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4人の名手が紡ぐ、若き日のリヒャルト・シュトラウス

クラシック

インタビュー

チケットぴあ

©Kano Hayasaka

ピアニストの牛田智大が、近年意欲的に取り組んでいる室内楽プロジェクト。今年は、11月18日(水)第一生命ホールほか全国8ヶ所で開催する。

テーマはリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)。青年期以降の壮大な交響詩やオペラで知られるシュトラウスだが、今回は、初期に書かれた、作品番号付きの室内楽作品をすべて集めた画期的なプログラム。チェロ・ソナタ(1881/83)、ヴァイオリン・ソナタ(1888)、ピアノ四重奏曲(1885)。そしてヴィオラ版による歌曲集。

戸澤采紀(ヴァイオリン)、近衞剛大(ヴィオラ)、佐藤晴真(チェロ)、牛田智大(ピアノ)という、若い世代を代表する名手たちが揃った。シュトラウスの魅力や、この企画のユニークな舞台裏について、4人にたっぷり語ってもらった。

©Kano Hayasaka

牛田:シュトラウスの室内楽は3~4年ぐらい前から構想していました。若い時期に書かれた室内楽曲には、やがて壮大なオーケストラ作品を書くシュトラウスの、音楽的なアイディアや弦楽器の扱い方の原点みたいなものが見えて面白いんじゃないかと思ったんです。

戸澤:この企画が実現するきっかけは、ある本番の帰り、電車の中で、「何か一緒に弾きたいね」と話してたんです。シュトラウスのヴァイオリン・ソナタって、ピアノがとても難しいんですけど、目の前に素晴らしいピアニストがいるんだから、「シュトラウス、どう?」って。

牛田:そのあと、私がワルシャワにいるときにヴァイオリンの前田妃奈さんから電話がかかってきて、戸澤さんも一緒にいたんだよね。

戸澤:ベルリンの私の家に、妃奈さんたちがカレーを食べに来てたんです。

牛田:ピアノの久末航さんもいて、お酒飲んでみんなご機嫌だった。

戸澤:お酒飲みながら人生ゲームしてた(笑)。

牛田:そのままいろんな話をしているうちに、ふと戸澤さんが「シュトラウスのヴァイオリン・ソナタが大好きで、たっぷり研究もした。シュトラウスやりたい!」って言ったんだよね。

戸澤:そうだったかも(笑)。

牛田:ちょうどこの企画を実現したいと思っていたところだったので、「じゃあぜひ一緒にやりたい」と。すぐに「シュトラウスを一緒に弾きませんか?」とメッセージを送って、その勢いで佐藤晴真さんにもメールしました。さらに、戸澤さんが近衞剛大さんを紹介してくれて。特にピアノ四重奏曲には、ヴィオラに素晴らしいソロがいっぱいあるんです。

佐藤:チェリストにとって、シュトラウス、ラフマニノフ、ショパンのチェロ・ソナタは、ピアノが本当に大変なので、「ピアニストがOKしないと演奏できない三大ソナタ」(笑)。今回はピアニスト側から提案してくれたからありがたいです。

戸澤:普通のピアニストはやらないですよね。チェロ・ソナタとヴァイオリン・ソナタを両方並べて、しかも最初から最後までずっと弾くなんて。頑張ってください(笑)。

牛田:でも、意外に弾きやすいですよ。

戸澤:そういうことを言う人、いないから(笑)。

牛田:楽譜を見る限り、たとえばバランスを取って無理に弱くしなければならないとか、弦のフレージングに配慮するとピアノが気持ちよく弾けなくなるような場所がほとんどなさそうで、自然に書かれているなと思います。

佐藤:普通は、バランスを気にするより先にまず技術的な壁が……(笑)。そもそも音の数が尋常じゃないよね。

戸澤:そうそう。こちらが朗々と気持ちよく歌っているあいだも、ピアノはすさまじく弾いているから、なんだか申し訳なくて(笑)。たぶん、ヴァイオリンとピアノという二つの楽器だけでは表現し得ないようなアイディアが、彼の頭の中にあったのだろうなと思います。

牛田:いや、もちろん非常に難しいですよ。簡単だなんて言ってないよ!(笑)

佐藤:チェロ・ソナタは、意外とチェロにも弾きにくいところがある。

戸澤:それはヴァイオリン・ソナタだってそう(笑)。

佐藤:管楽器的な要素を感じます。特に第3楽章なんかはオーボエとかのイメージ。《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》とかね。

牛田:チェロ・ソナタは今回、原典版で演奏します。

佐藤:僕は原典版、初めてです。

牛田:きっかけは私の勝手なわがままで...。シュトラウスは1881年に書いた原典版を、1883年に改訂しています。もちろん改訂版は非常に完成度が高いですが、私は作曲者の初期衝動がそのまま表れている作品って面白いなと思っていて、いろんなものに影響を受ける前の、プラトニックな感じの音楽が面白いのではないかと。「原典版とかどうですか?」と佐藤さんに相談したところ、一緒に弾いてくださることになりました。

