フジロック2018、要注目の洋楽アクトは? 小野島大が50組を徹底解説
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今年も暑い夏がやってきて、フジロックの季節になりました、タイムテーブルも発表され、最終ラインナップも確定しています。例年通り、洋楽の主な出演者を紹介しましょう。かなり数が多いので注意。
27日(金)
[Green Stage]
N.E.R.D.
今や米国ポップミュージックの最重要人物のひとり、ファレル・ウイリアムス率いるN.E.R.D.の10年ぶり来日はフジロックになりました。2日目のケンドリック・ラマーもそうですが、従来であればサマーソニックで呼びそうなイメージがあるヒップホップ〜ブラックミュージックの気鋭アクトをグリーンステージのトリに抜擢したのは、フジロックの今後の方向性を示していると言えるでしょう。いつまでもロックだけがポップミュージックの王様ではない。そうした世界的なポップミュージックの潮流の中で、当然の判断だと思います。7年ぶりの新作『No_One Ever Really Dies』を引っさげてのステージ。派手に盛り上げてくれそうです。
N.E.R.D & Rihanna – Lemon
Years & Years
俳優としても活躍する美形ボーカリスト、オリー・アレクサンダーを中心とする英国シンセポップ3人組。2015年に発表した1stアルバム『Communication』が全英チャート1位となり、先ごろ3年ぶりの新作『Palo Santo』がリリースされたばかりです。フジロックへの出演は2016年以来2度目。2年前よりもスケールアップした、アイドル性もたっぷりの華やかなステージを展開してくれそう。
[White Stage]
Post Malone
個人的に今回のフジロックでもっとも楽しみにしているひとつが、このポスト・マローン。NY生まれテキサス在住の弱冠23歳。新作『beerbongs & bentleys』が全米チャート3週連続1位、収録された18曲すべてがチャートインするという前代未聞のセールスを上げ、エミネム以来、もっとも大きな成功を収めている白人ラッパーという評価を揺るぎないものにしています。メロディラインの美しさ、声のまろやかさ、フロウのしなやかさで、ポップでメロウでアーベインなR&B/ヒップホップの理想郷を描いています。滑らかなボーカルも、ソフィスティケイトされたアレンジも、完成度の高いトラックメイクも、ディテールまで神経の行き届いた音響デザインも、あらゆる点でレベルが高い。ロックで自己形成した世代が、ロック以外の表現手段を指向している一例でしょう。N.E.R.D.と出番が重ならない主催者の配慮も嬉しいところ。
Odesza
シアトル発の2人組Odesza。各ストリーミングサービスでの再生回数、ライブの動員など、今やThe Chainsmokersと並んで最も勢いのある旬なエレクトロニックミュージックのユニットと言えるでしょう。イケイケのダンスミュージックというより、憂いを含んだメロディアスで広がりと奥行きのある音楽性が特徴。なにより曲が素晴らしいです。新作『A Moment Apart』を引っさげての登場。海外のフェスではメインステージのヘッドライナー級のアクトなので、この規模で見られるのはラッキーかも。20時20分と暗くなってからの登場なので、照明の美しさも堪能できそうです。
Albert Hammond Jr.
