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なぜ女子はハロプロにドハマリするのか?

音楽

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ナタリー

蒼井優と菊池亜希子。

数あるアイドルの中でも群を抜いて女性人気が高いハロー!プロジェクト所属のアイドル。ことあるごとにハロプロファンであることを公言している指原莉乃を筆頭に、ハロプロのアイドルは同業のアイドルやタレントから圧倒的な支持を集めている。またミュージシャンや作家といった表現者からの人気が高いのもハロプロの大きな特徴といえる。今回登場してもらった女優の蒼井優と菊池亜希子も、自他共に認める熱狂的なハロプロファンだ。彼女たちも忙しい日々の合間を縫って、頻繁にライブに足を運び、動画を随時チェックするなどして、ハロプロの動向を常に追いかけているという。ハロプロの何が女性をそこまで熱狂させるのか? 音楽ナタリーでは、蒼井と菊池の証言を交えながら、「なぜ女子はハロプロにドハマリするのか?」というアイドル界最大の謎を紐解いていく。

各界の著名人もハマるハロプロ

ハロー!プロジェクトは、女性ファンの比率が非常に高いことで知られている。著者が知る限りでも、タレントの指原莉乃(ex. HKT48)や柏木由紀(AKB48)、ミュージシャンの大森靖子やしばたありぼぼ(ヤバイTシャツ屋さん)、女優の松岡茉優、モデルで歌手の三戸なつめ、お笑い芸人の柳原可奈子、作家の柚木麻子、エッセイストの犬山紙子……など熱狂的なハロプロファンは枚挙にいとまがない。コンサート会場に出向くと観客の男女比がほぼ半々で、黄色い歓声のほうが目立つということもしばしば。アイドル全般で“女子ヲタ”と呼ばれるファンが増えてきたとはいえ、ハロプロの女性支持率がズバ抜けていることは間違いない。ところが「では、なぜ女子はハロプロにハマるのか?」という素朴な疑問には、アイドルマスコミや音楽ライターも明確な答えを出せないでいるのだ。

例えばモーニング娘。に関していうと、ショートカットでボーイッシュな魅力を持つ工藤遥が2017年にグループを卒業した。この際、女性人気の低下も懸念されたのだが、実際はそれ以降も高い人気をキープしているという経緯がある。パフォーマンスの完成度や、宝塚的あるいは名門女子高的な集団性に女性が惹かれる要素があるとする向きもあるものの、これも決定的な理由とは言い難いだろう。

そこで音楽ナタリーは、この“アイドル界最大の謎”を女優の蒼井優と菊池亜希子にぶつけてみた。2人はハロプロ好きが高じて、アンジュルム初のアーティストブック「アンジュルムック」を編集長の立場で制作したばかり。これは単なる名義貸しでは決してなく、企画のテーマ出し、ラフ作成、衣装セレクト(私物提供も含む)、撮影ディレクション、原稿チェックなど、すべてを2人が統括した超力作となっている。女子のカリスマでもある蒼井と菊池なら、ハロプロの女性人気も冷静に分析できるのでは? すると菊池は「そもそもハロプロは、ほかのアイドルと比べてどうこうという存在ではないんです」と語り始めた。

ハロプロ=大相撲説

「ハロプロは国技なんですよ。大相撲と一緒。アイドルというよりは、1つの伝統芸能みたいに私は捉えているんです。最初からほかのアイドルと比較しても意味がないというか、それ自体が独立した枠だということ。実際、ハロコン(※ハロー!プロジェクトの合同コンサート)を観終わって中野サンプラザを出るときは妙に厳かな気分になりますから。彼女たちが歴史や伝統を守ってくれることに対する信頼感、感謝の気持ち……改めてハロプロは比類ない存在だと思います」(菊池)

まるで突拍子がないようにも感じる“ハロプロ=大相撲説”だが、これを語る菊池の顔は真剣そのもの。隣で聞いていた蒼井も「そういえば私も相撲は好きだな。どこかでつながっているのかも」と神妙に頷く。1500年続く日本国技の相撲は、その成り立ちからしてほかの立ち技系格闘技とは意を異にする。それと同様に、21年の歴史を持つハロプロは単純に女性アイドルの枠ではくくることができないということだろう。そして最近になって菊池は、自分の周囲でハロプロにハマる大人女子に1つの共通点があることを発見したという。

