「まるでプロレスのようなお芝居」 舞台『僕らの時代じゃない』開幕コメント&舞台写真公開【レポート】
ステージ
ニュース
『僕らの時代じゃない』 撮影:宮川舞子
続きを読むフォトギャラリー(8件)
すべて見る10月8日(木)東京・紀伊國屋ホールにて、作・演出:三浦大輔、出演:森田剛、鈴木杏、峯田和伸による舞台『僕らの時代じゃない』が開幕。公演レポートとスタッフ・キャストコメント、舞台写真が到着した。
物語の舞台は、どこの街の片隅にもありそうな平凡な居酒屋。ここに正装姿の男女……菅原裕一(森田剛)、鈴木里美(鈴木杏)、今井伸二(峯田和伸)が現れる。彼らは、高校の同級生である芸能人、加藤勇と橋本香の結婚式と2次会に出席した後、この居酒屋にやってきた。加藤と香はかつてSNSで激しい誹謗中傷を受けていたが、苦難を乗り越えてゴールイン。ビッグカップルの結婚はマスコミにも取り上げられ、大いに世間を賑わせている。

そんな派手で華やかな同級生とは対照的な人生を歩むのが、今作の登場人物3人だ。俳優の夢をあきらめて結婚するも別居し、ひとりで子ども2人を育てる里美。プロのミュージシャンを目指すもバンドが解散し、東京から遠く離れた実家に戻り、会社員として働く今井。自主映画の監督でありながら、バイトで生計を立てる菅原。やがて里美と今井は、菅原に、ある“聞きたいこと”を切り出し──。
観客は、3人がなぜこの居酒屋にやってきたのかを、どことなく気まずい空気、ぎこちない会話の中から少しずつ、少しずつ理解していく。そこから見えてくる“真実”は、芸能人のスキャンダラスなトピックも絡めながら、なかなかにキツい暴露を含むのだが、どんどん時間が深くなり、グラスが空くたび、さらには酩酊していくにつれて、お互いの本音がぶつかる場面は大きな見どころ(飛び交うおしぼり!)。

語る言葉も少なく身体で語るような“静”の序盤から、大きく変化してくダイナミズムが見事な森田、対話相手の演技をさすがの演劇的反射能力でキャッチして打ち返していく鈴木、嘘のない台詞とトリックスターのような存在感の峯田という組み合わせも秀逸。ワンシチュエーション、会話だけで成立する逃げ場なしの「THE 演劇」の構造は、役者の力量が問われる難易度の高さ。だが3人の素晴らしいバランスで、生き物のような空間を生み出していた。次々と空けられるグラスを淡々と片づける姿が“いかにも”の、深夜の居酒屋店員を演じる役者(グッド良平。/久保嗣のWキャスト)は、リアリティを増幅させる存在。
そして改めて、「問題作」「衝撃作」を次々と送り出してきた三浦大輔の、“らしさ”と新たな側面を発見するような劇作と演出にも唸らされた。普通、同級生・結婚式帰り・居酒屋……なんて題材が揃うと、中年が思い出を語り、傷を舐め合うノスタルジックな甘い展開になりそうなところ。しかし、登場人物を「接点のなかった3人」にすることで、どちらに転がっていくのか予想もつかない、緊張感あるドラマを生み出すことに成功している(居酒屋の壁に掛かる「絆」という額がアイロニックだ)。

若い頃に思い描いていた未来像とはほど遠い、人生にある程度折り合いをつけた彼らの会話からは哀愁が漂う。それでいて、嫉妬や羨望、自己顕示欲や焦りなどのかけらもまだわずかに残るお年頃……この、まだまだ円熟とは程遠い年齢設定も大きな肝だろう。
何気ない発言も常に検閲されているような、SNS/コンプラ時代、令和の新しい価値観へのアップデートを迫られつつも、昭和の感覚にも親しんできてしまった、板挟みに苦しむ哀しき40代を描くというチョイスも憎い。人間の内部が露わになる場所として、居酒屋というアジール(自由領域)を舞台に選んだのも納得である。生身の人生はSNSの画面ではなく、安居酒屋から帰りそびれて頼んだ「もう一杯」を身体に流し込む、どうしようもない時間にあることを、もう若くない大人はしみじみ知っている。