ご存じStorokesのギタリスト。先ごろ4枚目のソロアルバム『Francis Trouble』をリリースしたばかりです。「インディロック」の枠にとどまらない、小細工のないオーセンティックなロックンロールの魅力を堪能しましょう。
Parquet Courts
2014年のフジロックで、初期WIREをさらに激しく、カッティングエッジにしたようなイキのいい演奏が、拾いものだったブルックリン拠点の4人組。レッドマーキーからホワイトステージへ、順調に出世しての登場です。デンジャー・マウスがプロデュースした新作『Wide Awake!』は、ポストパンク〜ローファイガレージ的なスタイルはそのままに、80年代のアメリカのパンク/ハードコアに通じる骨太で泥臭いギターロックへと変化、ファンキーなラテンファンクやダビーなエフェクト、60年代サイケロックなど多様性が増し、アート性の高いオルタナティヴロックへと進化していました。ライブでその成長を確認しましょう。
[Red Marquee]
Mac DeMarco
カナダ出身のシンガーソングライター。3年ぶり新作『This Old Dog』を引っさげての登場です。どことなく細野晴臣にも通じるような、肩の力の抜けたゆるやかな歌と演奏が、暑い夏の日にぴったり。ライブでは性格の良さが滲み出るようなチャーミングなパフォーマンスが魅力です。できれば事前に歌詞を覚えていって、一緒に歌いたいところ。
Tune-Yards
カリフォルニア拠点のメリル・ガーバスを中心とするインディポップユニット。最新作『I can feel you creep into my private life』を引っさげての登場です。抜群のポップセンスと自由奔放な実験精神、ソウルフルで力強いボーカルは魅力たっぷり。個人的には惜しくも解散したCibo Mattoの後継者としても期待したいところ。社会性の強い歌詞も注目です。
Let’s Eat Grandma
英国の10代女子によるアートポップデュオ。先ごろ2ndアルバム『I’m All Ears』をリリースしたばかりです。なかなかにフォトジェニックな2人ですが、ただ可愛いだけではなく、どことなくオフビートで、クラシカルでゴシックなニュアンスも感じ取れる奇妙な感覚のアートポップ〜インディポップを演奏します。長髪のアンニュイな美少女2人が並んでのパフォーマンスも見どころ。フジロックをきっかけに、これから日本でも人気が出そうです。
[Planet Groove]
Jon Hopkins
本サイトの新譜キュレーション連載(Oneohtrix Point Neverの新アルバムはボーカルにフィーチャーした傑作に 小野島大の新譜10選)でも新作を取り上げたロンドンのプロデューサー。Coldplayの『美しき生命』に楽曲提供/プロデューサーとして参加したことで知られるようになりましたが、なんといっても彼の評価を決定的なものにしたのが2013年発表の大傑作『Immunity』でしょう。今年になって5年ぶりの新作『Singularity』を発表。絶賛されています。圧倒的なスケールと深度で鳴らされるシネマティックでドラマティックなアンビエント〜ドローン〜エレクトロニカは圧巻。単独公演も決定していますが、深夜の苗場で聴くジョン・ホプキンスは、聴く者をこことは違う別世界に誘ってくれるに違いありません。
Peggy Gou
韓国生まれ、ベルリン在住のDJ/プロデューサー。ディープハウス〜テックハウスで、新旧に偏らない幅広く非常にバランスのとれた柔軟な選曲が持ち味で、場を読む力に長けているので、誰でも楽しめるのではないでしょうか。最近になって<Ninja Tune>からEPも出しています。
HVOB
オーストリアの男女エレクトロニカデュオ。昨年3枚目のアルバム『Silk』をリリースしたばかりで、来日はこれが初めて。ダークでテッキーなミニマルディープハウスですが、ライブではドラムスをフィーチャーしてよりパーカッシブでダイナミックなサウンドを展開しているようです。アンニュイな女性ボーカルがクセになる感じ。深夜のレッド・マーキーにはぴったりな感じです。
[Field Of Heaven]
Marc Ribot’s Ceramic Dog
ラウンジ・リザーズに始まり、エルヴィス・コステロ、トム・ウェイツ、カエターノ・ヴェローゾ、矢野顕子など八面六臂の活躍を見せるNYのギタリストのリーダーバンド。先ごろ5年ぶりとなる3rdアルバム『YRU Still Here?』をリリースしたばかりです。御年64歳のベテランとは思えぬエネルギッシュでノイジーでハードコアな『NO NEW YORK』直系のやさぐれたバンドサウンドが強烈にかっこいい。これは絶対ライブが盛り上がるはずです。
The Teskey Brothers
