湯木慧が紡ぐ“生きる”ことへの切実なメッセージ 「バースデイ」を聴いて
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手塚治虫の『火の鳥』、ニーチェの『ツァラトゥストラかく語りき』など、“生命は死と誕生を繰り返し、変化し、強くなっていく”というテーマを含んだ作品に我々が惹かれてしまうのは、自らの人生が刹那的なものではなく、ずっと連続していくものであってほしいという願いを捨てることができないからではないか。と、少々大げさなことを考えてしまったのは、湯木慧のメジャー1stシングル『誕生〜バースデイ〜』を聴いたことがきっかけだった。現在20歳のアーティストが紡ぎだす歌には、生命や人生、“生きる”ということの本質に触れるような手触りが、確かに宿っているのだ。
まずは湯木慧のキャリア、表現のバックグラウンドを簡単に紹介しておきたい。小学3年生のときにトランペットを手にしたことで音楽の世界に興味を持った彼女は、11歳からアコースティックギターを弾き、作詞・作曲を始めた。高校生になると自身の楽曲発表の場をツイキャスに求め、約2年で累計200万ビューを突破。“デジタルネイティブ世代の音楽表現者”として注目を集めた。
湯木慧の表現における特徴の一つは、様々なメディアを駆使していること。映像、絵画、舞台、デザインなどを用いながら、楽曲に込めたメッセージ、世界観を総合的に描き出しているのだ。初の全国流通盤『決めるのは“今の僕”、生きるのは“明後日の僕ら”』(2017年2月)を携えた初の東名阪ワンマンツアーでは、インスタレーション、ライブペインティングなどを融合させたステージを披露。また、2ndミニアルバム『音色パレットとうたことば』(2017年9月)を「個展&ワンマンライブ企画」と連動する形でリリースするなど、彼女の活動は総合芸術と呼ぶべきスタイルで展開されている。聴覚(音楽)と視覚(映像、絵画など)を共存させながら、より豊かな表現へと導くことこそが、彼女の魅力だと言えるだろう。
2018年10月にリリースされたアルバム『蘇生』もまた彼女にとって大きな意味を持っていた。このアルバムのリリース時に彼女は「20歳になり創作に対して、仕事に対して将来に対して、もとよりひどかった“焦り”や、“新しくより良い作品や音を産み出していかなきゃ”という前へ前への急ぎ足に伴って見失いかけていた感覚に気づき、今だからこそ、今一度過去に目を向けて、原点回帰をしたいと思い、今回のCDを作りました」とコメントしていた(参考:湯木慧、アルバム『蘇生』で5人のクリエイターとコラボ 新ビジュアルも公開)。この言葉が示す通り、『蘇生』は、湯木慧という表現者を蘇生させた作品だと言っていい。そこで蘇った感覚は当然、次の作品へとつながることになった。その作品こそが、“誕生”をテーマに据えたメジャー1stシングル『誕生〜バースデイ〜』だ。
アルバム『蘇生』のボーナストラック「ハートレス」のミュージックビデオの最後に入っている本人の産声とつながるように始まる『誕生〜バースディ〜』の中心にあるのは、リードトラックの「バースデイ」。いまから約1年前、彼女の20歳の誕生日(2018年6月5日)に生まれた楽曲だ。
「バースデイ」の萌芽は、さらにその1年前、2017年に身近で起きたある出来事をきっかけに芽生えたという。“事故に遭い、目の前で母親を亡くした少年は、その翌日が誕生日だった”ということを知った彼女は、様々な感情に絡め取られながら、衝動的にメロディを紡ぎ出す。そこに〈正しさだけが溢れる世界じゃないから/僕は真っ直ぐ真っ直ぐ前を向いてゆくよ〉という言葉が重なったとき、「バースデイ」という楽曲はこの世に生まれ落ちた。誕生日はその人が生を受け、この世界に足を踏み入れた記念すべき日。しかし、すべての人がそれを心から受け入れ、祝うことができるとは限らない。ときには“どうして生まれてきてしまったんだろう”という悲しさに沈むこともあるだろうし、生を重ねることに前向きになれないことだってあるだろう。それでもなお、“真っ直ぐに進んでいこう”という意志を獲得したとき、人は本当の意味で強くなれるはずだ——そのときに生まれる確固たる思い、そして、“人は何度でも生まれ直せる”という切実なメッセージこそが、「バースデイ」という楽曲の本質なのだと思う。
