EXILE ATSUSHI、歌手としてのストイックな姿勢 『TRADITIONAL BEST』で見せた深化
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平成最後の日にして、EXILE ATSUSHIの39歳の誕生日だった2019年4月30日、アルバム『TRADITIONAL BEST』がリリースされた。
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そのテーマは「日本の心」。「ふるさと」「赤とんぼ」といった童謡や唱歌、美空ひばりの「愛燦燦」、中島みゆきの「糸」、古謝美佐子の「童神」などのカバーのほか、作曲家の久石譲と共作した「懺悔」「天音」、ピアニストの辻井伸行と共作した「それでも、生きてゆく」などが収録されている。
ATSUSHIというと、EXILEのダンスナンバーで歌うボーカリストというイメージが強いかもしれない。しかし、『TRADITIONAL BEST』に収録されている楽曲の多くが初めてCD化されたのは2014年の『Music』であり、当時からすでに「日本の心」を歌っていたのもまたATSUSHIである。
振り返ってみれば、ATSUSHIほど「歌手」というキャリアしか選んでこなかった人物も珍しい。彼の歌へのストイックな姿勢が、アコーステック楽器主体の伴奏とともに浮かびあがっているのが『TRADITIONAL BEST』だ。ここでの彼は、表現者としての過剰なエゴを入れることなく、ただひたすらに楽曲と向き合おうとする。その結果、楽曲の持つ素の魅力が引きだされているのだ。
そうしたATSUSHIの歌手としての姿勢は、2018年11月にリリースされたシングル『Suddenly / RED SOUL BLUE DRAGON』でもはっきりとしていた。ATSUSHIのソロ曲と、彼が率いるバンド・RED DIAMOND DOGSの楽曲からなる両A面シングルだった。
「Suddenly」は、ピアノに導かれるジャジーなナンバーで、ATSUSHIのボーカルのなかでも高い音域が駆使されるバラード。ピアノ、ウッドベース、ドラムの演奏から始まり、中盤からはブラスセクションも色を添えていく。
「Suddenly」では、「他に好きな人がいるの…」と語る女性との恋愛を忘れられない主人公の想いが歌われる。随所で使われているATSUSHIのファルセットといい、非常に技巧的なボーカルを聴かせる楽曲だ。EXILEとも異なるATSUSHIのボーカリストとしての魅力を前面に押しだしていた。
RED DIAMOND DOGS feat. DOBERMAN INFINITY, JAY’ED, MABUによる「RED SOUL BLUE DRAGON」は、ロックサウンドにヒップホップの要素をミクスチャーした楽曲。「RED SOUL BLUE DRAGON」を聴いていると、2018年のツアー『EXILE LIVE TOUR 2018-2019 “STAR OF WISH”』におけるヒップホップ濃度の高さも思いだす。バンドというスタイルながら、そのサウンドはアメリカのヒップホップを念頭に置いたもの。バンドとMCたちによって、独自のアプローチでヒップホップへ接近しているのが「RED SOUL BLUE DRAGON」の特徴となっていた。
ATSUSHIによるバラードの「Suddenly」と、RED DIAMOND DOGSによるヒップホップ色の濃い「RED SOUL BLUE DRAGON」は、180度異なると言っていいほどのサウンドだ。しかし、その両方を難なく自身のものにしてしまうのがATSUSHIでもある。
その『Suddenly / RED SOUL BLUE DRAGON』の次にATSUSHIが届けたのが『TRADITIONAL BEST』である。ここで初収録となった「この道」は、北原白秋作詞、山田耕筰による童謡。ピアノと管弦楽器の伴奏に乗せ、ATSUSHIはひとつひとつの音に情感を込めていく。しかし、情感を滲ませすぎることはしない。そうしたボーカルのコントロールが絶妙なのだ。
『TRADITIONAL BEST』の音源のうち、もっとも古いものは2012年の『Solo』に収録されていた、オフコースの「言葉にできない」のカバーだろう。『TRADITIONAL BEST』は、2012年から2019年までのATSUSHIの歌手としての深化を雄弁に物語る。さまざまなサウンドに挑んできたATSUSHIだからこそ、歌の説得力を十二分に発揮しているのが『TRADITIONAL BEST』なのだ。(宗像明将)