「少しどんくさいけど、決して憎めない人。個人的には“鞘師(里保)タイプ”と呼んでいるんですけどね(笑)。そういう人こそ、ハロプロにハマりやすいと思うんです。日々がんばって生きている人。自分と真剣に向き合っている人。大人になったからといって、そこそこな感じの予定調和で生きるのではなく、真剣に走っている人。私、そういうタイプって人間的に信用できるんですよ。だからハロプロ好きは全員がいい人だって思うのかもしれない」(菊池)

鞘師里保はモーニング娘。に革命をもたらした少女だ。加入は2011年。それまでのモーニング娘。は高橋愛リーダー体制のもと、新加入を行わず固定メンバーでステージングのクオリティを地道に高める方向にしばし邁進していた。いわゆる“プラチナ期”と呼ばれる時代である。ところが鞘師ら9期メンバー4人の加入と、約半年後の10期4人の加入によって、グループは一気に若返りに成功。中でも瞬く間にエースに上り詰めた鞘師は、キレキレながらも滑らかなダンスと、ストイックで切迫するような歌声でファンを魅了する。プロデューサーのつんく♂もその才能に大いに触発され、アイドルの文脈ではあまり見られなかったEDM色の強いサウンドやフォーメーションダンスといった新機軸を打ち出し世間にアピールしたのだった。

文系女子にアピールするつんく♂の詞世界

一方、歌詞世界が女性の心に刺さる大きな要因ではないかと仮説を立てるのは蒼井。つんく♂の書く歌詞はアイドルソングとしてもJ-POPとしても特異である。有名なところだと「宇宙のどこにも見当たらないような約束の口づけを原宿でしよう」(『Do it! Now』モーニング娘。)や「お母さんだって夢中で誰か愛した事あるでしょう」(『好きよ、純情反抗期。』スマイレージ)といったところが挙げられよう。「フードコード」「選挙」「自転車」「アーケード」といった非常に日常的・普遍的な風景と「宇宙」「地球」「人類」「大自然」といった壮大なスケールのフレーズが混在するところが、つんく♂が手がける歌詞の最大の特徴といえる。さらに男性目線ではなく、女性の気持ちに寄り添った角度で物語が描かれていることも昔から指摘されている。

「だから学生時代に熱心に本を読んでいた人もハマる傾向があると思うんです。ハロプロの場合、歌詞でやられるというパターンは本当に多いですからね。それがある程度まで進むと、文章をいちいち深読みしてしまう癖が出る。メンバーのブログとかも行間を勝手に深く読み込んで、“これはどういう意味だろう?”って考え込んでみたり(笑)」(蒼井)

2人がハロプロ沼にハマったきっかけ

ここで少し視点を変えてみよう。そこまで深く没頭する菊池と蒼井自身は、どのようにしてハロプロ沼にハマっていったのか? そこには育った時代背景も多分に影響していると2人は述懐する。菊池の場合、モーニング娘。のインディーズデビューシングル「愛の種」が発表された1997年当時、すでにモデルの仕事を始めていた。

「こういう言い方をすると語弊があるかもしれませんが、90年代の後半というのは、音楽が今よりもおしゃれな存在だった気がするんです。ファッション的な聴かれ方をされていたと言ったらいいのかな。渋谷系だったり洗練されたバンドも出てきて、私の周りにいたモデルやファッション業界の人たちはクラブに行ったりもしていて。そういうところと対極にあったのが、当時のモーニング娘。だったんです。だから当時はモーニング娘。や、ハロプロが好きだという気持ちを公言することには若干の抵抗が正直ありました。それでもやっぱり『まぶしすぎる!』という興奮には抗えなかったですね。私自身、“かわいさ”という部分をあえて避けてきた斜に構えた思春期だったからこそ、思いっきりかわいさを前面に打ち出していた彼女たちに対する憧れがあったのかもしれない」(菊池)

一方、松浦亜弥より1歳年上にあたる蒼井も最初期からハロプロを見続けてきた。菊池と比べたら自分はライト層だと謙遜するものの、「『ASAYAN』(※モーニング娘。らを輩出したテレビ東京のバラエティ番組)の観覧は普通に行っていた。太陽とシスコムーンが最高だった」「メンバーが卒業するたびに大号泣」「松浦亜弥のかわいさを研究するため、カラオケボックスで本人映像を延々と流していた」などと口から出るエピソードは極めてディープ。そんな蒼井だが、宝塚に夢中になったこともあって一時期はアイドルから距離を置くようになる。

