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『白い巨塔』岡田准一が考える、人々を魅了する“財前五郎”の奥深さ 「人間の面白さが詰まっている」

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リアルサウンド

 5月22日から26日まで、テレビ朝日開局60周年記念として放送される5夜連続ドラマスペシャル 山崎豊子『白い巨塔』。これまで幾度となく映像化されている作家・山崎豊子のベストセラー小説をドラマ化した本作で主演を務めるのは岡田准一だ。

 これまで、田宮二郎や唐沢寿明ら名優が演じてきた、浪速大学医学部第一外科・准教授の財前五郎。外科医、“腹腔鏡のスペシャリスト”として医学界にその名を轟かせる財前は、貧しい母子家庭に育つもたゆまぬ努力を続け、野心に溢れ、自らの才能には絶対的な自信を持つ。

 岡田にとっては初の医師役となる本作。昭和、平成、そして令和と、3元号にまたがって愛されてきた『白い巨塔』の財前五郎という男をどう演じたのだろうか。『白い巨塔』や財前五郎という人物の魅力、そして、親友兼ライバルである里見脩二を演じる松山ケンイチとの共演について、話を聞いた。

■「“いい人”の役より断然楽しい役です(笑)」

――最初に『白い巨塔』の主演と聞き、どう感じましたか?

岡田准一(以下、岡田):やると決めたからには面白い役だし、やりがいのある人物なので、味わい尽くそうかなと思い現場に入りました。 上り詰めて落ちる物語なので、前半はすごく楽しめるけど、財前が追い込まれていくに連れて、僕の精神状態もあまりよくなくなっていく感じはありましたね。不安定というか、セリフは頭に入っているはずなのに、現場でセリフが出てこなかったりもして。

――不安定というのは、具体的に?

岡田:セリフは役柄の精神状態でだいぶ変わってくるので、財前がうまくいかないシーンが多いと、自分自身も不安定になる。セリフが出てきづらいのは、自分に自信がなかったり、何かに囚われていたりする時で、そういう期間は長くありました。でも、財前を演じてきた歴代の方も、みんなそうだと思います。大変ではありますが、「いい人」の役より断然楽しい役です(笑)。

――本作の時代設定は、現代になっていますね。

岡田:田宮(二郎)さんが演じていた頃(1978年)のような表現は、今の時代のテレビではできませんが、野心や権力争いなど、人間同士のあり方の面白さは、現代でも描けると思います。もちろん、今は患者に対して横暴になれないし、医療も進化しています。財前は外科医の中でも、いかに切らず、患者の体力を保ったまま治療していくかという腹腔鏡のスペシャリスト。昔は「切れ、切れ」ということもあったようですし、長い話の中でどこをチョイスして、物語をどう表現するのかは、スタッフのみなさんがすごく考えて作ってくださっています。

 財前はいわゆる「ダークヒーロー」でもあり、「仲間や友や会社を敵にしてでも、権力を手に入れてやろう」という上昇志向が強い男。後輩に対してひどいことをするんですよね。でも、「我を押し通して上り詰めてやる」という今の時代にそぐわない熱さとエネルギッシュさが、逆に眩しく見えてくる。僕自身もそう見えればいいなと思っていたし、そこを求められているんじゃないかなと。

ーー財前五郎という男の魅力は、どこにあるのでしょう?

岡田:分析はしきれていないですが、死に向かい、崩壊していく財前には、人間の面白さが詰まっていると思います。こんなにもエネルギーを内包していて、それを惜しげもなく外に出せて、それでも飲み込んでいることもある。最後、僕が死ぬシーンで、スタッフが泣いてくれたんです。そんなに悲しんでくれるのか、と。それが財前の魅力なんだと思います。傲慢で、人を責めたりプレッシャーを与えたりもするし、里見と喧嘩して理不尽なことを言っても、死ぬ時は悲しんでくれる。人間の強さと弱さが、財前にはいっぱい詰まっているんだろうなと。それが伝わるほど、人生を早く生き過ぎたんだと思います。