オーストラリアの6人組。昨年1stアルバム『Half Mile Harvest』をリリースしたばかり。実にオーソドックスでオールドスクールなサザンソウルスタイルを演奏します。世界各地のフェスで腕を鍛えた実力派。ボーカルがかなり強力で、言われなければ20代の豪州白人青年とは思えないディープで渋い音楽をやっています。いかにもフジロックらしい選出。同日深夜のクリスタル・パレス・テントにも出演。
Esne Beltza
スペインはバスクの9人組。2009年にデビュー、同年フジロックに出演しており、今回はそれ以来の来日です。エネルギッシュで哀愁あふれるミクスチャーミュージックを演奏します。ライブで盛り上がらないはずがないストリートミュージックの最高峰。28日のホワイト・ステージにも出演します。
[CRYSTAL PALACE TENT]
Nathaniel Rateliff & The Night Sweats
ミズーリ出身のナサニエル・レイトリフ(Vo/Gt)率いる8人組。フォーク、R&B、ブルーズ、ゴスペルなどルーツアメリカ音楽に根ざしたベーシックなロックを演奏します。むさくるしい風貌ですが音は良い。最新作は名門<Stax Records>から出た『Tearing at the Seams』。PVを見れば、このバンドがどこに支持基盤を置いているのかよくわかると思います。28日のフィールド・オブ・ヘヴンにも登場。
Nathaniel Rateliff & the Night Sweats – Full Performance (Live on KEXP)
[苗場食堂]
Interactivo
キューバの大所帯バンド。キューバ伝統音楽にファンク、ジャズ、R&Bなどをミクスチャーしたご機嫌なダンスバンドです。年寄りが伝統音楽を型通りにやっているようなものではなく、もっとビビッドで開放的。不定形でそのつどメンバーが入れ替わるあたりは「キューバの渋さ知らズ」というところ。果たして苗場食堂の狭いステージに何人載るんでしょうか。29日のフィールド・オブ・ヘヴンにも登場しますが、苗場食堂の方が客席と近い分盛り上がりそうです。28日のジプシー・アバロン、29日のクリスタル・パレス・テントには、このバンドのメンバーによる、よりキューバ伝統音楽に根ざしたプレイをする別バンド、Cubana Fiestaも出演します。またメンバーのロベルト・カルカセースはトリオ編成のバンドで28日カフェ・ド・パリ に出演。
Hothouse Flowers
なんとびっくり、アイルランドの至宝Hothouse Flowersが苗場食堂に登場です。通算6作目、12年ぶりの新作『Let’s Do This Thing』を引っさげ、17年ぶりにフジロックに登場。デビュー30年、U2のボノに「世界一のホワイトソウルシンガー」と評されたリアム・オ・メンリィの一向に衰えぬソウルフルなボーカルと、情熱と誠実と知性に溢れる演奏は、さらに滋味とパワーを増しています。苗場食堂では庶民のストリートバンドとしての彼らの底力を堪能できるでしょう。もっとゆっくり見たいという人は日曜日のフィールド・オブ・ヘヴンで。31日火曜日には東京で単独公演もあります。
[木道亭]
Nick Moon
UKのポスト・ロック/エレクトロニック3人組Kyteのフロントマンがソロ活動を開始。アルバム『Circus Love』を引っさげてのフジロック登場です。歌、演奏、レコーディングからミックスに至るまで、すべてがニック1人の手によって作られた同作は、Kyteの作品よりもダンサブルでポップで軽快で明るく開放的な作風でした。メランコリックでドリーミーでエモーショナルなメロディとサウンドは健在。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの全国ツアーに同行し、日本文化をたっぷり吸収した直後のフジ登場。しかも木道亭の出演とは面白い。フジはここにしか出ないので、ファンには見逃せないライブになりそうです。
[PYRAMID GARDEN]
Ray Barbee
カリフォルニア在住のプロスケーターであり、フォトグラファーであり、ギタリストでもあるレイ・バービー。米西海岸文化を象徴するような人物です。何度も来日していて日本にもなじみ深い人ですね。13年ぶりのアルバム『Tiara for Computer』を引っさげての登場です。チルアウトしたライトなインストジャズを得意としますが、トミー・ゲレロやTortoiseのメンバーも参加した同作は、ロック〜エレクトロニカの要素の強い作品でした。長い日本ツアーの最後にフジロックに出演します。
Ray Barbee “Future Blues” Japan Tour 2018 | Trailer
28日(土)
[Green Stage]
Kendrick Lamar