「そんなとき、亜希子ちゃんから薦められたんです。『優ちゃん、今のハロプロ絶対好きになるはずだからさ』と言われて」(蒼井)

菊池は蒼井が再びハロプロにハマると確信していた。「好きになったものに対する思いが過剰」であり、「思春期の暑苦しさが大人になっても抜けていない」蒼井の一面を見抜いていたからである。蒼井は菊池からのLINEテロを浴び続けた。モーニング娘。、カントリー・ガールズ、Berryz工房、℃-ute、こぶしファクトリー、Juice=Juice……LINEには菊池のお気に入り動画URLが貼り付けてあった。気が付けば蒼井のYouTubeは、「次の動画」欄がすべてハロプロで埋まる始末。底なし沼にハマっていく中、たどり着いたのがアンジュルムの楽曲「カクゴして!」だった。

「『君の声聞かせて』というむろ(室田瑞希)の歌い出しを耳にした瞬間、『何、この声……!? でも、私を幸せにする……』って凍っちゃって。あの曲自体、“かわいい”の洪水状態なんですよ。こっちもどう受け止めていいのかわからずにオロオロしているうちに、画面の中のあやちょ(和田彩花)が『カクゴして!』って言いながらウインクしてきたんですよ! 『……うっ!』と撃ち抜かれましたね。家のソファでうずくまってしまいました」(蒼井)

一体、アンジュルムの何が蒼井をそこまで夢中にさせたのか? 最初に驚いたのは、ステージ上で“ふり”をしていないところだった。どこまでもありのままでいることが稀有な存在に映ったのだという。

「表現をする人って、舞台に立つと一種の演技をするものなんです。一生懸命の“ふり”、ほほえんでいる“ふり”、仲がいい“ふり”……。私自身、女優をやるうえで“ふり”をしているわけですしね。なのに、アンジュルムは全部が剥き出しの状態。なぜこの子たちは、こうも自分を解放できるのだろう? そこが私にとっては衝撃だったんです」(蒼井)

ハロプロ特有の“ガチンコ感”

ハロプロは他事務所の現役アイドルやミュージシャンからの支持も厚い。女優である菊池や蒼井も、表現者という意味では同業と呼べるだろう。かつて菊池はOKAMOTO'Sのハマ・オカモトがインタビューで「バンドをやっているやつは、とりあえず一度ハロプロを観たほうがいい」と発言しているのを読み、それがどういう意味なのか考えたことがあるという。

「なんとなくやっていない。どんなことでも常に全力でやっている。ハマ・オカモトさんが言いたかったのは、おそらくそういうことじゃないかと思うんです。それっぽく取り繕ったところで、結局、本当の意味で物作りをしている人には全部バレちゃいますから」(菊池)

そこまで一気に熱く口にすると、「ハロプロのことを語ると、どうしても魂の話になってしまう」と菊池は軽く照れ笑いした。

「でも、ハロプロに入った時点で取り繕うことは許されなくなるんですよ。つまり、自分に嘘がつけなくなるということです。もし自分が手を抜いたら、全部それはパフォーマンスに現れて観客にもバレてしまう。『本当に、それでいいの?』ってことになりますから」(菊池)

ハロプロのライブは生歌なのは当然として、ほかのアイドルグループに比べてユニゾンパートが少なく、歌割りが細分化されていることが特徴だ。そのため、個々の技量が目立つ傾向にある。これがハロプロ特有の“ガチンコ感”につながっていく。ハロプロのファンがメンバーの歌唱スキルやダンス力をことさら重要視するのも当然の流れだろう。

そして、この“スキル主義”の鍵を握るのは新人育成方法にある。ハロプロにはハロプロ研修生という教育機関が存在し(※ジャニーズ事務所のジャニーズJr.に相当)、近年、正規メンバーの多くは研修生出身であることが多い。ここで少女たちは歌やダンスはもちろんのこと、挨拶や礼儀といった芸能界の基本マナー、トーク面で重要視される活舌などのレッスンを受けることになるのだ。その英才教育ぶりからハロプロ研修生は“アイドル虎の穴”とも呼ばれているが、現実的には全員が正規メンバーになれるわけではなく、途中で離脱する者も数多く存在する。それについて、ボーカル指導にあたる上野まり子は「例え(ハロプロでのデビューをあきらめて)ほかの事務所でがんばろうとする場合でも、よそで通用するだけの実力は付けさせているつもり」と断言している。