 スタッフが泣いてくれるというのは、長く撮る醍醐味で、人生を見せたドラマだからこそ経験できることでもあるんですよね。2時間ほどの作品だと、亡くなる場面でも「いい芝居でしたね」と芝居の評価が出てくるけど、今回は僕が死んでいくのをみんなが見守ってくれている感じがしました。

――財前は「ダークヒーロー」ということですが、善悪の線引きは難しいところですよね。

岡田:財前の中にも善があるわけで、悪だと思ってやっているわけではないんです。でも、相手のことを慮って怒っているわけでもなくて、「なんでこうしないんだ」とか「自分がいた方が医学会のためになるから、辞めるよりいた方がいいでしょ」という自信が、傲慢だととられてしまう。財前の中で筋はしっかり通っていると思うけど、自信と傲慢は紙一重ですからね。でも、柳原(満島真之介)を追い詰めるのは楽しかったです(笑)。本当にビクビクしてくれるんですよ。

――罪悪感は?

岡田:ないです(笑)。 普通に怒るよりも、「笑っているんだけど、この人超怖い」という役柄って面白いじゃないですか。そういう役をやる年になったんだなとも思いますね。鶴橋(康夫)監督がすごく愛情を持って接してくれたので、楽しくやらせてもらいました。

■「鏡のように反射していくお芝居」

ーー松山ケンイチさん演じる里見は財前の親友でありライバルでもあるという大事な人物です。過去にも共演していますが、どんな印象を持っていましたか?

岡田:映画『関ヶ原』でワンシーンだけ一緒にやらせていただいた時、すごく楽しくて。細かい芝居をするし、設定にあわせて衣装の袴をちょっと短くするとか、誰も気づかない、100人いたら100人気づかないようなところまで細かい(笑)。今回も距離感とかが絶妙でしたね。テレビドラマだと立ち位置の取り方が決まっているものなんですが、僕たちは守らないから(笑)。松山くんが動いたら、僕はこっちに動いて、とか、距離感の取り方が楽しかったです。

――里見と財前は対照的な役柄ですが、演技をする上で意識したことはありますか?

岡田:松山くんがいろいろと調整してくれました。僕は、押していくというか、圧が強い役でもあるから、「こうした方がいい」というのがはっきりしていた。僕のやることを受けて、松山くんが動く、みたいな鏡のように反射していくお芝居を作り上げていきました。面白いですよね、どんどん変化していって、最後のほうは同じ医師として自分の病気について語るシーンもあるんです。悲しさをこえた部分で医師として2人で話す。作品を通して、里見と財前の関係性を探していった感じでした。最後の最後のシーンで、財前が「里見は自分のことをこう思ってたんだ」と気づくことができたから、そう終われたのはよかったなと。

ーー岡田さんは今回初の医師役でもあります。

岡田:楽しかったです。知らない単語が山ほど出てきて、いくら勉強しても詳細までは知ることができないから、手放している部分はたくさんあるんですけど、そこをどう埋めていくか。裁判のシーンは動きようがないので大変なのですが、オペはいろいろできたと思います。財前はスキルがすごすぎてミスがないので、どうリズムを作っていくかを考えました。普通だと、ミスしたり悪化したりして緊迫感を煽っていくのかと思うのですが、財前は完璧にできちゃうから(笑)。

ーー演技にもリズムがあるんですね。

岡田:東教授(寺尾聰)が落ち着いた手術シーンを撮っているので、僕はもうちょっとテンポをあげようかなと考えました。例えば、「開けてくれ」「始める」と台本に書かれていたら、その間に「裏から回す」「あげろ」「もっと開け」とか、グイグイ攻めるような指示だしを入れて、生っぽくしていくというか。ちなみに手術が終わった後に手袋を「パンッ」と飛ばすんですけど、それは指導してくれた医者の方の話を聞いてやってみたら、みんなが笑ってくれたから採用されたシーン(笑)。なので、まずは東教授を見て、みんなの話を聞いて、周りを見て、演じ方を変えることはありましたね。(取材・文=nakamura omame)