『装甲騎兵ボトムズ』×押井守はいかにして実現したのか? 髙橋良輔との“約束”と新キャラ誕生秘話【押井守監督インタビュー・前編】
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すべて見るあの“ボトムズ”を、押井守が監督する――。サンライズ50周年記念作品となる『装甲騎兵ボトムズ 灰色の魔女』で描かれるのは、戦場を生きるふたりの女性、アッシュとマキの物語だ。「魔女は私のメインテーマ」と言いきる押井監督の眼前に、果たしてどのようなビジョンが広がっていたのか? 全3回にわたり濃密な制作秘話をお届けする特別インタビュー、まずは企画の始動から新キャラクター誕生の裏側に迫る【前編】。

――この企画はどういう経緯で押井さんのもとに来たのですか?
押井 5年くらい前、当時のバンナム(バンダイナムコフィルムワークス)の浅沼(誠)社長からオファーされたのが始まりだった。ホワイトベース(バンダイナムコフィルムワークス社のオフィスの通称)がオープンしたとき表敬訪問したんだけど、そのとき彼が開口一番、「押井さん、“ボトムズ”やりません?」というから、一も二もなく「やる!」って答えちゃった(笑)。なぜなら、私はずーっと「“ボトムズ”をやりたい!」と言い続けていたから。他の仕事で(髙橋)良輔さんと対談したときもそう言ったし、良輔さんからは「そんな企画が浮上したらぜひ」と言われていたからね。
とはいえ、これがサンライズの50周年記念作品だというのも知らなかったし、この15年間、関連作がつくられていなかったのも知らなかった。『ボトムズ』にはたくさんのスピンオフがあるので、その辺ちゃんとチェックしていなかったんだよ。
で、私の方から条件をひとつ出した。「良輔さんに会わせてほしい。直接許可をいただかないと監督はできない。これは良輔さんの作品だから」ってね。若い頃の私はイケイケだったので、良輔さんにはそういう態度を軽くたしなまれたこともあって、ちゃんとお詫びしたいという気持ちもあった。だから「その昔は大変失礼いたしました。申し訳ございません。『ボトムズ』をやることになったのですが、私がやってもよろしいでしょうか?」というところから始めたの。

――髙橋さんは何ておっしゃいました?
押井 「はい、好きにやってくださって構いません」と言いつつ、ひとつだけ守ってほしいことがあると言って「核攻撃。原爆の話は絶対にダメです」って。良輔さん、そういう世代なんだよ。確かに彼の作品でキノコ雲、見たことないような気がするし。
――押井さんはやりまくってますよね。だから釘を刺されたのでは?
押井 もしかしたらね(笑)。『うる星やつら』を筆頭に数えきれないほど出しているから(笑)。とはいえ今回は「分かりました。それはちゃんと守ります」といって、やっと心理的にもつくれることになった。
――でも今回、メカを除くと新キャラばかりです。これは?
押井 そうやって良輔さんと話したとき、直感的に思ったのはシリーズの主人公、キリコの話はできないだろうということ。やっぱりキリコは良輔さんのキャラだから。私も『ケータイ捜査官』シリーズを2本やらせてもらったけど、(総監督の)三池(崇史)さんに「何をやってもいいでしょうか?」というお伺いを立て許可をいただき、三池さんたちのアイデアであるケータイロボット(フォンブレイバー)は引き出しに入れたままという設定で使わなかった。やっぱり、そういうキャラクターはその監督のものだから使えないんだよ。
今回もそう。だからシリーズものだと、私の場合はスピンオフになる。良輔さんに「どうせキリコは出さないでしょ?」とは言われなかったけど、私の耳にはそう聴こえたの(笑)。