今さら説明するまでもない米ヒップホップの最高峰に位置するラッパーであり、音楽面でもポップアイコンとしても社会的な影響力という意味でも、あらゆる点で現在のポップミュージックの最重要と言える人物です。先ごろ東京メトロ国会議事堂前駅と霞ヶ関駅に、黒塗りの来日告知広告を出して話題となりました。フジロックへは大出世作『To Pimp a Butterfly』(2015年)のリリース前の2013年に一度出演しています。その時裏のビョークを見ていてケンドリックを見逃したのが個人的な痛恨事なんですが、その後の大ブレイクでギャラが高騰し日本のフェスへの出演は難しいのではないかと思われていただけに、今回の出演決定は快挙と言えるでしょう。見逃し厳禁です。
Kendrick Lamar – DNA./HUMBLE.(2017 MTV Video Music Awards)
Skrillex
現代EDM/エレクトロハウスの第一人者スクリレックスの出演は2013年以来です。一口にEDMと言ってもいろいろありますが、この人のスタイルはとにかく派手でダーティでノイジーで刺激たっぷり。骨太なベース音をまるでヘヴィメタルのギターリフのように楽曲の中心に据え、美しく典雅なシンセ音と様々なサンプリングを配して凄まじい音圧で圧倒します。
Johnny Marr
これまた説明するまでもない元The Smithsの達人ギタリスト。初の自伝『ジョニー・マー自伝 ザ・スミスとギターと僕の音楽』に続き、ソロアルバム『Call The Comet』を引っさげてのフジ登場です。新作はこれぞジョニー・マーと言わんばかりの、「求められるジョニー・マー像」をきっちり聴かせてくれる、ファンなら嬉しい作品でした。ギターも美しくメランコリックに鳴っています。フジではThe Smithsの名曲もまじえて楽しませてくれるはず。
[White Stage]
Fishbone
Red Hot Chili Peppersにも大きな影響を与えた西海岸ミクスチャーの元祖。何度も来日していて日本にはなじみ深いバンドですが、フジロックは2010年以来の出演。絶対に客の期待を裏切らない生粋のライブバンド。今回も盛り上げてくれるはず。
Ash
北アイルランドの「恐るべき10代」、Ashももはや結成25年。最新作『Islands』では相変わらずオーセンティックで情熱的なポップロックを聴かせてくれます。日本でもファンが多く、フジロックにもお馴染みのバンド。安心して楽しめそうです。
Starcrawler
話題の西海岸ガレージ4人組。1stアルバム『Starcrawler』をリリースしたばかりです。弱冠18歳の女性ボーカリスト、アロウ・デ・ワイルドが針金のように細い手足を痙攣させながらのたうち回る狂乱のライブパフォーマンスは確かに面白い。私は見逃しましたが、春の単独来日公演も好評だったようです。なにより、「今この時に見ておきたい」刹那感がハンパないので、少しでも関心あるなら見逃し厳禁です。
[Red Marquee]
MGMT
NYブルックリンのインディポップ2人組。「Kids」「Time To Pretend」「Electric Feel」といったアンセムでセンセーションを巻き起こしてから9年もたつのかと思うと時の流れは早いですが、新世代アートサイケポップの象徴だった彼らは紆余曲折を経て今も健在。新作『Little Dark Age』を引っさげ、2010年以来のフジロック復帰です。
Superorganism
ロンドンを拠点に活動、イギリス、日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国という多国籍のメンバー8人によるロンドン拠点のバンド。英名門<Domino>と契約し1stアルバム『Superorganism 』を発表したばかりです。エレクトロ、ローファイ、サイケ、ヒップホップなど多彩な手法によるオフビートなインディポップ。ヘタウマなボーカル(17歳の日系少女Orono)が味です。このバンドこそ苗場食堂で見ると最高に楽しそうですが……。
Lewis Capaldi
スコットランド出身の21歳のシンガーソングライター。9歳のころにギターを始め、12歳の時にパブで歌い始めたという早熟児です。2017年デビュー、まだアルバムリリース前の新人ですが、各ストリーミングサービスの再生回数はずば抜けていて、2018年4~5月はサム・スミスのヨーロッパツアーのサポートを務めるなど大きな注目を集めています。とにかくずば抜けて歌がうまく、声が強い。楽曲の出来も素晴らしく、ほとんど弾き語りに近いようなシンプルなバックであっても、いやだからこそ、その表現力の凄さと説得力はハンパではありません。掛け値なしの大物です。早い時間ですが、お見逃しのないよう。
[Tribal Circus]