佐藤:特に終楽章が、よく知られている改訂版とは全然違います。第2楽章はめちゃめちゃ暗い。これを十代で書いてるんですか?みたいな。若年寄というか、ませてますね。

戸澤:ヴァイオリン・ソナタも、ちょっとした内面の揺らぎみたいなものが見えて、より人間的に感じられます。内側にある何か。それが後年の交響詩になると、もっと描写的なもの、もしくは、言い方が悪いかもしれないけれど、自分を大きく見せるようなところがあると思います。

牛田:本質的、人間的で、より研ぎ澄まされている。シュトラウスの場合、そういう枯れたイメージは、十代から二十代の短い期間だけにあるような気がします。最晩年の《四つの最後の歌》などに通じるようなものが、この初期の作品にだけある。それが青年期以降はしばらくなくなって、また晩年に戻ってくるんですよ。

近衞:たしかに、《ドン・キホーテ》や《英雄の生涯》などの交響詩はドラマティックな感じですね。ヴィオラも、テクニックが難しいというより、音楽的にすごく複雑です。

牛田:後年のシュトラウスの音楽は非常に複雑で精緻ですが、十代から二十代の初期の室内楽作品には、オーケストレーションで肉付けされる前の、彼の純粋なアイディアを見ることができます。そのアイディア自体はシンプルでオーソドックスなスタイルで、すごくわかりやすいんですね。

牛田:シュトラウスは若い頃、ブラームスから「君の曲は音を詰め込みすぎている」と言われたそうです。「シューベルトのシンプルな8小節をもっと研究しなさい」と。その教えが生きているのが歌曲だと思います。シュトラウスの歌曲のピアノ・パートは、「これ、シューベルトかな」と思うほど、とてもシンプルなんです。それを見たあとにヴァイオリン・ソナタやチェロ・ソナタを弾くと、一見複雑に見える書法が実は歌曲のシンプルなアイディアに肉付けしたものであることを感じることができます。シンプルってすごく難しいことですよね。そうすることで、浮かび上がらせるべき本質的なものが育っていったんだろうと思います。

近衞:その歌曲をヴィオラで弾くのですが、歌なら言葉で表現できるところを、ヴィオラの音だけで納得させなければなりません。

戸澤:歌ったら?

近衞:じゃあ、歌います(笑)。

佐藤:“歌声”はシュトラウスのいちばん中心にあったんじゃないかなと思います。ピアノ四重奏曲でも本当にきれいなメロディがいっぱい出てくる。楽器を超えた“歌声”が、シュトラウスの重要な要素なのかなと感じます。

戸澤:メロディ・メーカーだよね。すごくキャッチー。

佐藤:どんな複雑なハーモニーの中にも必ず歌があるというのは、初期から晩年まで一貫しています。

牛田:歌曲は、彼の人生のアイデンティティだったのだと思います。喩えがピアノで申し訳ないですけど、ショパンが生涯マズルカを書き続けたのと同じように。歌曲は、基本的にはやはり初期作品を中心に選ぼうと思いつつ、まだ悩んでいるところです。死の前年に書いた〈夕映えの中で〉(《4つの最後の歌》終曲)は入れたいなと思ったり……。

戸澤:このプログラムを並べて、喜んでやるピアニストはどこにもいませんよね。同じ量のモチベーションで向かってきてくださる人と、しかも素晴らしいソナタを弾けるのは本当に楽しみです。

近衞:僕はシュトラウスの若い時期の室内楽はまったくやったことがないので、今回はすごく楽しみな反面、怖くもあります。でも、この素晴らしい音楽家の皆さんと一緒に弾けるのがとてもうれしいです。

佐藤:以前、牛田さんとメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲を演奏したんですけど、それまで聴こえたことがなかった声部が聴こえてきたり、フレージングもすごく勉強になりました。繊細な作り方を勉強できるのを楽しみにしています。

牛田:実は、シュトラウスの青年期以降の大作は、あまりに神々しすぎて、人間らしさから離れる瞬間があるんじゃないかと思っているんです。しかし初期の作品は非常に人間的で本質的。そして本当に美しい作品ばかり。その魅力的な音の配置に浸るのは、すごく幸せな瞬間だと思います。知的で深みある三人と一緒に弾けることが嬉しいですし、ぜひ客席の皆さんと共有できたらなと思っています。

牛田智大室内楽プロジェクト Vol.4
若き日の肖像 ~リヒャルト・シュトラウス ピアノ室内楽作品集~

11月14日(土) 15:00
北九州市立響ホール (福岡県)
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2613672

11月15日(日) 14:00
やまと芸術文化ホール メインホール (神奈川県)
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2628875

11月18日(水) 19:00
第一生命ホール (東京都)
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2666157

11月20日(金) 18:30
町田市民ホール (東京都)

11月22日(日) 14:00
大垣市スイトピアセンター 音楽堂 (岐阜県)

11月23日(月・祝) 14:00
掛川市生涯学習センター (静岡県)

https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2669481

取材・文=宮本明

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