ストリングス、ピアノの響き、低音を効かせた打ち込みのトラックがひとつになった“クラシック×エレクトロニカ”的アレンジメント(編曲は音楽制作集団・Miliの葛西大和が担当)、そして、すべての言葉に思いを込め、聴き手の心に届けようとするボーカルも素晴らしい。切なさ、必死さ、美しさ、葛藤といった様々な情感を同時に描き出す彼女の歌は、本作においてさらなる進化を遂げている。
シングルがリリースされる2019年6月5日——彼女の21歳の誕生日には、東京・四谷 天窓でリリース記念ワンマンライブ『誕生〜始まりの心実〜』を開催。さらに夏にもワンマンライブが予定されている。深遠なストーリー、切実なメッセージが込められた『誕生〜バースデイ〜』の楽曲が、舞台の上でどのように表現されるのかも、ぜひ注目してほしい。このシングルに関して、「2019年6月5日、私はまた、生まれます。」という言葉を刻んだ湯木慧。新たな生を手に入れた彼女が、ここからどんな表現を生み出すのか、いまから楽しみでしょうがない。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。
■配信情報
「バースデイ」
配信はこちら
■湯木慧セレクト、オリジナルプレイリスト
湯木慧が選ぶ「はじめまして湯木慧です」
湯木慧が選ぶ「湯木慧を深く知りたいなら」
湯木慧MV集「動き出した音たち」
■リリース情報
メジャーファーストシングル 『誕生~バースデイ~』
発売:6月5日(水)
<初回限定盤:CD+ライブDVD+スペシャルパッケージ仕様>
¥1,800(税抜)
<通常盤:CD / VICL-37474>
¥1,200(税抜)
<初回プレス分のみ>
8月開催、東阪ワンマンライブ チケット最速先行抽選予約シリアルコード封入
<CD(初回限定盤・通常盤共通)>
1. 98/06/05 11:40
2. 産声
3. バースデイ
4. 極彩
<DVD(初回限定盤のみ)>
ワンマン個展ライブ『残骸の呼吸』
日時:2018年10月20日、21日
場所:四谷アートコンプレックスホール
1. キズグチ
2. キオク
3. 網状脈
4. 嘘のあと
5. 存在証明
■ライブ情報
8月開催東阪ワンマンライブ
<東京>
日時:2019年8月某日
会場:某会場
<大阪>
日時:2019年8月某日
会場:某会場
※詳細は後日発表
メジャーファーストシングルリリース記念ワンマンライブ 『誕生~始まりの心実~』
※チケットSOLD OUT
日時:6月5日(水) OPEN 18:30/START 19:00
会場:四谷天窓
■イベント情報
『誕生~バースデイ~』発売記念インストアイベント
・タワーレコード新宿店
日時:6月15日(土)12:00 ミニライブスタート
場所:タワーレコード新宿店7Fイベントスペース
内容:ライブペインティング&アコースティックミニライブ&特典(湯木慧オリジナルメッセージカード)お渡し会
対象店舗:タワーレコード新宿店、渋谷店
・タワーレコード梅田NU茶屋町店
日時:6月16日(日)15:30 集合/16:00 スタート
場所:タワーレコード梅田NU茶屋町店 イベントスペース
内容:アコースティックミニライブ&特典(湯木慧オリジナルメッセージカード)お渡し会
対象店舗:タワーレコード梅田NU茶屋町店、梅田大阪マルビル店、難波店、神戸店、京都店、あべのHoop店
スペシャルムービー 『Yuki Akira 1998-2018 Activities』
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