Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 『あなたの番です』が可視化する“現代の呪い”とは? 企画屋・秋元康の才能が全面に出たドラマに

『あなたの番です』が可視化する“現代の呪い”とは? 企画屋・秋元康の才能が全面に出たドラマに

映画

ニュース

リアルサウンド

 日曜夜10時30分から放送されている『あなたの番です』(日本テレビ系)は交換殺人を題材にしたミステリードラマだ。

 主人公はマンション・キウンクエ蔵前に引っ越してきた夫婦、手塚菜奈(原田知世)と15歳年下の夫・翔太(田中圭)。

 引っ越し初日、住人会に参加した菜奈はマンションの住人たちと話の流れで「死んでほしい人間」の名前を投票用紙に書いてクジのように引くゲームに参加する。

【写真】年下の夫役を好演中の田中圭

 初めはただのゲームだと思っていた菜奈だったが、その夜、管理人の床島比呂志(竹中直人)が何者かによって逆さ吊りにされ、頭から落下する姿を目撃する。マンションの掲示板には「管理人さん」と書かれた投票用紙が張り出されていた。

 殺人が続く中、菜奈たちは自分たちが書いた名前と投票用紙に書かれた名前をお互いに確認して住人同士で協力しようと持ちかける。しかし、住人たちの考えはバラバラでなかなか一つにならない。

 企画・原案は秋元康。AKB48を筆頭とするアイドルのプロデューサーとして知られる秋元には作詞家としての作家的側面と、イベント化、ゲーム化によって状況を盛り上げていく企画屋としての側面がある。今作は企画屋としての秋元の才能が全面に出たドラマで、交換殺人を通して描かれるマンションの住人たちの姿を、人狼ゲームを見るかのように楽しませてくれる。

 意外だったのが、第5話で殺されたのが、俳優の袴田吉彦だったこと。名前を書いたのは101号室の久住譲(袴田吉彦)で、「袴田と顔が似ている」と言われ続けたことにうんざりして、名前を書いてしまったという。久住を演じているのが袴田吉彦だということにかけたギャグにも見えるが、殺人が全く縁のない人間に波及したことで、物語の不気味さが倍増したように感じた。

 そして久住が受け取った紙に書かれていたのは、細川朝男(野間口徹)。翔太がスポーツジムで担当している客で、書いたのは菜奈だ。

 菜奈は朝男と過去に結婚しており、籍はまだ残ったままだった。離婚届けを出さずに菜奈を苦しめる朝男に詰め寄った翔太は、現状では翔太と菜奈の関係は不倫関係にあり、裁判になれば有利なのは俺だと反論される。

 菜奈は、久住に絶対に朝男を殺さないでくれ、と言う。ここで久住の殺人は止まるように思えるが、まだ油断できない。何より、朝男が妻と婚姻関係にあると知った翔太がどう動くか? 最初に殺される管理人を演じた竹中を筆頭に、アクが強い役者が揃っている中、田中と原田が演じている夫婦は演じる俳優のイメージもあってか善良なキャラクターに見えたが、物語が進んでいく中でどう変わっていくのか心配である。

 本作はミステリードラマだが、2クールということもあってか、あって当然のものが、未だ明らかになっていない。

 普通のミステリードラマなら、ある事件が起きると、その謎を解く探偵が現れ、事件のトリックを解明する。その後、第二、第三の殺人が起こり、そのトリックとアリバイを探偵が崩していき、最後に犯人にたどり着き、犯人は反抗理由を語り物語は終わる。

 というのが基本的な流れだが、犯人がわからないまま殺人だけが次々と起こり、探偵役の主人公たちも事件を捜査する刑事たちも、あまり機能していない。

 おそらく1クール目は混乱するマンションの状況をみせて、2クール目の後半くらいから伏線を回収していくのだろうが、現時点では黒幕がわからないまま、状況だけがどんどん悪化している。ただこれは欠点ではない。(現時点では)辻褄合わせがおこなわれていないことによって、事件の持つ不気味さの方が際立っている。

 この見せ方はミステリーというよりは、ホラーに近いのではないかと思う。

 本作をみていると「呪い」という現象について改めて考えてしまう。かつては前近代的で荒唐無稽な迷信だと思われていた「呪い」だが、Twitter等のSNSを普及して以降、毎日のように起きている炎上騒動を見て、改めて多くの人がリアルなものとして実感しているのではないかと思う。

 フィクションの中で、こういった現代の「呪い」を描いてきたのが、中島哲也監督の映画『告白』や『来る』だろう。

 特に『来る』はある夫婦に訪れた「呪い」が周囲に波及していく姿とお祓いに挑む霊能力者たちの姿を描いた問題作だった。

 小説家のコーマック・マッカーシーが脚本を担当し、リドリー・スコットが監督した映画『悪の法則』も、麻薬カルテルの報復という形で現代の「呪い」を描いていたが、ここで言う「呪い」とは、一度発動すると止まることのなく、人々を蹂躙していく圧倒的な暴力装置のことである。

 そんな制御できない巨大な暴力(呪い)を、交換殺人ゲームという形で可視化したのが『あなたの番です』の暗い魅力だ。

 禁忌を犯したことで発動した「呪い」をどうやって止めるか? おそらく伏線の回収は2クール目に入ってからおこなわれるのだろうが、犯人不在のまま人がひたすら死んでいく現在の状況は、とても現代的ではないかと思う。

(成馬零一)