こうした環境で揉まれていれば、おのずとメンバーの意識は高くなっていく。私自身、インタビュー取材などでハロプロのメンバーと接していると、明らかにほかのアイドルとは異質のプロフェッショナリズムに面食らうことが多い。アイドルというジャンルに対する職業意識や職業倫理が徹底しているのだ。前のめりに「グループのビジョン」「個人としての野望」「ハロプロの理念」などのテーマを語る姿を見ていると、「若いのに弁が立つな」というよりは、「普段からアイドルのことばかり考えているんだろうな」と感心してしまう。そうではないと、ここまで雄弁に語ることができるわけがない。

「正直、入ったばかりの新人メンバーは音程とかがまだ不安定だったりもするわけです。『あちゃちゃ……』って感じる歌も中にはあるんだけど、その拙さも含めて全部が剥き出しなのがハロプロ流なのだと思います。先輩たちも若手だった頃は上手じゃなかったりしたけど、今は堂々とステージの上で振る舞っている。アイドルって己を磨いていく行為ですから。成長の過程を見せるって、そういうことだと思うんです。だからハロプロのライブに関しては観るポイントがはっきりしていますよね。『あれ? 私、何を観ていたんだっけ?』とは決してならない」(蒼井)

メンバーのストイックなプロ根性

今回の単行本制作工程を通じて、映像やライブでは知ることができなかったメンバーの素顔に2人は触れることになった。ときには強烈なプロ意識を感じることもあったという。

「撮影中もアンジュルムのメンバーはずっと歌っているんです。本当に朝から延々と歌っている状態。誰かがある曲を歌い始めると、ほかのメンバーもそれに合わせて歌い始めますから。余計なお世話かもだけど、『喉を痛めないのかな?』って最初は心配になりましたね。でも、和田さんがポツリと言っていたんですよ。『歌というものは、結局、歌い込むことでしか上達しない』って。そういう角度で考えてみると、普段から歌うことを癖にしていたメンバーの様子がすごく意味のあるものだと気付いたんです」(蒼井)

メンバーとの雑談では、驚くことも多かった。例えばダンスに関して。聞けば全体練習の時間が非常に少ないのだという。メンバーのキャリアが違うのだから当たり前なのかもしれないが、若手メンバーにとっては酷な話である。

「だから、家でめっちゃ練習しているらしいんです。振り入れしたあと、家で各自が猛練習したら、あとは全体で軽く合わせてから、ゲネプロをやって本番……みたいな流れで。自宅で各々が極めた結果、グループとして強くなっていくという構造ですよね。これは最終的には“己との戦い”ということになってくると思うんです。昔はファンも『ASAYAN』を通じて舞台裏を知ることができた。でも今は音源やライブで結果だけを受け取るような状況。陰で努力する姿を見せない現在のハロプロには、ストイックなプロ根性を感じるんですよ」(菊池)

卒業と背中合わせの刹那性

取り繕わない“剥き出し感”、卓越した“プロフェッショナリズム”。これらが蒼井と菊池の考える「女子がハロプロにハマる理由」だとしたら、もう1つ女性ならではの観点で注目してほしいキーワードが存在する。それは“刹那的”であるということ。常に卒業と背中合わせである女性アイドルを語る際に外せない要素である。

「女として生まれた以上、ある種の“時間との戦い”に向き合わざるを得ないんです。周りからの評価、自分の立ち位置、人生のステージ……時が常に流れていく中で、やがては消費される存在になってしまうのではないかという怖さ。その瞬間、その瞬間が常に刹那的。でも、このへんの感覚ってもしかしたら男性の方には理解しづらいのかもしれません」(菊池)

アイドルは誰でもなれるものではない。ひと握りの切符をつかんでようやくデビューできたとしても、恋愛や学業などの面で多くの制約を強いられることになる。それなのに……いや、それだからこそか。多くのアイドルは30歳になる前に卒業や引退の道を選ぶことになる。もっとも、刹那的であるのはアイドルのみならず、女性全般に言えることかもしれない。菊池によると、女性の中でも特に10代から20代にかけてはその傾向が顕著だという。「アンジュルムック」の撮影中も、15歳のメンバー3人に対して菊池は言葉を失う場面が何度かあった。

