り上げたサウンドは、地の底を這うようなサブベースと、囁き声のようなボーカル、そして必要最低限のシンセやドラムしか鳴っていない、とてもシンプルなもの。もちろん、その背景には超低域が重要になったベースミュージックやトラップミュージックの潮流がある。ルーツに挙げるTyler, the Creatorの存在も大きいだろう。

 それでも彼女の歌には屹立した個性がある。ファッションやビジュアルも含めて、その魅力が一発で伝わる。デビュー作にして、誰にも似ていない唯一無二の存在感を獲得してしまっている。間違いなく彼女自身のカリスマ性だと思う。

 楽曲の根底にあるのは、心の内奥に込められた深い闇や憂鬱。メランコリックで、反抗的で、ダーク。だからこそポップ。Nine Inch NailsやMarilyn Mansonや、それこそデイヴ・グロールが言ったようにNirvanaを彷彿とさせるスター性を感じさせる。

・カリード『Free Spirit』

 カリードの2ndアルバム『Free Spirit』も素晴らしかった。彼も今のアメリカの音楽シーンの充実と世代交代を象徴するライジングスターだと思う。なんせ、現在21歳。デビューアルバム『American Teen』をリリースしたのが2017年3月だから、その時点では19歳。オルタナティブR&Bという括りで紹介されることの多い彼の音楽性だけれど、音数をおさえたシンプルなトラック、哀感と色気のこもった彼の歌声は、もはや今の時代のメインストリームだと思う。

 特に大御所Stargateが手掛けた「Better」、Disclosureをプロデュースに迎えた「Talk」という2曲のリード曲を聴くと、それを強く感じる。

 ちなみに彼も今年が初のコーチェラ出演。アルバムが全米1位を獲得したタイミングで、ヘッドライナーであるアリアナ・グランデの直前のメインステージというスロット。そこでビリー・アイリッシュやホールジーやベニー・ブランコやマシュメロをゲストに招いて大きな盛り上がりを作っていた。

 考えてみたら、ビリー・アイリッシュとカリードが『13の理由』の2ndシーズンのサウンドトラックのために「Lovely」をリリースしたのが2018年の4月のこと。

 そこからたった1年で、ポップミュージックを巡る状況はがらりと変わったんだと思う。

・ジュース・ワールド『Death Race For Love』

 2019年のライジングスターと言えば、彼の名も当然あがると思う。シカゴ出身の20歳、ジュース・ワールド。僕が彼を知ったのは夭折を遂げたリル・ピープとXXXテンタシオンへのトリビュート作としてリリースされたEP『Too Soon..』がきっかけ。ほぼ同時期にリリースされたシングル曲「Lucid Dreams」がバイラルヒットし、デビューアルバム『Goodbye & Good Riddance』も全米4位となって、フューチャーとのコラボ作もリリースされ、一躍「エモラップ」のジャンルのネクストブレイク筆頭株へと駆け上がった。

 彼の正念場となる2ndアルバムが『Death Race For Love』。何が正念場かというと、彼をスターダムに押し上げた「Lucid Dreams」はスティングの「Shape of My Heart」をサンプリングした曲だし、アルバム『Goodbye & Good Riddance』は前述のビリー・アイリッシュ&カリード「Lovely」を大胆に使った「Intro」「Karma (Skit)」が収録されていたし、「結局のところ、彼がヒットしたのって“大ネタ使い”だからなんじゃないの?」という疑念のようなものはつきまとっていたからだ。

 でも、「Fast」や「Robbery」といった曲を聴くと、彼自身の才能をちゃんと感じる。そして、どちらかと言うとポスト・マローンに近い存在感も感じる。かつてのハードロックの時代のロックスターが引き受けていたような、ろくでなしで、自堕落で、だからこそ魅力的なパーソナリティというか。

