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早稲田大学の人気講座に鈴木卓爾監督&矢口史靖監督が登場、映画作りを語る

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鈴木卓爾監督と矢口史靖監督

今年で4回目になる早稲田大学の人気講座「マスター・オブ・シネマ」とPFF(ぴあフィルムフェスティバル)のコラボレーション企画が25日(土)に開催された。今回は、現在『嵐電』が公開中の鈴木卓爾監督と、8月に新作『ダンスウィズミー』の公開が控える矢口史靖監督のふたりがゲスト講師で登場。自身の映画作りについて語るとともに、これから映画作りを志す学生たちにエールを送った。

この特別講義は、著名な映画人が自身の映画作りについて語るという、これからクリエイティブな仕事を目指す学生にとってはその道のプロの話を聞けるまたとない機会。会場には多くの学生が集まり、両監督の話に耳を傾けた。

鈴木監督と矢口監督は東京造形大学の1年違いの先輩と後輩で、大学在学時、同じ映画研究会サークルに所属。以来、ふたりは親交を温めてきた友人であり、同じ映画の道を歩む盟友であり、同じ映画監督のライバルでもある。

この日はまず、ふたりが継続して作品を発表し続けている短編シリーズ『ワンピース』のよりすぐりの傑作を集めた『ワンピース・インターナショナル・クラシックス』を参考上映。それを受けての講義となった。

『ワンピース』は、矢口監督と鈴木監督が生み出したひとつの映画創作メソッド。カメラは固定、撮影中にカメラには一切触れない、1シーン1カット、アフレコや音楽ダビングをはじめ一切の編集はなし、というルールの下に作られ、現在まで63作品が誕生している。

この試みは、矢口監督から始まったそう。矢口監督は「僕からの提案でした。初の商業映画の『裸足のピクニック』を発表して、この後はトントン拍子でいけると思ってたんですけど、実際はまったくなにもなくて(笑)。次作の『ひみつの花園』に携わるまで、たっぷり時間があった。ひと言でいえば、暇で、お金もない。それでもなんか作りたいなと思って、もう作っちゃおうと。自分の思いついたアイデアをさっさと映画にしたい衝動にかられたんです。クランクインとクランクアップ、作品の完成、そして打ち上げまで同日に完了することが、どういう撮り方なら可能なのか考えたとき、ワンピースの手法を思いつきました」とのこと。

続いて鈴木監督は「なんで、こんなことを始めたのかと根本的に考えたんですけど、僕も矢口君も大学で、かわなかのぶひろ先生のゼミを受けていた。かわなか先生はドラマを作ったりするような監督ではなかったんですけど、フィルムを使った実験映画を作っている映像作家で。たとえば、ありふれた日常をすごく柔軟な感じで小さな8ミリカメラで日記のように毎日毎日切り取っていく。まさしく、今皆さんがスマホで日常的にやっているようなことを、半年や1年かけて、ずっと撮りためていって。あるときに、その映像を編集でつなぎあわせていって、視点としては極めてパーソナルだけれども、そこからなにか通常のドラマでは生まれないものを生み出す。そんな実験性あふれる映像作家で。その先生の影響があった気がします。あと、当時、ちょうどビデオカメラが出てきた頃で。それまで僕らは8ミリフィルムで映画を撮っていたんですけど、撮れるのは10分ぐらい。でも、ビデオ、当時だと、Hi8でしたけど、2時間ぐらい撮ることができる。今の人たちは“2時間しか撮れないの?”というかもしれないですけど、当時の僕らにとっては大きくて。ビデオは宝の山に思えた。その恩恵があったからできたのが『ワンピース』だったかもしれません」と補足した。

そもそも、仕事のないときに映画のセンスを磨くために始められた『ワンピース』だが、映画界の第一線で活躍する今もふたりは制作を継続している。その創作が自身の映画作りに影響を与えているかに話が及ぶと、鈴木監督は「僕の場合、自分も出演してしまうことが多いので、カメラ側に誰もいないことがほとんど。役者たちがいろいろとやっているのを、カメラだけがじっと見ている。すると、不思議なことをやっていることに改めて気づくというか。考えさせられるんです。“映画ってなんなんだろう”と」とのこと。

一方、矢口監督は「僕はどうしても制作の話になってしまうんですけど、長編だろうが短編だろうが、スタッフがいて、スケジュールがあって、シナリオがあると、ある段取りが否応なく存在してしまう。その段取りによって、理由が生まれる。たとえば何時までに終わらせないといけないとか、今日は何カット撮らないといけないとか。あらゆることに制約が生じるんです。でも、『ワンピース』にはその制約がない。編集もしなければ、カットも割らないので、1日中、演出のためだけに時間と労力を注げる。僕にとっては非常に純粋な演出の時間を楽しめる機会なんです」と明かし、それに対して鈴木監督は「ここでいう演出というのは俳優に対する演技指導みたいなこともあるんですけど、それだけじゃなくて。映像をどういうふうに工夫するかも含むことだと思います」と付け加え、いずれにしてもふたりの創作において『ワンピース』が欠かせない存在であることがうかがえた。

また、矢口監督は「僕らはビデオカメラで始めたんですけど、今は時代が変わってスマホでも相当良い画質が撮れますから、たぶんアイデアさえあれば、僕らよりも面白いものが作れるんじゃないかと思います。追い越されるの怖いので、あんまり作ってほしくないんですけど(苦笑)」と、ジョークを交えながら、映画作りを志す若者が『ワンピース』にチャレンジすることを望んだ。

こんな映画談義が進み、最後は質疑応答へ。すると映画作りにチャレンジしたいと思っている学生から「伝えたいメッセージが先にあってはじめて作品は作っていいのか。それともそういうものを抜きに作っていいものなのか、自分の作りたい思いだけで作ってもいいものなのか?」という質問が。

これに対し矢口監督は「僕は観客の皆さんにこういうメッセージを伝えたいというのはほとんどなく、こんなエモーショナルなシーンが見れたらいいなぐらいでスタートすることがほとんどです。だけど、そのひとつのアイデアだけでは長編にはならない。だから、最後にどういう気持ちになってほしいとか、それを後から、もしくは同時に考えていくことが多いかな。ただ、『ワンピース』のような短編のときは、ひとつのアイデアや見た目1発の面白さだけでも全然OK。どんどん作っていいと思ってます」

一方、鈴木監督は「何か伝えたい事があっていいと思うんですけど、モチベーションとして、自身にあったとしても、映画にとってあまり関係ないことだったりするんじゃないかな、と僕は思っています。というのも結局映画って、なんでもかんでも映っちゃうんです。たとえば女優さんをアップで撮ったら、たまたま鼻毛が1本出ていたとする。すると、そこに目がどうしてもいっちゃう。つまり、自分はこういう風に作品を見せたいとか、このテーマを伝えたいと思っていても、鼻毛1本の破壊力に叶わないときがある。実は、映画というメディアの優位性はそこにあるんじゃないか。あるメッセージ性や思想性を脚本に込めようとしても、最終的に強いのは画なんですね。なので、逆に考えれば、メッセージうんぬんではなくて、何を見せたいのか考えれば映画は作れるのかなと。まず、人に“こんなことを見せたい”と考えるのがいいんじゃないかなと思います」と学生にアドバイスを送った。

そして、最後は矢口監督は『ダンスウィズミー』、鈴木監督は『嵐電』と、それぞれの新作に関する製作の裏側を披露して「ぜひ、観てください」と自作をPR。和やかなムードの中で講義は終了を迎えた。

取材・文/水上賢治

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