地点・三浦基、ロシア作品にどっぷり向き合う
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三浦基
地点の演出家・三浦基による新作『シベリアへ!シベリアへ!シベリアへ!』がいよいよ5月27日(月)にKAAT 神奈川芸術劇場 中スタジオで幕を開ける。『シベリア~』は、ロシア屈指の劇作家チェーホフのテキストをモチーフにしたものだが、一方で三浦は、ロシアの国立劇場・ボリショイ・ドラマ劇場(以下BDT)からのオファーにより、同劇場のレパートリーとして文豪ドストエフスキーの小説『罪と罰』を舞台化することが決まっている。まさにどっぷりロシア文学に向き合うかたちになった三浦が、ロシア大使館で会見を行い、両作品について語った。
『罪と罰』の企画の経緯について三浦は語る。「2011年に初めてロシア公演を行って評判になって以来、フェスティバルに呼ばれるようになって、毎年のように公演をしてきました。BDTの芸術監督アンドレイ・マグーチーさんとの交流は2015年からで、マスタークラスと呼ばれる演出家養成クラスに教えにきてくれと言われて、ワークショップを行ったりしてきました。そうした密な交流の中で、突然、“基、できるか? 時間はあるか?”と。マグーチーさんは地点を日本でもご覧になっていますが、おそらく特に評価されているのは、僕のチェーホフの演出だと思います。だから、先方からの提案が『罪と罰』だったのには驚きました。劇場としての戦略を感じたんです。彼は就任してから観客を2倍以上に増やすという大成功を収めている監督です。『罪と罰』は、BDTのあるサンクトペテルブルクが物語の舞台なので、お客さんは、子供の頃から読まされて食傷気味になっているかもしれない。だから、もう1回作品に息を吹き返してほしいという期待も込められているのかなと。ふたつ返事で引き受けました」。
ドストエフスキー作品は、2014年に『悪霊』を上演した経験がある。「初めての作家ではないので、やってみたい気持ちはありましたが、『罪と罰』は、ほとんどラスコーリニコフの独白で物語が運ばれるので、なかなか演劇化するのは難しいと思います。特に宗教的なテーマが非常に重要な作品です。神やキリスト教についてはたびたび取り上げてきましたが、今回は真正面から扱うことになるので、そのことをじっくり考えていけるのが楽しみです」。
『罪と罰』のBDTによる初演は2020年6月を予定しているが、それまでにさまざまなプロセスを経る。「来月さっそくサンクトペテルブルクに行って、キャスティングのオーディションをしてきます。BDTは80人ぐらい俳優を抱えていますが、本当に層の厚い、技術力の高い俳優が多いので、思い切ってたくさん使ってみようかなと。通常は、作品を立ち上げるときは構成台本は作らず、俳優と一緒に作るスタイルですが、今回はいきなり手ぶらでサンクトペテルブルクに行っても太刀打ちできないので、地点の俳優と一緒にまず準備をして、来年2月から3月に地点の『罪と罰』を横浜と京都で上演します。その上演がそのままボリショイに移植できるとは思いませんが、まず原型になるようなテキストと世界観を作ろうと思います」。
そして初日まで間もない『シベリアへ!シベリアへ!シベリアへ!』については次のように語る。「タイトルは、『三人姉妹』のセリフ“モスクワへ! モスクワへ! モスクワへ!”のパロディで、そのような戯曲があるわけではありません。チェーホフが1890年にシベリア横断をしてサハリン島まで旅行したときの手紙やそれにまつわる短編小説『シベリアの旅』、旅行記などから構成しています」。三浦が「ほぼやり尽くした」と語るほど、地点は多くのチェーホフ戯曲を上演してきたが、「オリジナルの形でのコラージュは初めてなので、ちょっとどきどきしていますが、かなり面白い実験になっていると思います」と話す。
旅はチェーホフにとって貴重な経験になったと三浦は見る。「この旅を経て、チェーホフは四代戯曲を書き出します。特に、彼が病気をしてまで長旅に行った、その行動力と熱意。馬車の旅ですから過酷な旅です。ところが、家族に宛てた手紙は軽いタッチでユーモアがある。そこにあらためて独自の文体を感じました。今回の作品では彼が旅の途中で様々な民族と出会うところに注目していますが、ひたすら東に向かいながら他者と出会っていくバイタリティみたいなものが、現代日本の閉塞感を打ち破るエネルギーになればいいなと感じています」。
『シベリアへ!シベリアへ!シベリアへ!』が5月27日(月)~6月2日(日)、7月13日(土)~16日(火)の2期に分かれて上演されるのに加え、7月4日(木)~11日(木)には地点の代表作であるチェーホフの『三人姉妹』も上演される。
「BDTからオファーがあったのは本当に光栄なこと。これまでやってきたことと、これからやっていくことが全部つながっていくような感覚になります」と三浦。一音一音の単位にまで分解することで、様々なテキストを読み直してきた三浦だが、彼の現在のロシアへの取り組みは、点ではなく線でとらえることで見えてくる本質があるにちがいない。