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印象派の殿堂コートールド美術館から マネ最晩年の傑作ほか約60点が来日

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印象派・ポスト印象派の殿堂として知られる、イギリス・ロンドンのコートールド美術館の名品約60点を紹介する『コートールド美術館展 魅惑の印象派』が9月10日(火)より東京都美術館で開催されることが決定。5月17日(金)に同館にて報道発表会が行われた。

コートールド美術館 外観

レーヨンで莫大な財を成したイギリスの実業家サミュエル・コートールドが収集したコレクションを核に、ロンドン大学付属のコートールド美術研究所の展示施設として1932年に開館したコートールド美術館。通常めったに貸し出されることのない同館の収蔵作品だが、昨年からの改修工事に伴い、そのなかから選りすぐりの名品が約20年ぶりに来日することとなった。

同展は、コートールド美術研究所が美術史や保存修復の世界的研究機関であることにも注目し、画家の語った言葉や同時代の状況、制作の背景、科学調査により明らかになった制作の過程なども紹介し、作品を読み解くもの。「画家の言葉から読み解く」「映された時代から読み解く」「素材・技法から読み解く」の3章で構成される。

エドゥアール・マネ《フォリー=ベルジェールのバー》1882年 油彩、カンヴァス 96×130cm コートールド美術館 © Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

注目作品は、メイン・ビジュアルにも使用されている、エドゥアール・マネ最晩年の傑作《フォリー=ベルジェールのバー》(1882)だ。「フォリー=ベルジェール」は当時のパリで、一夜の刺激や楽しみを提供する場として人気を博したミュージックホールだ。近代的な光に照らされた豪華な内装、煌めくシャンデリアで彩られた店内では、お酒や料理だけでなく、歌、踊り、曲芸など多彩な出し物で人々を楽しませたという。中にはカンガルーのボクシングまで催されたというから驚きだ。

無数の観客と喧騒に包まれた同ホールを描いた本作は、鏡の中は素早く粗い筆致で描かれる一方、手前の大理石のカウンターに置かれたお酒のボトルやオレンジは丁寧に描写されるなど、そのコントラストが面白い。また、表情が読み取りにくいバーメイドや画面の大半を占める鏡、その鏡に映る不自然に右に大きくずれた後ろ姿などが、発表以来様々な議論を呼んでいる。

報道発表会では作家・ドイツ文学者の中野京子氏のスペシャルトークも行われた

報道発表会には、特別ゲストとして作家・ドイツ文学者であり、2017年「怖い絵展」特別監修も務めた中野京子氏が登壇。同展で注目するマネの《フォリー=ベルジェールのバー》と、ポール・ゴーガンの《ネヴァーモア》について解説した。

「《フォリー=ベルジェールのバー》は、マネの事実上の絶筆とも言える作品。若い頃に罹患した病気のために、手足の麻痺や痛みに苦しんでいた中での作品にも関わらず、とても力強く、マネらしい大傑作です。この作品の舞台となっているフォリー=ベルジェールはあらゆる階層、職業の人が楽しめた歓楽施設。バーカウンターの上には、富裕層向けの高級シャンパンから、低所得者用の安価なイギリスさんビールまで取り揃えられています。食事やお酒、おしゃべりも楽しめる、一種の社交場でもありました。」

さらに、画面左上に描かれた曲芸師の足も注目すべきポイントだという。

「当時の空中ブランコ乗りは危険が伴うものの、とても報酬が良かったので、貧しい労働者階級の女性の憧れの仕事でした。そんなブランコ乗りになりたくて、少女の頃から働きづめで母親を養い、とうとうブランコ乗りになった少女がいます。しかし彼女もブランコから落ちて怪我をし、曲芸師から引退。その後、画家のモデルになり、自身も画家になり、息子も画家になりました。それがモーリス・ユトリロの母、シュザンヌ・ヴァラドン(1865−1938)です。もしかしたらこの絵に描かれた曲芸師が、シュザンヌだったかもしれない。そんなことも想像させられる、時代を反映した作品だと思います」

このようにヴァラドンのエピソードも交えて、本作の楽しみ方を教えてくれた。

ポール・ゴーガン《ネヴァーモア》1897年 油彩、カンヴァス 60.5×116cm コートールド美術館 © Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

さらに、ポール・ゴーガン《ネヴァーモア》については、

「画面に描かれたカラスと“NEVERMORE”の文字から、この作品がエドガー・アラン・ポーの物語詩『大鴉』から着想を得たことは間違いないでしょう。本人は否定していますが(笑)。ゴーガンについては多くの人が人跡未踏の地に赴いた野性的な人というイメージだと思いますが、実はとってもインテリだったんです。株の仲買人として成功をおさめていたにも関わらず突然画家に転身し、波乱万丈な人生を送った人。その辺りを知ると、もっと絵が面白くなりますね」

ポール・セザンヌ《カード遊びをする人々》1892-96年頃 油彩、カンヴァス 60×73cm コートールド美術館 © Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)
ピエール=オーギュスト・ルノワール《桟敷席》1874年 油彩、カンヴァス 80×63.5cm コートールド美術館 © Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)
アメデオ・モディリアーニ《裸婦》1916年頃 油彩、カンヴァス 92.4×59.8cm コートールド美術館 © Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

同展ではほかにも、コートールド美術館が誇る世界有数のセザンヌ・コレクションから油彩10点とセザンヌがエミール・ベルナールに宛てた手紙9通も公開。ほかにも、ルノワールが第1回印象派展に出品した《桟敷席》(1874)、様々な技法を駆使して描かれたモディリアーニの《裸婦》(1916頃)、華やかなパリを鋭い観察眼で捉え、描いたアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの《ジャヌ・アヴリル、ムーラン・ルージュの入り口にて》などが展示される。

東京都美術館での開催は9月10日(火)から12月15日(日)まで。その後、2020年1月3日(金)~3月15日(日)に愛知県美術館、3月28日(土)~6月21日(日)に神戸市立博物館へ巡回する。