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《イタリアのトルコ人》で新国立劇場開幕。「声」の饗宴が楽しすぎる!

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撮影:飯田耕治 提供:新国立劇場

10月2日(金)、新国立劇場のオペラ2026/27シーズンが開幕する。初日直前の最終舞台稽古を取材した。

開幕の演目はロッシーニ《イタリアのトルコ人》(新制作)。浮気と嫉妬・未練が入り乱れる恋愛喜劇を、声のアンサンブルの魅力全開で彩る華やかなベルカント・オペラだ。上演機会の少ない、隠れた名作。

ナポリの商人ジェローニオは、恋多き若き妻フィオリッラに手を焼いている。トルコの王子セリムが現れると、フィオリッラはさっそく興味津々。そこにセリムの元恋人ザイダも絡む。妻を心配するジェローニオ。フィオリッラに言い寄るセリム。セリムを取り戻したいザイダ。恋する人々の思惑が入り乱れ、さらにこの混乱を「喜劇の題材」として面白がる詩人プロスドーチモまで加わって、話はどんどんややこしくなっていく。

ロラン・ペリー演出による新制作の舞台は、テアトロ・レアル(マドリード)、リヨン歌劇場、新国立劇場の共同制作。2023年5月にマドリードで、2024年にリヨンで初演された。海外では、「ロッシーニの喜劇に対する生来の本能を発揮した、輝かしく、楽しいプロダクション」(エル・パイス紙)、「面白く、愉快で、熱狂的な舞台」(オペラワイヤ)といった好評を得た。

今回の東京初演はキャストを一新。ロッシーニの聖地ペーザロのアカデミーの出身者や同地のロッシーニ・オペラ・フェスティバルの常連など、“ロッシーニ・エキスパート”たちが名を連ねている。

まず耳を奪われるのが、フィオリッラ役クラウディア・ムスキオ(ソプラノ)の華やかな歌声だ。鮮やかなアジリタ(コロラトゥーラ)を自在に操りながら、恋することを楽しむフィオリッラの奔放さを生き生きと描き出す。全幕を通して大半の場面で歌っているような大変な役だ。

そのフィオリッラと絶妙な掛け合いを聴かせるのが、夫ジェローニオ役のパオロ・ボルドーニャ(バス・バリトン)。ふたりの重唱では、彼女をもてあます夫と、悪びれる様子もなく高飛車な妻の関係が、声の絡み合いそのものから伝わってくる。歌が進むほどに互いの声が入り乱れ、ロッシーニらしい機知に富んだアンサンブルの面白さが際立つ。

さらにジェローニオには、トルコ人セリム役のアレハンドロ・バリニャス・ビエイテス(バス)との、低声歌手同士、スリリングな直接対決の二重唱も待っている。「フィオリッラを金で買い取る」と迫るセリムと激怒するジェローニオ。彼女をめぐって対立する二人が声を交わすことで音楽の表情も変化する。

撮影:飯田耕治 提供:新国立劇場

ひとりの歌手が別の歌手と組むたびに声の色も変わり、人物同士の関係がそのままアンサンブルの面白さにつながっていく。この作品では、こうした重唱やアンサンブルこそが大きな聴きどころだ。

とはいえ、フィオリッラの元愛人ナルチーゾ役のルジル・ガティン(テノール)が、ハイDを聴かせたあと、最後を長いハイCで締めて、「どうだ!」とばかりに胸をはだけるアリア〈私の企てを助けてくれ〉(第2幕)など、個々の聴きどころにも事欠かない。

そして、歌だけでなく芝居の面白さでも目を引くのが、詩人プロスドーチモ役のブルーノ・タッディア(バリトン)だ。芝居と音楽一体で、この作品の二重構造の面白さ(後述)を際立たせる。

指揮のアレッサンドロ・ボナートも、ロッシーニ解釈に定評があるイタリアの注目の若手(1995年生まれ)。今夏もペーザロの《なりゆき泥棒》で高評価を受けた。序曲から軽快なテンポと緩急のメリハリで音楽を生き生きと動かしながら、歌手たちとオーケストラ、そして芝居を巧みに結びつけていく。特徴的なロッシーニの長大なクレッシェンドも、単なる音量の盛り上がりではなく、舞台上の騒動が次第に膨らんでいくように響く(管弦楽=東京フィルハーモニー交響楽団)。

そして今回、大きく目を引くのがロラン・ペリーの演出だ。《イタリアのトルコ人》には、少し変わった二重構造がある。詩人プロスドーチモは、恋愛や騒動が繰り広げられる舞台上の世界に生きている。ところが彼は、当事者でありながら、観客と同じように騒動を面白がる。それを「喜劇の題材」として眺めながら、物語に介入さえするのだ。

ペリー演出がユニークなのは、この二重構造を「フォトノベル」という具体的な形にしたこと。フォトノベルとは、写真をコマ割りして台詞を添えた、いわば実写版のマンガのようなものだ。

舞台は20世紀半ば。冴えない夫にイライラしながら毎日を過ごしているフィオリッラが夢中になっているのがフォトノベルだ。やがてトルコ人セリムが、巨大な本の中から抜け出してくる。ちなみにその本の元ネタは、若き日のソフィア・ローレンが写真モデルをしていたという『Non posso amarti(愛してはいけない)』。1950年代にヒットしたフォトノベルだそう。

撮影:飯田耕治 提供:新国立劇場

舞台には巨大化した本のページも現れ、よく見ると、歌っている歌詞の吹き出しやト書きまで書き込まれている。登場人物たちはそのコマ割りや写真のふち取り枠を出たり入ったり、本の世界と現実の世界を行き来する。しかしふたつの世界の境目は次第に曖昧になっていく。彼らは大真面目に恋をしたり、嫉妬したり、騒動を繰り広げているのに、観客から見ると、それさえもフォトノベルのページの中で展開する出来事に見えてくる。この恋愛喜劇を、少し離れたところから眺めるような、もうひとつのおかしさが生まれる仕掛けだ。

レトロポップで少しキッチュなヴィジュアルの中で繰り広げられる、圧巻のベルカントの饗宴。思わず笑ってしまうほど精緻で痛快な声のアンサンブル。すべてが芝居と一体となって弾ける舞台に、いやがうえにも気分は浮き立つ。楽しすぎる!

新国立劇場の《イタリアのトルコ人》は10月2日(金)から10月12日(月・祝)まで全5公演、東京・初台の新国立劇場オペラパレスで。全2幕。上演時間は約3時間(25分間の休憩含む)。

新国立劇場オペラ《イタリアのトルコ人》

10月2日(金) 18:00
10月4日(日) 14:00
10月7日(水) 14:00
10月10日(土) 14:00
10月12日(月・祝) 13:00
新国立劇場オペラパレス

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2668701

取材・文:宮本明

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