Princess Nokia
NYのプエルトリコ系女性ラッパー、ディスティニー・フラスケリことプリンセス・ノキア。オールドスクールR&B/ファンクをベースにモダンで垢抜けた感覚のアレンジで、軽やかで歯切れのいいラップを聴かせます。フェミニズム的視点から都市に生きる20代黒人女性の心情をしなやかに表現する姿勢もかっこいい。ボズ・スキャッグスの大名曲「Lowdown」を大胆に引用した「Soul Train」は必見・必聴です。
The Avalanches (DJ Set)
The Avalanchesが16年ぶりの新作『Wildflower』を引っさげてフジロックのグリーンステージに登場したのは昨年のこと。女性ボーカルをフィーチャーした生バンド形式のショーは、徹底してオプティミスティックでハッピーでアップリフティングな楽しいライブだったものの、彼ららしい自由奔放さがイマイチ影を潜めていて、個人的には少し物足りないような気もしました。むしろ今回のようなDJセットの方が、彼ららしさが存分に発揮される気がします。
[Field Of Heaven]
Carla Thomas & Hi Rhythm W/Very Special Guest Vaneese Thomas
なんとメンフィス・ソウルの女王、<Stax Records>ド全盛期を象徴する歌姫が御年75歳にしてフジロック初登場です。あのオーティス・レディングとも共演したサザンソウルの華。昨年のライブ動画を見る限り、声も出ているし、喋りも快調、カラダも動いています。こういうレジェンドを気軽に見られるのがフジロックの醍醐味ですね。
Rancho Aparte
Rancho Aparteはコロンビアの7人組。カリビアン、アフリカンからラップ、ソウル、ファンクといった音楽をミクスチャーしています。基本的に歌もので、ボーカルが強力でコーラスもキャッチー。いかにもフジロックの場に合いそうなバンドですね。同日深夜クリスタル・パレス・テント、初日の木道亭にも出演します。すべて生楽器でドラムセットを使わないので身軽。もしかしたらそのほか会場のあちこちで見られるかもしれません
29日(日)
[Green Stage]
Bob Dylan & His Band
長い間噂されていたボブ・ディランのフジロック出演が実現。N.E.R.D.、ケンドリック・ラマー、ディランという3日間のヘッドライナー(ディランはトリ前の出演ですが、もちろん実質的にはヘッドライナーです)は、他国のフェスティバルと比べても胸を張れる見事なラインナップだと思います。ノーベル賞受賞者とピュリツァー賞受賞者が両方出るフェスというのも凄い。ディランの裏はほとんど誰もやっていないタイムテーブルは、もちろん主催者の「この時間はディランを見ろ」というメッセージです。どんな曲をどんな形でやるか。まったく予測がつきませんが、ありきたりなヒットパレードにはならないことは確実です。
Vampire Weekend
今年がデビュー10周年のVampire Weekend。フジロックは2013年以来5年ぶりです。ディランが大トリではなくトリ前の出番になったため、ついにヘッドライナーの大役を務めることになりました。とはいえ2013年以降新作は出ていないという状況で何をやるのか。今年6月には2008年発表の1stアルバム『Vampire Weekend』の全曲再現ライブをやり、新曲も披露したとのこと。果たしてフジではどんなライブになるんでしょうか。
Jack Johnson
おなじみジャック・ジョンソンは2014年以来の出演。昨年7枚目のアルバム『All the Light Above It Too』をリリースしたばかりです。楽しかったフェスの最後をゆるりと彩ってくれるに違いありません。
Anderson .Paak & The Free Nationals
後述のSerpentwithfeetと並び、個人的に3日目最大の期待がこれ。Dr.DREのアルバム『Compton』(2014年)に6曲フィーチャーされる大抜擢で一躍名を挙げ、2016年に出したソロアルバム『Malibu』が圧倒的に素晴らしかったアンダーソン・パークです。ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』に参加して一躍世界中の注目を浴びたトラックメイカー、ノレッジとのユニット、NxWorries(ノー・ウォーリーズ)の『Yes Lawd!』(2016年)でその評価を決定的なものにしました。ソウルフルで官能的でディープな声、60年代ジャズ、クラシカルなソウル/ファンクやディスコ、80年代R&B、90年代ヒップホップの伝統と普遍性を感じさせながらも、でもきちんと今の時代のブラックミュージックとしてのポップネスとエッジ感が見事に共存しています。ライブはかなりバンド感を強調したもので、自らドラムも叩く肉体的なものになりそう。グリーン・ステージはちょっと大きすぎる(早すぎる)感もありますが、アーティストの才能のスケールはそれ以上。今から楽しみです。
