【インタビュー】アジアパラ開閉会式総合プロデューサー・栗栖良依「愛知で紡ぐ、市民参加型の式典」
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東京2020パラリンピック競技大会をはじめ、これまで数々の大型国際大会でアクセシビリティや演出の総合監修を手がけてきた栗栖良依(くりす・よしえ)。2026年秋に開催される「愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会」では、開閉会式の総合プロデューサーとして舵を取る。 一度は手放しかけた夢、パラリンピック開会式との出会い、限られた準備期間の中で固めた覚悟、そして市民とともに作り上げる「参加型式典」への想いから愛知の地で表現する共生社会の未来まで話を聞いた。
病を乗り越えて出会った「パラリンピック開会式」という新たな夢
── まずは、クリエイティブの道を志した原点についてお聞かせください。
16歳の時、テレビで見たリレハンメルオリンピック開会式の演出に魅せられ、「将来、開会式の演出を手がけたい」という夢を抱きました。その当時まだ東京にオリンピックが来るかどうかもわからないような時代から、大学進学もキャリアもすべてそのために選択してきたのですが、2010年に骨肉腫を罹患し、一年間の治療生活に入りました。「来年生きているかもわからない」という状況の中で、一度はその夢を手放さざるを得なくなりました。
その後、障害者手帳を取得して社会復帰するタイミングで、障害者施設にアーティストを派遣してものづくりをするプロジェクトのオファーをいただきました。もし病気でオリンピックの開会式をするという夢を手放していなかったら、引き受けていないかもしれない仕事でした。もう夢も仕事も何もかも失ったというか、何もやることがない状態だったので、「私にできることであれば」と引き受けました。そこで初めて、障害のある方々とクリエイティブな活動を共にし、多様な方々と接する中で、その面白さと可能性に夢中になりました。
── そこからパラリンピックの式典へと想いが繋がっていくのですね。
はい。本当に五年生存率が低くて、来年生きているかわからない状況の中、2012年ロンドンパラリンピックの開会式を見ました。あまりの素晴らしい内容に大きな衝撃を受けました。「今度はパラリンピックの開会式を手がけたい」と夢がアップデートされた瞬間です。
その後、東京にオリンピック・パラリンピックがくるということも決まり、東京のパラリンピックの開会式に向けて活動を始めました。障害のある・なしに関わらずパフォーマンスに参加できるインフラ整備や人材育成、アクセスコーディネーターという専門職の育成に邁進してきました。
違うまま、一緒に。愛知から世界へ届ける「WABI」のカタチ
── 今回のアジアパラ競技大会の開閉会式の演出のテーマを教えてください。
演出テーマとして「WABI(We Are Beautiful Individuals)」を掲げています。愛知が誇る「茶の湯(侘び・寂び)」の文化を現代的に再解釈したコンセプトです。 障害の有無に関わらず、私たちは一人ひとりが異なる個性と強さを持った存在(Beautiful Individuals)です。私たちひとりひとりの異なる強さや違いをかけ合わせて、ともに面白い未来をつくっていこう、そんな想いを込めています。
── 一人ひとりの違いを生かす「WABI」というテーマですが、栗栖さんが総合プロデューサーとして舵を取ること自体にも、大きな意味を感じますね。
日本の大型式典において、障害のある当事者や女性が総合プロデュースを手がける機会はまだ多くありません。これまで演出の提案やアドバイスをする立場として関わる中で、「もっとこうできたらいいのに」と形にしきれなかったアイデアもたくさんありました。今回、総合プロデューサーとして演出の決定権を持てる立場になれたことは、私にとって大きなことです。私自身が障害当事者としての目線を持ってこの立場に立つことにも、ひとつの意味があると感じています。
そしてアジア各国のパラアスリートたちには、経済的・政治的な事情や環境の壁など、日本の環境からは想像もつかないような過酷な困難を乗り越えて、この愛知・名古屋へやってくる方々が大勢います。競技用車いす一台を準備するのも簡単なことではない国もたくさんあると思います。だからこそ、そうした選手たちを地域全体で心から温かく迎え入れる気運を作り出すことが、プロデューサーとしての私の使命だと思っています。
── 特に大切にしたい演出の視点について教えてください。
従来のセレモニーは「当日までのお楽しみ」という非公開型の作り方が一般的ですが、今回は「つくるプロセスを公開し、みんなで作り上げる参加型・体験型プログラム」にしています。 式典を構成する象徴的な2つのモチーフである「ウェルカムゲート」と「聖火台」を、市民の皆さんや職人さんたちと共に手作業で制作する取り組みを行いました。華やかな本番という「ハレ」の時間は、日々の丁寧な「ケ」の営みの積み重ねがあってこそ輝くので、本番だけでなく準備の期間も参加型で一緒につくることを大切にしています。
── 愛知ならではの伝統産業や風土が大きく活かされるプロジェクトですね。
その通りです。愛知は尾州や三河、知多など世界に誇る繊維産業の街であり、瀬戸や常滑、三州瓦といった上質な粘土と焼き物の産地でもあります。
アジア各国から愛知へやってくる選手を迎えるウェルカムゲートは、繊維のデッドストックを活用し、市民の手で稲藁を綯(な)う手法で作り上げます。大会準備で剥がされた芝生や公園の整備などで出た草木なども再利用し、異なる産地の布と再生された自然素材が一つに織り込まれ、選手を温かく迎える象徴的な造形となります。
そして聖火台は、瀬戸・常滑・三州という愛知を代表する三つの窯業地の土や技術を生かしてつくられます。独立して営まれるそれぞれの産地が、互いの強さや違いを活かしながら一つの聖火台を協業で生み出すこと自体が、WABIの体現です。完成品を見るだけでなく、準備段階から地域の方々に関わっていただくことで、大会を自分事として捉え、愛知の地場産業や風土を再発見する「シビックプライド」の醸成に繋げたいと思っています。
── 最後に、開催を楽しみにしているファンの皆様や市民の方々へメッセージをお願いします。
開会式において最高の演出効果を生み出すのは、何よりも「観客の皆様の声援と熱気」です。手を振り、歓声を送る客席の存在こそが、選手にとって一番のエネルギーになります。 式典の制作プロセスから当日まで、障害のある人もない人も一緒になって手を取り合い、この大会を盛り上げていけたら嬉しいです。
プロフィール
栗栖 良依(くりす よしえ)
東京都出身。「日常における非日常」をテーマに、市民参加型のアートプロジェクトを手がける。2010年に骨肉腫を罹患し、SLOW LABELを設立。東京2020大会の開閉会式ではステージアドバイザーとしてアクセシビリティとDE&Iを総合監修。愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会 開閉会式総合プロデューサー。
【開催概要】
愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会
開催期間:10月18日から10月24日(土)まで
開催地:愛知県・名古屋市 ほか
実施競技: 全18競技
主催: 公益財団法人愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会(AINAGOC)
チケット:https://t.pia.jp/pia/events/para-aichi-nagoya2026/