「私からすると、存在自体がもう尊すぎて……だって、この15歳の瞬間は今しかないんですから。これは自分が30代になったからこそ強く感じることだとは思うんですけど、でもだからといって『昔はよかった』とか、そういう懐古主義的な話ではないんです。人は常に変わっていく。そのことは避けられない。目の前の現実を噛みしめるしかない。それが、ただただ刹那的というか……私もどうしようもなく感傷的になってしまうし、魂を揺さぶられてしまうんですよ」(菊池)

編集作業を進める中、蒼井は少女たちを題材にして本を制作することの責任感も強く感じたという。

「“少女を消費しない”というのが、自分に果したルールでした。というのも、芸能界はそういうことが起こりがちな世界だからです。私はアンジュルムに関しては完全にオタクですから、本を作っていても『ああいうのも見たい! こういうのも見たい!』というファン目線の願望が際限なく出てくるんですね。だけどそこで一度立ち止まって、『本当に彼女たちを消費していないか?』って冷静に考える必要がある」(蒼井)

蒼井の指摘する「少女たちを消費する行為」とは、わかりやすい例でいうと肌の露出に関するものがある。一般的にアイドルの写真集やフォトブックでは、水着などで少しでも肌の露出を増やそうとする傾向がある。蒼井自身も撮影の中で10~20代の素肌を目撃して「まぶしすぎる! これは宝物だ」と感じ、「なんとか本の中に閉じ込めておきたい」と考えた。だからといって、そこで本人たちが傷付くようなら元も子もない。そのあたりのバランス感覚には最後まで気を揉んだという。

世代で異なるハロプロ観

蒼井と菊池にとって、いまやハロプロは自分の人生と切り離せないものになっている。3月30日、2人は幕張メッセに足を運んだ。「Hello! Project 20th Anniversary!! Hello! Project ひなフェス 2019」で2015年末に卒業してからひさしぶりの復活を果たす鞘師、そして辻希美と加護亜依のW(ダブルユー)復活を目撃するためだ。

「鞘師さんが出てくると、会場で地鳴りがしたんです。その瞬間、椅子から崩れ落ちましたよね。気持ち的には先走っていて、『前に行きたい!』と願っているんですよ。だけど彼女の存在感に圧倒されちゃって、後ずさりしている自分も同時にいる。取り乱しまくってしまって大変でした」(菊池)

コンサートでは冒頭から辻と加護のWが登場。悲鳴や嗚咽が入り混じった大歓声が会場中に響き渡る。伝説的ユニットの復活だ。当然の話である。だが、それをさらに上回る歓声が挙がったのは鞘師の登場時だった。このことは現在のハロプロを象徴する出来事といえるかもしれない。

「若いファンの人と話をしていると、“モーニング娘。観”が少し違うなと感じます。そもそもモーニング娘。に対して求めているものが違うんでしょうね。『ASAYAN』を通過してきた私たちは、どこかでモーニング娘。は“体育会系の女子高”というイメージを持っているんですよ。細眉でド金髪……言ってしまえばヤンキーみたいな子がいる学校。だけどあるときからメンバーの年齢がグッと下がり、それと同時に黒髪率が上がった。鞘師世代というかシングル『One・Two・Three』(2012年)以降のファンは、モーニング娘。にヤンキーのイメージなんか持っているはずないと思いますし」(蒼井)

モーニング娘。'19現役メンバーのうち、「LOVEマシーン」(1999年)以前に生まれていたのは11人中5人しかいない。「モーニングコーヒー」(1998年)以前に生まれていたのは3人だけ。メンバーが変わっているのだから、ファン層が入れ替わるのも当然なのかもしれない。また、普通に考えたら人気メンバーが卒業するたびにグループ人気も停滞しそうなものだが、新メンバーを加入させることで常に新規ファンを獲得してきたのもハロプロの特徴といえる。

「でも、そこが私は素晴らしいと思うんです。『こんなにいろんな捉え方ができるのか!』という単純な驚きがあって。いつどこでハロプロにハマったかはバラバラだけど、お互いのハロプロ観を否定することは決してない。これはひとえに歴史の長さから来るものだと思うんですよね」(蒼井)

一瞬たりとも目が離せない

さて、冒頭で菊池は「ハロプロは国技」だと定義した。では稀代の大横綱・和田彩花が6月場所で迎える卒業については、どのように考えているのか? 

