松岡茉優×Chara、吉岡里帆×あいみょん……アーティストの手腕が光る楽曲提供に注目
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女優の松岡茉優がイメージキャラクターを務めるアパレルブランド『ROPE PICNIC』のために書き下ろされた楽曲「星屑コーリング」のMVが、5月7日に公開され話題となっている。この曲は松岡と、松岡がデザインした『ROPE PICNIC』のワンピースにインスピレーションを受けたCharaが作詞作曲、そしてプロデュースを担当し、彼女とTENDREが編曲を行なったものだ。
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松岡の歌声は、例えば連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK総合)の劇中に登場するアイドルグループ・GMTのメンバー入間しおり役として、あるいは彼女が主演を務めた綿矢りさ原作の映画『勝手にふるえてろ』のミュージカルシーンの中でも披露されていた。が、あくまでも役柄に沿った表現であり、「シンガー松岡茉優」としての魅力を存分に引き出した楽曲というのは今回が初めてといえよう。またCharaにとっても「女優への楽曲提供」というのはこれまでなかった仕事であり、自ら掛け合いコーラスも買って出たという。実娘SUMIREと同世代である松岡へのこの提供曲を、楽しみながら制作したようだ。
曲調は、柔らかなアコースティックギターの音色と、美しく幻想的なヴィブラフォンによって導かれるメロウなソウル。MVと同時に配信されたメイキングによれば、「声フェチ」であるCharaは松岡の話し声をチェックし、「マイクを通したらきっと可愛くなる」と確信したという。ウィスパーボイスを基調としつつ、曲中にセリフを忍ばせたり、ブレス(息継ぎ)を強調したり、声のアーティキュレーション(ニュアンス)に重きを置いたそのメロディは、透明感あふれる松岡の声にぴったりで、Charaの狙い通り「ゾミゾミした(=鳥肌の立つような)」仕上がりとなった。
なお、MVではワンピースにコンバースのハイカットスニーカーという着こなしの松岡が、フェンダーテレキャスターを奏でる姿も披露している。
女優やモデルに楽曲提供することで、そのアーティストが持つ音楽性の特異さに改めて気づかされたり、あるいは別の魅力を発見したりするケースは他にもある。個人的にパッと思いつくのは、大森立嗣監督による吉田修一原作の映画『さよなら渓谷』(2013年)で、椎名林檎が真木よう子に書き下ろした「幸先坂」。「歌手ではない私が歌うなら信頼できる方と」という真木の提案により実現したコラボだが、真木の歌声を活かした椎名の楽曲は、映画の中で鮮烈な印象を放っていた。
ここ最近では、吉岡里帆にあいみょんが提供した楽曲「体の芯からまだ燃えているんだ」が印象的だった。
この曲は、ドラマ『時効警察』シリーズや、映画『亀は意外と速く泳ぐ』『図鑑に載ってない虫』で知られる三木聡が監督・脚本を務めた、本人待望のロック映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』劇中歌。阿部サダヲ扮する、4オクターブの声域と破壊的な声量を持つロックシンガー・シンに翻弄される、声が小さすぎるストリートミュージシャン明日葉ふうかを演じた吉岡に、あいみょんが提供したものである。
ドラマや映画などへの書き下ろしは今までもあったが、女優のために楽曲提供するのはChara同様、初めての経験だったというあいみょんだが、作品のイメージを掴むため、三木監督と行なった最初の打ち合わせですでに歌詞とメロディが思いついたという。2度目の打ち合わせの際に、監督の前でギターの弾き語りで披露してみせ、その場で採用。それを吉岡が、およそ半年に及ぶ特訓の末に、劇中にて歌い上げている。
三木監督からのリクエストにより、吉岡の持つ声域の限界スレスレまでフル活用したというメロディ。吉田拓郎からの影響を、90年代J-POPのフィルターに通したあいみょんの音楽性は、この曲でも垣間見ることができる。抑制の効いたAメロと、のびやかに飛躍するサビのコントラストは、小さすぎる声の持ち主だったふうかが、シンとの出会いにより魂を解放させていくストーリーをも見事に象徴しているのだ。
なお、あいみょんの作風がさらに際立ったのが、5月31日公開の映画『さよならくちびる』だ。小松菜奈と門脇麦が主演を務め、アコースティックデュオ・ハルレオのメンバーとして歌とアコギを披露するこの映画に、あいみょんは「誰にだって訳がある」「たちまち嵐」という2曲の挿入歌を書き下ろしている。憂いを帯びた門脇の歌声と、透明感あふれる小松の歌声、それぞれの声質を活かしながら軽快なフォークミュージックへと落とし込んだあいみょんの楽曲は、映画の同名主題歌を担当した秦基博の美しい楽曲と並ぶことによって、そのオリジナリティがより鮮明になっているのである。
最後に紹介するのは、モトーラ世理奈による「いかれたBaby」。モデルで女優のモトーラが、歌手デビュー第1弾シングルに選んだこの曲は、もちろんフィッシュマンズによる1993年の代表曲。〈悲しい時に 浮かぶのは いつでも君の 顔だったよ〉と歌う、狂おしいほど切ないこのラブソングを、モトーラはよく車の中で口ずさんでいたという。レコーディングには茂木欣一(東京スカパラダイスオーケストラ、So many tears)、柏原譲(Polaris、OTOUTA、So many tears)というフィッシュマンズのリズム隊が参加し、石井マサユキ(TICA、GABBY & LOPEZ)がギター、NARGO(東京スカパラダイスオーケストラ)がトランペットを演奏し、石井がサウンドプロデュースも務めている。
確固たる存在感を放ちながら、しなやかな表現力でいかようにも変化する女優/モデルたちは、コンポーザーにとって非常に魅力的な「素材」であることは間違いないだろう。今後も様々なコラボレーションが誕生することを期待したい。
■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。