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サポート降格、週末だけ活動……各々のスタイルを軸にバンドと就職問題を考える

音楽

ニュース

リアルサウンド

「吉野エクスプロージョン、サポートギターへ降格のお知らせ」

 というニュースが、5月8日にハンブレッダーズのオフィシャルサイトにアップされた。THE BACK HORNの岡峰光舟や、東京スカパラダイスオーケストラの加藤隆志のように、サポートから正式メンバーになる、というのはよくあるが、逆はめずらしい。自分の知っている限りでは、初めて遭遇したかもしれない、こういうケース。

(関連:ハンブレッダーズ、マカロニえんぴつ……若者に支持されるバンドたちの“青春”の描き方

 アップされたメンバーのコメントと、ムツムロアキラ(Vo/Gt)のブログによると、大学を卒業後、ムツムロ以外の3人は就職して働きながらバンドを続けてきたが(ムツムロはコンビニでアルバイト)、活動が本格的に軌道に乗り始めて、今のままでは制約が大きいので木島(Dr)とでらし(Ba/Cho)は会社を辞めることを決意。しかし、吉野(Gt/Cho)は「この先バンドに集中して生きる選択肢はない」とムツムロに告げたという。

 それで、「新しいギタリストが見つかるまで暫くの間は吉野に協力してもらいます。もしかしたらすぐかも知れないし、半年かも知れないし、一年以上かも知れないし、それはわかりません」(ムツムロ)という方法を選び、吉野はサポートメンバーになる、来れない時は別のギタリストが弾く、ということにしたそうだ。

 何それ? と、最初は思った。次のギターが見つかるまでは正式メンバーのままで、次が見つかった段階で交替、というんじゃダメなの? いや、だから、それだと会社員との両立が無理なんですってば、ということなら、ここで吉野は脱退、今後は正式メンバー3人と別のサポートギターで活動していきます、そのうち正式メンバーのギターが入るかもしれないし、ずっとサポートのままかもしれないね、というのでもいいし。なんでそれらの方法じゃダメで、「降格」が現時点での最良の手段だと判断したの?

 と、まあ、あたりまえに考えたわけです。しかし。その次の瞬間に思い出した。「カステラがデビューした時の“ドラムは就職”状態、おもしろがってた側じゃねえか、俺は」ということを。

 カステラ。現在のTOMOVSKYこと大木知之がボーカルだったバンドです。早稲田大学の音楽サークルGECで結成、1989年6月にメジャーデビューするが、福田健治(Dr)が就職したため、活動は基本的に週末だけ。しかも福田の最初の赴任地が確か神戸だったので、土日のたびに東京まで戻って来る、という活動だった。

 当時はバンドブームの真っ只中であり、「なんじゃそれ」「プロをなめるな」みたいに批判を浴びることもあったが、だからこそ当時の僕には「おもしろい!」と、痛快に思えたのだった。この件に限らず、何かと「なめてる」とか言われがちなバンド、それがカステラだったのだが。それに対して当時、大木知之は「いいじゃん、自分の人生なんだから、なめたいだけなめても!」という名言を残している。ステージの上で自転車を漕ぎながら発した、というのが、その素敵さに拍車をかけていた。

 ただ、とは言え、メンバー3人にとってはかなり活動に制約ができるし、福田本人も身体もメンタルもしんどいだろうし、よくこの形を選んだなあ、とは思った。結局、4枚目のアルバム『よくまわる地球』まで在籍したところで、「もっと精力的に活動したい」というメンバーの申し出を受けて、福田は脱退することに。でも、今となっては、アルバム4枚まではそのまま続けた、という方がすごいと思う。

 ハンブレッダーズの話なのに、延々とカステラのことを書いてしまった。戻します。何を言いたかったのかというと、つまり、バンドの事情なんてそのバンドにしかわからない、ハタから見てどんなに「?」なことであっても、そのバンドがそれが最良と判断したのならそれでいい、ということだ。もっと言うと、それに納得できないファンとかがあれやこれや言うのは止められないし、どう思われてもしかたないけど、バンドはいちいちそれを憂う必要はない、という話だ。

 これ、解散とか活動休止とか、再結成とかにも同じことが言える。という事実を、2017年にSPARTA LOCALSが再結成した時に、思い知った。スパルタのライブに、フジファブリック山内総一郎と、活動休止中のgroup_inouのimaiが出るということで、その三者で鼎談を行ったのだ(こちらです。祝SPARTA LOCALS復活鼎談!7.22『AFTER BALLET』 出演者が大いに語る「SPARTA LOCALSの再生について」 前編)。

 そもそも、SPARTA LOCALSの復活というのは、ちょっと特殊だった。安部コウセイと伊東真一がスパルタ解散後に結成したバンド=HINTOって、途中でベースが卒業して、元スパルタの安部光広(コウセイの弟)が加入したので、4人中3人が元スパルタになった。そのHINTOを継続しながらスパルタが復活する、ということは、「ドラムだけ違う2バンドが存在する」という形になる。「はて? 何それ? ならHINTOでスパルタの曲もやればよくない?」みたいに思われてもしょうがない。そのへん、どう思います? ということを、山内総一郎とimaiに聞いたのだが、ふたりとも「そういうこともあるよね」というスタンスだった。で、「とにかく、スパルタが復活してライブを観れることがうれしい」と。

 この「そういうこともあるよね」というのは、「そういうこともあるというのが俺たちはわかるよ」という意味合いではない。「そのバンドの中のことはそのバンドにしかわからない、だからハタから見たら理解不能だけど、そのバンドにとってはそれしかなかったということがある、それを俺たちはわかるよ」というニュアンスだった。

 たとえば、5月19日代官山UNIT/UNICEで開催された、Sundayカミデ主催のイベント『Love sofa Tokyo』で、ワンダフルボーイズを観たのだが、番長(Dr)がいなくて、代わりにチャーリーという男がドラムを叩いていた。そのままなんの説明もなくライブを続けたワンダフルボーイズは、後半のMCでSundayカミデが、今日は番長が大阪で主催するレゲエのイベントと当たってしまったので不在である、ということをさらっと言葉にした。

 もうひとつたとえば、長谷川プリティ敬祐(Ba)、が交通事故に遭ってしまい、療養のため離脱しているgo!go!vanillasは、2018年末から年明けにかけてのライブは仲間のバンドマンたちにサポートを頼むことで乗り切り、4月以降は、プリティが事故前に弾いたベースの音源を使って3人でステージに上がる、という形でライブを続けている。これは脱退とかではなく不慮の事故なので、一緒にくくるのは本来は違うのかもしれないが、「バンドがひとり欠けた時にとる方法」の一例として挙げました。

 さらにたとえば、the HIATUS。活動がスタートした時点で、ドラマーは柏倉隆史と一瀬正和のふたり体制だった。「いいドラマーがヒマなわけない」「でもいいドラマーは確保したい」「じゃあハナからふたりにして来れる方に来てもらおう」という、とても現実的な考えから、そうしたのだと思う。

 ことほどさように、バンドにはいろんな形があるし、いろんなやりかたがある。これはバンドだけどこれはバンドじゃない、みたいなことなんてない。全部バンドだ。だから気にするな、そのまま行け、ハンブレッダーズ。と言いたくて書き始めたら、こんな長いことになってしまった。

 余談。あとこういう「バンドマンと就職」問題って、昔からあるテーマだが、今後さらに増えていくだろうなあ、とも思う。「CDで当てさえすれば印税でなんとかなる」というビジネスモデル、崩壊してもうずいぶん経つわけなので。

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「DI:GA ONLINE」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「KAMINOGE」などに寄稿中。