・リル・ウージー・ヴァート「That’s a Rack」

 フィラデルフィア州出身のラッパー、リル・ウージー・ヴァート。フィーチャリングに参加したMigosの「Bad and Boujee」で一躍注目を浴び、「XO TOUR Lif3」の大ヒットで一躍スターダムを駆け上がったキャリアの持ち主である。彼がブレイクを果たしたのは2017年で、年齢も24歳と、ここに並べた面々からすると少し上の世代だと思うのだけれど、それでもやっぱり同じ時代感を共有しているアーティストだと思う。

 ここ最近は所属レーベル<Generation Now>と契約問題を抱え、引退宣言もして、活動の継続さえ危ういとされていたけれど、ジェイ・Zのレーベル<Roc Nation>とマネージメント契約を結んで新曲「Sanguine Paradise」と「That’s a Rack」を発表。これが、とても彼らしいダークさと危うさのこもった曲だった。

 リリース予定のアルバム『Eternal Atake』も、とても楽しみ。

・ヨルシカ『だから僕は音楽を辞めた』

 ヨルシカは、ボカロPでありコンポーザーでもある・n-buna(ナブナ)が、ボーカリスト・suis(スイ)を迎えて結成したバンド。

 これまで紹介してきた面々とは毛色が違うように思う人がほとんどだろうけれど、僕はあえてここに彼を並べたい。

 というのも、少し前に小袋成彬がラジオで、「ニコニコ動画出身のアーティストにティーンが盛り上がっている日本の現状は、そのままトラップミュージックに置き換えればアメリカの現状」というようなことを語っていて、僕としては、その分析にとても納得したところがあったから。

 単に若い人たちが新しいジャンルに熱狂しているというだけでなく、どことなく共通するメンタリティのようなものがあるんじゃないかと僕は思っている。たとえばリル・ウージー・ヴァートがコアなアニメファンだったりするのもその象徴なんじゃないかと思うようなときもある。

 ヨルシカは「物語音楽」ということを徹底しているクリエイターで、『だから僕は音楽を辞めた』というアルバムは、音楽と映像とCDパッケージと、全てのメディアを使って一つのストーリーを作り上げている作品。

 MVが公開されている曲はギターロックを基軸に速いテンポで言葉数を詰め込んだ曲調が中心だが、アルバムを聴くと、むしろエレクトロニカのルーツを感じさせる4曲のインストゥルメンタルが効いている。ラストに向けて歌詞も曲調もどんどん内圧が高まっていく構成が見事。惹き込まれていく。

・神山羊『しあわせなおとな』

 神山羊は有機酸名義でボカロPとしても活動するシンガーソングライター。最初に彼のことを知ったのは「YELLOW」という曲がきっかけなのだけれど、最初の18秒にものすごくセンスを感じた。四つ打ちのビートと、ベースラインと、歌声。シンプルな組み合わせだけど、そこで聴く人をハッとさせる。「YELLOW」と連呼するサビも癖になる。

 その後に発表された「青い棘」はグッとテンポを落としたナンバー。冒頭は90年代のR&Bポップスを彷彿とさせる16ビートの横ノリで始まるんだけれど、そこから変幻自在に展開していく曲調がいい。トラックメイカーとしての確固たる才能を感じる。

 CDデビュー作となるミニアルバム『しあわせなおとな』をリリースし、先日には初ライブも開催したばかり。やはりバルーン名義でボカロPとして活動しその後シンガーソングライターとしてデビューした須田景凪とは、盟友とも言える存在。たとえば米津玄師とwowakaがそうだったように、お互い“同期”として切磋琢磨する関係なのだと思う。

 現状では、たとえばヨルシカや、神山羊や、須田景凪といったアーティストのファン層と、ビリー・アイリッシュやカリードを愛好する日本の音楽リスナー層は、正直、それほど重なっていない気がする。

 でも、小袋成彬が言うように、そこには通じ合う何かがあると僕も思う。だから、こういうキュレーション原稿などの仕事が、少しでもクラスタをつなぐきっかけになればいいなと願っています。(柴 那典)