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『クーリンチェ少年殺人事件』主演チャン・チェンが語る、エドワード・ヤン監督たちと過ごした日々

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リアルサウンド

 エドワード・ヤン監督が1991年に発表した『クーリンチェ少年殺人事件』が、4Kレストア・デジタルリマスターの3時間56分版で25年ぶりに劇場公開中だ。日本ではDVD化もされず、ほとんど観る機会がなかったヤン監督の代表作である本作は、1961年に台北で起きた14歳の少年によるガールフレンド殺人事件をモチーフにした青春映画。ひとりの少女をめぐる不良グループの対立を、60年代当時の台湾の社会背景とともに描き出す。リアルサウンド映画部では、本作のプロモーションのため来日した、主演のチャン・チェンにインタビュー。ホウ・シャオシェン、ウォン・カーウァイ、アン・リー、キム・ギドクら、アジアを代表する名監督たちの作品に出演してきた彼は、デビュー作となる本作にどのような思いを抱いているのかーー。当時の記憶を辿ってもらいながら、エドワード・ヤン監督、リサ・ヤンについてのエピソードや、本作の魅力について語ってもらった。

「家族が一緒だったのはとても心強かった」

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ーー撮影当時のことはどれぐらい覚えていますか?

チャン・チェン:作品を観ると、「あの時はこうだったな」と記憶が蘇ってくるのですが、撮影当時はまだ14歳だったということもあり、実はあまり覚えていないんです。ただ、プレッシャーなどを感じることはありませんでした。それが“若さ”なんだと思います。もちろん当時はエドワード・ヤン監督の存在も知りませんでした。『E.T.』や『スター・ウォーズ』なら知っていましたけどね(笑)。

ーーそもそも本作にはどのような経緯で出演することになったのでしょうか?

チャン・チェン:最初にリサ・ヤンが小明役で出演することが決まったのですが、相手役の小四に適任な役者がなかなか決まらなかったそうなんです。そこで、プロデューサーのユー・ウェイエンが、映画の中で小四の父を演じている僕の実の父(チャン・クォチュー)に「君の息子はちょうど小四と同じぐらいの年頃だね」と言ったことから僕が紹介され、そのまま出演することになったんです。

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ーーこの作品ではお兄さんのチャン・ハンさんとも共演されていますよね。

チャン・チェン:家族が一緒だったのとても心強かったですね。役者にとって、“家族”を演じることは非常に難しいものなんです。本当の家族と家族の役を演じるのをやりにくいと思う人もいるかもしれませんが、僕にとっては自然にできて助けになったことのほうが大きかったので、非常にありがたかったです。

ーーリハーサル期間が1年ぐらいあったという噂を聞いたことがあるのですが、本当ですか?

チャン・チェン:リハーサルが毎日あるというわけではありませんでしたが、何日かおきだったり1週間おきだったり、不定期にリハーサルはやっていました。期間でいうと、まさに1年ぐらいになると思います。リハーサルと言っても、セリフを言い合ったりというものではなく、演技の基礎的な訓練でした。僕に演技の基礎を教えてくれたのはこの作品で長女役を演じているワン・ジュエンでした。彼女は現在も役者として活躍していますが、僕にとっては素晴らしい演技の先生でもあり、30歳を過ぎてからも彼女にアドバイスをもらったことがあるぐらいなんです。

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ーー当時の共演者とは現在も付き合いがあるんですね。

チャン・チェン:今でも連絡を取り合っている共演者はたくさんいます。昨年はニューヨークを訪れた際にリサ・ヤンに会って、一緒に動物園に行きました(笑)。彼女は現在ニューヨークに住んでいるんです。昔は何年かに一度台湾に戻ってきていたのですが、最近はなかなか戻ってくることがなかったのでこっちから会いに行きました。メールなどのやりとりはこれまで何度もやっていたのですが、実際に会ったのは10年前にヤン監督が亡くなった時とそのあとに1度しか会っていなかったので、久々の再会でした。彼女はもうこの業界の人ではないので、当時の話や演技の話をすることはほとんどなく、プライベートな話ばかりですね。

「ヤン監督は僕に役者の道を与えてくれた大事な存在」

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ーー改めて作品を観て、新たに気づいたことや新たな発見などはありましたか?

チャン・チェン:自分の演技については申し訳ないなと思います(笑)。自分が出演した作品を観るのは苦手なので……。それと、僕は当時、リサ・ヤン演じる小明の役柄が本当に理解できませんでした。非常に複雑なキャラクターでしたから。あれから25年経って改めて作品を観て一番感じるのは、より小明のことを理解できるようになったということですね。当時僕はまだ若かったので、キャラクターについてそこまで詳しく考えることもなく、脚本を読んでなんとなく理解して、そのまま演じるというだけでしたから。ヤン監督の中ではいろいろな考えがあったと思いますけどね。

ーー現場でのヤン監督はどのような人でしたか?

チャン・チェン:この作品は、25年前の当時としてはとても規模の大きな作品で、非常に厳しい現場でした。特にヤン監督はすべてのことに対して要求が高く、スタッフもみんな信念を持って作品に臨んでいました。それはやはり監督の存在や影響が大きいということだと思います。彼の期待値が高い分、我々もその高いレベルのものを求められるわけですからね。撮るだけでも大変な作品をよいものにしなければいけないわけですから、それは当然のことだと思います。あとこれはあまり知られていないのですが、ハニー役の声の吹替をヤン監督自身がやっているということを知っていましたか?

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ーーそうなんですか? それはまったく知りませんでした。

チャン・チェン:実はそうなんです。僕が『クーリンチェ少年殺人事件』のあとに出演させてもらった『カップルズ』でも、ヤン監督は重要なキャラクターの吹替を自らやっていました。どちらも哲学的なことだったりストーリーに関わる大事なことだったりを言うキャラクターなので、これは僕の勝手な想像ですが、ヤン監督はそういうふうに、本当に伝えたいことは自分の口で伝えたかったのではないでしょうか。

ーーなるほど。もう一度観て確認してみます。あなたは2014年に監督デビューも果たしましたが、ヤン監督から受けた影響もあるのでしょうか?

チャン・チェン:それは間違いなくあると思います。僕が思うヤン監督の最もすごかったところは、価値観に関する判断力です。どういうふうに表現したらいいかわからないのですが、ホウ・シャオシェン監督は感覚的な人で、エドワード・ヤン監督は理性的な人と言えるかもしれません。そのどちらにも大きな影響を受けていると言えるでしょう。監督としてもそうですが、ヤン監督は僕に役者の道を与えてくれた本当に大事な存在です。この作品があったからこそ、いまの役者としての自分がある。逆に、新たな作品に出演するたびに、超えるべき壁としてこの作品が常に目の前にあるとも言えます。『クーリンチェ少年殺人事件』は僕にとって間違いなく、絶対的に大事な作品です。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『クーリンチェ少年殺人事件』
角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて公開中
監督:エドワード・ヤン
出演:チャン・チェン、リサ・ヤン、ワン・チーザン、クー・ユールン、エレイン・ジン
配給:ビターズ・エンド
1991年/台湾/3時間56分
(c)1991 Kailidoscope
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/abrightersummerday/