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“ミニシアターシネコン”はビジネスとして成立する UPLINK代表・浅井隆が語る、アップリンク吉祥寺の狙い

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リアルサウンド

 “街の映画館”として1984年にオープンし、2014年に多くの人に惜しまれながら閉館となった吉祥寺バウスシアター。吉祥寺オデヲン、吉祥寺プラザ、ココロヲ・動かす・映画館○と現在の吉祥寺には3つの映画館が存在するが、バウスシアターが閉館したことによって、吉祥寺の街から“映画の多様性”は失われていた。そんな吉祥寺に、2017年12月、「アップリンク吉祥寺パルコ」が2018年冬にオープンすることが発表された。

 リアルサウンド映画部では、オープンを前にUPLINK代表の浅井隆氏にインタビューを行った。多種多様な作品を上映するアップリンク渋谷に続き、なぜ吉祥寺に新たな映画館をオープンすることを決めたのか。アップリンク吉祥寺の狙い、映画館ビジネスの今後について話を聞いた。

●吉祥寺の新たなカルチャーの発信地に
ーー昨年末に「アップリンク吉祥寺」の発表をされて以来、反響はいかがですか?

浅井隆(以下、浅井):期待をしてくださる方が多く、手ごたえは感じてます。長らく、吉祥寺が「住みたい街ランキング1位」でしたが、近年はその座をほかの街に譲っています。その要因のひとつとして、映画館が少ないというのをネットのニュースで見ました。バウスシアターがなくなったことは無関係ではないと思っています。現在も吉祥寺には映画館がありますが、バウスシアターが上映していたアート系作品やインディーズ作品はそれまでのようには観ることができず、映画の多様性は失われていると感じています。今回、ぼくらがパルコと一緒に作るアップリンク吉祥寺が、新たなカルチャーの発信地となればと思っています。

ーーアップリンク渋谷は3スクリーンで、連日10作品以上の上映を行っていますが、吉祥寺は合計300席の5スクリーンです。

浅井:これは以前から話していたことなのですが、場所さえ確保できればミニシアターを10スクリーン集めた“ミニシアターシネコン”も都内ではビジネスとして成立すると思っています。都会のど真ん中である渋谷にあるアップリンクも、土日やサービスデイはまだしも、40席でさえ連日満席にできるわけではない。でも、お客さんの好みは多種多様になっている。それなら、1スクリーンあたりの席数を増やすのではなく、キャパシティを最低限にして、スクリーン数を増やした方が平均動員数は多くなる。アップリンクでは自社配給作を中心としたアート系のドキュメンタリー作品もあれば、公開から数ヶ月が経過したハリウッド大作も上映しています。10スクリーンとまではいきませんでしたが、渋谷を超える5スクリーンとなっただけに、1日に20作品以上は上映できると考えています。アップリンク吉祥寺に行けば、「いま観たい作品が必ずある」そんな編成にしたいと考えています。

●吉祥寺にオープンの構想は10年以上
ーー現在(7月15日)も4月6日に公開された『娼年』がアップリンク渋谷では上映されているなど、見逃してしまった映画がアップリンクに行けば必ず上映している印象です。アップリンク吉祥寺のオープンによって、さらに充実しそうですね。

浅井:ロードショー作品を上映する場合と旧作を上映する場合では、当然配給会社に支払う金額も変わってきます。さまざまな契約の形はありますが、基本的に名画座の場合は上映したい作品の素材を一週間5万~20万円で借りるレンタル代のみを配給会社に支払います。その期間は何回上映してもいいし、お客さんの数によって増減があるわけではなく、その間の売上はすべて映画館のものとなります。一方、ロードショー作品は、観客の動員数に応じて料金を配給会社に支払います。ミニシアター系作品だと大体50:50ですが、大手配給会社の場合、7割ほど支払うケースもある。アップリンクは、ロードショー館と名画座の間、いわゆる二番館の役割を担っています。この二番館としてのビジネスが、今まであるようでなかったんです。どうしても名画座はパッケージも発売されているようなタイミングになるので、公開から半年以上経ってからの上映がほとんど。ロードショー作品はデジタル化によって番組編成が容易になった分、上映作品の入れ替えが激しい。その結果、観たかったのに観ることができなかった作品が、映画ファンの中で多くなっている。そうした背景もあり、二番館としてアップリンクが求められている手応えはありますね。配給会社の方や監督にとっても、ロングラン上映で2ヶ月、3ヶ月と上映されていることを喜んでいただいています。

ーー去年から今年にかけての作品で言えば、『バーフバリ 王の凱旋』はかなりのロングラン上映を行っていました。

浅井:普通なら新宿ピカデリーなどの大きいスクリーンで観たい作品だと思うのですが、『バーフバリ』ファンの方は、アップリンクのような小さいスクリーンでもまた違った面白さがあると言ってくれています。同じ作品でも劇場を変えて初めて気づく楽しさがあるのかもしれません。

ーー2014年にバウスシアターが閉館した頃から、吉祥寺に映画館を作るという構想はあったのでしょうか?