――今回はそのキリコに代わって、『ボトムズ』シリーズにとっては新キャラであるふたりの女性が登場します。必ず戦場から生きて帰ることから“魔女”と呼ばれている曹長、アッシュ・ヴァンプスと、彼女を調査するためにやってくる宣伝中隊の大尉、マキ・シュタウフェンベルクです。アッシュは『アヴァロン』のヒロインと同じ名前、マキはラジオドラマ化もされた押井さんの小説『ケルベロス 鋼鉄の猟犬』の主人公と姓名ともに同じです。マキは仕事も同じですよね。
押井 同じ名前のキャラクターを違う作品に出す。そういうの、私はよくやるから(笑)。その辺は、観てのお楽しみって感じかな。そもそも私、キャラクターの名前を考えるのが苦手。サッカー選手とか実在の人物からいただいていることがほとんど(笑)。
――なるほど! だからといってキャラデザインも準じてるわけじゃないんですよね?
押井 キャラデザインに関しては実在する俳優をベースに描いてもらった。アッシュとマキも好きな役者をイメージしながら作っていった。オリジナルのキャラクターを作り出すのはそう簡単じゃない。小説の場合もそう。実在の誰かを拠り所にするものなんですよ。

――あの絶えず動いている前髪も押井さんのアイデア?
押井 いや、あれは、今回のキャラデザインの原案をやってくれた黄瀬(和哉)。動かすのが大変なんだから(笑)。髪型でいうと、アッシュはパッツンのボブカットで強烈な女。私、めんどくさい女性が大好きだから(笑)。「またおかっぱか」という人がいても、これが私の原型だから仕方ない。おかっぱは私にとって女性の原型。原型という意味は、絶えずそこから発想されるということです。
――“魔女”にもこだわりがありますよね。
押井 この企画が浮上したとき、真っ先に頭に浮かんだアイデアが“魔女”だった。“魔女”は私のメインテーマと言ってもいい、多くの監督と同じように! “魔女”とは何なのか? 私にとってそれが映画でも小説でも、作り続けるときのメインテーマですよ。
みんな魔女を描こうとしているでしょ? (ロマン・)ポランスキーはその典型。だから好きなんだけどさ。もうひとつの典型が“少女”。これも永遠のテーマだよ。少女と魔女、実はこのふたつは同一のもの。少女であろうがおばさんであろうが、どちらにしても魔女なんです。
じゃあ、なぜ執着するのかといえば、それは魔性の存在だから。彼女たちは、姿かたちが違うだけで同じ魔女。映画は言ってみれば、そんな“運命の女”を巡る物語なんです。映画に少女や魔女をテーマにするものが多い理由のひとつは、監督に男性が多いからだと思うよ。
――ガンダムも「水星の魔女」「キルケーの魔女」でしたね。
押井 そうそう。“水星の魔女”(22年~23年にオンエアされた『機動戦士ガンダム 水星の魔女』)とか、“キルケーの魔女”(26年に劇場公開された『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』)、そして今度は『灰色の魔女』と、バンナム周辺に“魔女”がひしめいている。だから、このタイトルを出したときに言われたのは、「あのお、この“魔女”、変更できませんか?」だった。もちろん「外せません! 魔女の話をやるんだから」って突っぱねましたけどね。
――魔女候補は3人いますよね? 「灰色」の意味も気になりますが。
押井 今回は魔女を巡るお話であることは間違いないよ。「灰色」の意味もいずれ分かるから。楽しみにして!

――もうひとつ、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の主人公・草薙素子も、『スカイ・クロラThe Sky Crawlers』の主人公・草薙水素も死なないキャラクターで、『装甲騎兵ボトムズ』オリジナルシリーズの主人公・キリコも異能生存体で死なないですよね。戦場で常に生還するアッシュも異能生存体ではないかという説が流れてますが。
押井 それもいずれ分かる。アッシュにはアッシュのモラルがあるんです。ちなみにマキも後編はまた違う一面が見えるから。そっちもぜひ、楽しみにしてほしいよね(笑)。
※次回【中編】は後日公開いたします。
『装甲騎兵ボトムズ 灰色の魔女』本予告 2026.11.20劇場公開
取材・文:渡辺麻紀 撮影:源賀津己
<作品情報>
『装甲騎兵ボトムズ 灰色の魔女』
11月20日(金)公開
公式サイト:
https://www.votoms-gh.com/
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