「和田さんのことを思うと、自然に泣けてくるんですよ。今回、本の中ではメンバーに好きな曲を挙げてもらって、そのフレーズに合わせて撮影をしているんですね。そこで和田さんが指定してきたのが、なんと『ぁまのじゃく』! スマイレージ時代、それもインディーズ期の中でも最初の曲ですから(※アンジュルムは2014年にスマイレージより改名)。和田さんが、どういう気持ちでこの曲を選んだのか? 果たして卒業コンサートで歌われることがあるのか? もういろんなことを想像しちゃって……」(菊池)

これには若干の説明が必要かもしれない。アンジュルムとハロプロのリーダーを兼任する和田は、ハロプロ在籍15年にもなる古参メンバーである。しかし、彼女の本質は現状打破の精神にこそある。過去よりも今、そして未来を見つめるべきだというのが一貫した主張なのである。

「和田さんの卒業コンサート……そのときに自分がどうなってしまうのか、ちょっと今は想像もつかないです。死んじゃうかもしれない」

蒼井はそうつぶやくと、アンジュルムの最新CDのジャケットに目を落とし「そう考えると推しが12人いるわけだから、あと11回死ぬ必要があるってことか(笑)」と笑い、再びまっすぐなまなざしをこちらに向けて、こう続ける。

「和田さんがメンバーについて『内面が少し変わるだけでパフォーマンスが全然変わってくる』と話していたんです。それで言うと、私は内面の変化が顔つきに現れてくると思う。だからハロプロメンバーの表情に少しでも変化があると、『あれ? 何があったんだろう?』って気になってしょうがないんです。そうするともう大変。一瞬たりとも目が離せない。毎日が忙しくて仕方ないですよ。すごい頻度で更新されるYouTube動画とかも、ずっと観察していなくちゃいけないわけですから(笑)」(蒼井)

この調子だと、蒼井と菊池のハロプロとの関りは限りなくディープに続いていくことだろう。それにしても2人の話を聞いていると、男性とはアイドルを見る角度がまるで違うことに驚かされるばかりだ。女性アイドルは基本的に男性ファンを相手にしたビジネスとして成立している。しかし世の中には男性とほぼ同数の女性がいるわけで、女性にアピールできるのなら、もちろんそれに越したことはない。ハロプロの制作陣がどこまで意図的であったかは不明だが、結果として理想的な支持のされ方をしているのは事実だ。21年の歴史と、そこに所属する少女たちによるプライドとプロフェッショナリズムに裏付けられた圧倒的なエンタテインメント。そして、選ばれし者のみが刹那と隣り合わせに放つ眩いまでの輝き。ここからさらにドハマリする女子を増加させていくことで、ハロプロはより確固たるポジションを築いていくに違いない。

蒼井優

女優。2001年「リリイ・シュシュのすべて」で映画デビュー。映画「フラガール」で第30回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・新人俳優賞、映画「彼女がその名を知らない鳥」で、第41回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得するなど、映画、舞台をはじめ多方面で活躍している。文化庁の2018年度「芸術選奨」新人賞を受賞。主演映画「長いお別れ」が5月31日に公開。また6月7日公開のアニメ映画「海獣の子供」に声優として出演している。

菊池亜希子

モデル / 女優。 モデルでデビュー後、映画やドラマ、舞台、CMにて活躍。また、自身が編集長を務めた書籍「菊池亜希子ムックマッシュ」はシリーズ10作累計43万部の大ヒットを記録。他著書には「みちくさ」「好きよ、喫茶店」シリーズなどがある。現在TBSラジオ「Be Style」でパーソナリティも務めている。

「アンジュルムック」(集英社) 5月24日発売 2700円(税込)

【衣装提供】

蒼井優
ドレス 74,000円 / ビューティフルピープル(ビューティフルピープル 銀座三越
03-6271-0833)
中に着たタンクトップ 11,000円 / ブラームス(ワンダリズム 03-6805-3086)

菊池亜希子
ラップドレス 48,000円 / シー(エスストア 03-6432-2358)
Tシャツ 19,000円 / ビューティフルピープル(ビューティフルピープル 銀座三越)
パンツ 39,000円 / エイトン(エイトン青山 03-6427-6335)

取材・文 / 小野田衛 撮影 / 塚原孝顕 ヘア&メイク / 草場妙子 スタイリング / 川上薫