浅井:バウスシアターが健在だったころでも、アップリンク配給の作品はなかなか上映してもらえていなかったので、吉祥寺に映画館を作りたいとは10年以上前から考えにありました。いくつか候補はありましたが、家賃の問題などで実現に至らず、今回パルコさんとの共同という形でやっと実現できました。

ーー満を持しての試みだったと。アップリンク渋谷もさまざまな工夫が施されていますが、吉祥寺はどんなテーマを掲げているんでしょうか?

浅井:シネコンなどの画一的な映画館のデザインと違った、デザイナーズミニシアターのイメージです。スクリーンごとに椅子の色や形を変えて、明確なコンセプトを作る予定です。もともと本屋さんが入っていたワンフロアをスケルトンにしての映画館作りですので、アップリンク渋谷よりは自由に設計ができるのかなと。音に関してもかなりこだわろうと思っています。先日、カンヌ国際映画祭の帰りにイタリア・フィレンツェに寄ってきました。フィレンツェにはアンプメーカーのPowerSoftの本社があるからです。「アンプ界のフェラーリ」と呼ばれているんですが、実際に視聴したところ音の質がこれまで使用していたものとは段違いでしたので車で言えばエンジンはPowerSoft。そしてタイヤに当たるスピーカーは、タグチクラフテックが開発した、振動体が平面となっているスピーカーをこの映画館用に開発してもらっています。

●映画館ビジネスの可能性はまだまだある
ーー渋谷と吉祥寺では街に合わせて上映する作品の選定にも変化が?

浅井:映画興行の世界でいうと、吉祥寺は東京23区外ということで、横浜や川崎と同じような括りとなるんです。例えば、新宿と渋谷の場合だと、どうしても作品が競合してしまうから、新宿だけで上映したいという配給会社や劇場側の狙いがある作品があります。でも、吉祥寺だと新宿に場所は近くても、競合エリアとしては別とみなされる場合もあるので、上映できる可能性が出てくる。もっと言えば今まで都内は有楽町のみで上映されていた作品が、吉祥寺なら渋谷とは違う“エリアの外”という扱いで上映できる可能性がかなり高いんです。上映する作品の傾向は渋谷と同じでも、上映できるタイミングは大きく異なってくる可能性が出てくるかなと考えています。これは始まってみないと分からないですが。

ーー渋谷と吉祥寺は井の頭線で一本で行けるだけに、映画鑑賞のハシゴもできそうですね。

浅井:そうですね。パート1の映画を渋谷で上映した後に、パート2を吉祥寺で上映したり(笑)。何か相互割引も考えたいと思っています。

ーー渋谷と吉祥寺の街としての違いはどんなところにありますか?

浅井:吉祥寺は自転車で移動している人が多いです。つまり、駅のすぐ近くに住んでいる人が多い。もちろん、渋谷アップリンクにも自転車で来ている方はいると思いますが、観客のほとんどが自宅は渋谷から離れたところにあると思います。その点では、正真正銘、人々の暮らしの中にある映画館となるなという感覚はあります。

ーーその違いは作品ラインナップにも影響が?

浅井:当然あります。例えば、アップリンク渋谷ではファミリー層をターゲットにはしていないので、子供向けアニメーション映画はほとんど上映していません。でも、吉祥寺では必ずニーズがあると思います。

ーー今までのアップリンク渋谷とは一味違う編成になると。でも、そうなるとアップリンク吉祥寺は、まさに“なんでも観ることができる”ラインナップになりそうですね。

浅井:まだ日本には“なんでも観ることができる”映画館は誕生していないだけに、その先駆けとなるような映画館にできたらいいですね。パリのポンピドゥー・センターの近くにUGCというシネコンがあるのですが、このシネコンは31スクリーンもあって、封切られる映画はすべて観ることができるような体制となっているんです。

ーー日本でも今後そういった映画館も?

浅井:品川と田町の間に新しく山手線の駅ができますが、品川の海岸寄りには膨大な土地が空いているだけに、あのあたりに超巨大シネコンができたら面白いかもしれないですね。まだアップリンク吉祥寺がオープンする前に言うのもなんですが、機会があればほかの場所でも3~5スクリーンのミニシアターを展開したいとは思っています。

ーー映画館ビジネスの可能性はまだまだあると。

浅井:映画は衰退しているという声があって、映画館が閉館するたびに「映画館ビジネスは大変ですね」と声をかけられますが、東京と神奈川に限って言えば、まだまだチャンスはあると思っています。確かに、80年代~90年代のミニシアターブームとは今は違う状況だと思いますが、20年前の映画館のままで現在も同じように通用するという考え方がそもそも違う。客席数の増減や、館内サービスなど、リノベーションを行っていけば十分に利益を出すことができるはず。150席が1スクリーンよりも、50席が3スクリーンあるほうが今の時代には合っています。昨年から始めたオンライン映画館「アップリンク クラウド」も観客を奪い合う敵にはならず、リアルな映画館との相乗効果で順調に数字を延ばしています。新しい技術が次々と生まれている今だからこそ、映画館、映画ビジネスも常に変化していかないといけないと思います。

(取材・文=石井達也)