Chvrches
グラスゴー出身のローレン・メイベリー(Vo)を中心とした3人組。ノスタルジックな80’sシンセポップ風のサウンドと、ローレンのキュートな魅力で支持を広げてきた彼らですが、最新作『Love Is Dead』では、ベックやアデル、Years & Yearsを手がけたグレッグ・カースティンなどをプロデューサーに迎え、EDMやメインストリームのポップスのファンにもアピールしそうな音に仕上げています。日本のフェス出演は2013年のサマソニ以来ですが、あの頃はまだ自意識の殻をおしりにくっつけたインディ村の箱入り娘だったローレンも、その後の単独公演を経て大きく成長した姿を見せてくれるはず。
Kali Uchis
コロンビア生まれ、米ヴァージニア州で育った魅惑の24歳。ジョルジャ・スミス(サマソニに出演)と並び若手女性R&B歌手の最注目株のひとりでしょう。2014年にスヌープ・ドッグのミックス・テープに参加したことをきっかけに注目を集め、その後Major Lazerの「Wave」やGorillazの『Humanz』等に客演。今年になって1stアルバムの『Isolation』をリリース。サンダーキャット、ケヴィン・パーカー(Tame Impala)、BADBADNOTGOOD、グレッグ・カースティン、デーモン・アルバーン(Gorillaz)、タイラー・ザ・クリエイター、ブーツィ・コリンズ、さらにはライバル=ジョルジャ・スミスなど旬なゲスト/ソングライター/プロデューサーを迎え、ゆったりしたノスタルジックでオーガニックな、温かみのあるR&Bを作り出しています。ライブはこれに力強さが加わりエネルギッシュになる感じでしょうか。大期待です。
Kacey Musgraves
米テキサス州生まれ、ポップカントリーの歌姫ケイシー・マスグレイヴス。8歳の時 に曲を書き始め、18歳の時にカントリー音楽の世界で歌い始めたという実力の持ち主。これまでメジャーから発表した3枚のアルバムはいずれも全米チャート5位以内にランクされるなど本国での支持と知名度は抜群です。最新アルバムは『Golden Hour』(2018年)。5年前のメジャーデビュー時にはまだ若々しさを売りにしたようなところがありましたが、今や、ボーカルも音楽も、キャリアに相応した堂々たる貫禄と落ち着きを感じさせます。良く伸びる美しい声が苗場の自然に映えそうです。
THE FEVER 333
今年のフジロックはR&Bやヒップホップ系の出演が目立ちますが、数少ないロックらしいロックバンドがこれ。カリフォルニア出身のハードコア〜ラップコア3人組。昨年解散したカリフォルニアのハードコアバンド、Letliveのボーカリストだったジェイソン・アーロン・バトラーを中心に結成され今年になって7曲入りミニアルバム『Made In America』を発表したばかり。毎年必ず用意されるホワイト・ステージの「ラウドロック枠」はこれということでしょう。音楽性もパフォーマンスもテンション高く、観客の「暴れたい需要」には十分に応えてくれそうです。
[Red Marquee]
Dirty Projectors
米ブルックリン発のアートロックの代表格。フジロックは2010年以来8年ぶりです。デイヴ・ロングストレス以外のメンバーが全員抜けて実質デイヴのソロプロジェクトになった昨年の『Dirty Projectors』に続く8枚目のアルバム『Lamp Lit Prose』を引っさげての来日です。新作はこの原稿を書いている時点では未聴ですが、「失恋アルバム」だった前作に対して新作は「過去最高にアップリフティングなサウンド」(レコード会社資料より)となっているとのこと。ライブも盛り上がりそうです。
serpentwithfeet
ボルチモア出身のシンガーソングライター、serpentwithfeetことジョシア・ワイズ。本サイトの新譜キュレーション連載(serpentwithfeet、デビューアルバム『soil』で今最も注目されるべき存在に 小野島大の新譜8選)で「今最も注目すべき才能」と大プッシュさせてもらった異形の新人がついにベールを脱ぎます。今年になって初フルアルバム『soil』をリリースしたばかり。聖歌隊の出身で、NYのクイアミュージックシーンから出てきた人ですが、中性的なヴォーカルとゴスペルやクラシック、エクスペリメンタルR&Bが融合した音楽性が圧倒的にユニークで、かつ美しい。ポスト・マローンやアンダーソン・パークと並び、今フェス最大の目玉と思います。
Hinds