また、三浦作品を追う演劇ファンにとっては、面白い発見や更新を感じる舞台かもしれない。たとえば、橋本香と加藤勇という役名。これは三浦が書いた前作『ハザカイキ』(2024年)にも登場した芸能人の名前だ。芸能界を舞台に演劇的思考/手法をエンタメとして昇華した前作でも、ひとりのアイドルの本音が記者会見の形でとうとうと語られる台詞が大きなハイライトだった。今作ではその発展形のような長台詞を、登場人物全員が吐くのが聞きどころ。価値観の変化に揺り動かされる人々、しかもそれがタレントという別世界の住人ではなく、一般人の視点から語られる点においては、前作より客席に刺さる要素がグッと増すと予想する。
さらにさかのぼれば……三浦の初期代表作のひとつ『愛の渦』(2005年)は、高級マンションの一室で行われる乱交パーティーを描いた衝撃作だったが、同じ一晩の男女の物語でも、今作で描かれる人間の心のひだは、ひとりの劇作家の変化を鮮やかに感じさせるのに十分なものである。ここに描かれる人々は随分と饒舌だけど、語れば語るほどみっともなくて情けない。でもその姿こそが滑稽で人間くさい。あいかわらず「実験室」のような、徹底的に突き放した視点で人間を見つめる視点は健在。ただおそらく観客の多くは、人間存在のちっぽけさを「これでもか」と見せつけられた先に、より複雑な味わい、人生の苦み、ほんのひとさじの爽快感を発見するだろう。
取材・文:川添史子
撮影:宮川舞子
<コメント>
■三浦大輔(作・演出)
前作『ハザカイキ』と同じく、価値観の変化に揺り動かされる人間を描きたい。そう思ったことがこの作品の始まりになりました。ただ、問題提起をするような社会派の作品にするつもりはないんです。あくまで、この状況をエンタテインメントに落とし込み、ある種の喜劇になればと思いました。
出演者のキャスティングも、いい意味で、本当にでこぼこした3人で、個性が際立ちすぎているくらい際立っていて。でも、この3人じゃなければ、この芝居は成立しなかったとさえ思えるほど、しっくりいってます。奇跡のバランスだと思っています。
登場人物にさまざまな共感や反感を抱くことになるかと思いますが、それも含めて、人間ってこういうもんだよなと楽しんでいただけたらと思っています。
■森田剛
ワクワクしています!
ドキドキもしてますが、ワクワクしています!
このワクワクはなんなんでしょう、とにかくワクワクしています!
皆さんもワクワクしながら劇場にお越し下さい!
■鈴木杏
約1カ月、濃密な稽古ができて、奇跡の座組だなと感じています。
とにかく言葉の応酬で、まるでプロレスのようなお芝居です。まさに今だからこそ生まれた作品です。観にきてくださった方にも共感していただける部分がたくさんあると思います。
いよいよ開幕します! かなり濃い演劇体験をしていただけるはずです。新鮮さを失わず、ライブ感を大切に、毎日舞台に立ちたいですし、思いっきり楽しんでいただけるように、全身全霊で務めます。劇場でお待ちしております。
■峯田和伸
初めて台本を読んだとき、こんなに面白い話があってたまるか、と部屋で卒倒しました。同時にこんな量の台詞は果たして覚えられるのかと絶望しました。そして開演前の今現在も、興奮と恐怖に打ち震えています。森田剛さん、鈴木杏さんと壇上で心中する覚悟です。
この作品は、一見、いいひとにみえて実は底意地が汚かったり。パッと見、だめな奴かとおもいきや本当はやさしい人間だったり。そんな、僕らみたいな「普通の人間たち」が織りなす、流動物が飛び散りまくる、正直でまっすぐなドラマだと思います。
「なんだかんだ言って、本当にずっとずっと観たかったのは、こういう人間のドラマだった!」と思ってもらえたら嬉しいです。ネットでもテレビでも映画でも体験できない、はだかのお芝居を観てほしいです。
<公演情報>
『僕らの時代じゃない』
作・演出:三浦大輔
出演:森田剛、鈴木杏、峯田和伸
【東京公演】
10月8日(木)~27日(火)
会場:紀伊國屋ホール
【愛知公演】
11月7日(土)・8日(日)
会場:穂の国とよはし芸術劇場 PLAT 主ホール
【京都公演】
11月14日(土)~16日(月)
会場:京都劇場
公式サイト:
https://bokuranojidaijanai.jp/
フォトギャラリー(8件)
すべて見る