スペイン出身、今年になって2ndアルバム『I Don’t Run』が出たばかりの女性4人組、フジ初登場です。音楽性はシンプルでローファイなガレージロック。ノスタルジックな甘酸っぱい60年代バブルガムポップ風のメロディと、人懐っこいサウンド、娘たちの日常会話の延長のような歌を、予想以上にしっかりした演奏で聴かせます。それというのも世界中を旅して周り、グラストンベリーなど数々の大型フェスを経験してきたから。きっとフジでも楽しいライブをやってくれるはず。
[Sunday Session]
Berhana
バーハナはアメリカはアトランタ出身シンガーソングライターで、2016年にセルフタイトルのEPをリリースしています。オーソドックスなR&Bですが、ちょっと寂しげな声とメロディ、シンプルでオーガニックなトラックがロマンティックでリリカルですね。ご本人はかつて日本料理店で3年間働いていたようで、日本文化には造詣が深く、小津安二郎の映画や80年代の日本のディスコソングが好きだとのこと。ライブではそんな一面が見られるかもしれません。最新シングルの『Whole Wide World』は、なんと英パブロックのレックレス・エリックの曲。これまで数多くのアーティストにカバーされてきた隠れた名曲ですが、これを取り上げたバーハナというアーティストの音楽的背景にも興味がそそられます。
[Field Of Heaven]
Greensky Bluegrass
米ミシガン州出身の5人組。今回が初来日です。バンド名通りブルーグラスやカントリーを演奏するバンドですが、Grateful DeadやFish等のジャムバンドにも通じるスタイルを持っています。70年代にはカントリーロックと言われた音楽スタイルは、今や彼らのようなバンドに吸収されたと言っていいのではないでしょうか。これもまた、フジロックならではの色をもったバンドのひとつでしょう。これまでに6枚のアルバムを出していて、最新作は『Shouted, Written Down & Quoted』(2016年)。
Ben Howard
ベン・ハワードは英国出身のシンガーソングライター。これが初来日です。2008年に初のEP、2011年に1stアルバム『Every Kingdom』をリリースして、以降現在までに3枚のアルバムをすべて全英チャートのトップ5に送り込むほど高い人気と評価を得ています。最新作『Noonday Dream』(2018年)は、幻想的で立体的な音響デザインとシンプルで奥行きのあるアレンジ、内省的な歌がマッチした傑作。かつてのシド・バレットやニック・ドレイクに通じる英国アシッドフォークやサイケデリックロックの香りがします。このサウンドをライブでどう表現するのか。
Western Caravan
SMASHの日高正博代表いわく「フジロックで初めての純粋なカントリー&ウエスタンのバンド」(【日高代表 緊急インタビュー 前編】開催直前!大将が伝えたい、21年目のフジロック注目ポイント)ということで昨年フジロックに初出演の8人組が、2年連続で参加です。エルヴィス・プレスリーの「Little Sister」のカバーーが年期が入っていてかっこいい。同日の苗場食堂にも出演します。
Frente Cumbiero
コロンビア出身の4人組。当初はソングライター兼プロデューサーであるマリオ・ガリアノ・トロのソロプロジェクトでしたが、現在は4人編成のバンドで活動しています。コロンビアの伝統音楽であるクンビアをエレクトロニックな要素も加えモダンな感覚で演奏する新世代バンドで、マッド・プロフェッサーやQuantic、Kronos Quartetといったミュージシャンとの経験もあります。ライブでは徹底的にダンサブルに攻めてくるようなので、期待しましょう。同日のカフェ・ド・パリ にも出演します。
[Café de Paris]
SANDII&DENNIS BOVELL
最後にこれを紹介。元サンディー&ザ・サンセッツの歌姫サンディーの新作『HULA DUB』を、あのThe Pop GroupやThe Slits、坂本龍一も手がけた英レゲエ/ダブの巨匠デニス・ボーヴェルがプロデュース。そんな縁で実現した今回のフジロック出演です。今や日本のハワイアン界の第一人者であるサンディーとデニス翁のラヴァーズ・ロックがゆったりと合体。しかしこのアクトにカフェ・ド・パリ は狭すぎるんじゃないでしょうか。満員必至なので、見たい方は早めに並ぶことをお勧めします。見逃した方は直後から始まる全国ツアーを。
■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebook/Twitter
■イベント情報
FUJI ROCK FESTIVAL ‘18
2018年7/27(金)28(土)29(日)
新潟県 湯沢町 苗場スキー場
http://www.fujirockfestival.com