体を張って26年、動物電気が届ける安心の味
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明治大学・演劇サークル出身の政岡泰志が小林健一、高橋拓自、森戸宏明、辻修、姫野洋志らと結成、今年26周年を迎える劇団・動物電気。人情喜劇をベースに、毎回登場する小林のふんどし姿や政岡のおばさん役、辻の全身タイツなど笑いの“蛇足”が強烈な印象を残しつつ、その向こうにうっすら見えてくる結末になぜか泣けるという稀有な劇団だ。
メンバーは40代後半に突入し、近年は2年ごとの公演が定着。昨年は看板役者の1人だった辻が円満退団し、代わりに新人が3名入団するなど、少しだけ“変わった”動物電気。その最新作『ブランデー!恋を語ろう』について、“変わらない”ことも含めて政岡と小林に聞いた。
作・演出は、政岡が担当。ここ数作、“もはや若者ではない”男の恋心を取り入れることが多くなってきたが、『~恋を語ろう』とストレートなタイトルが付けられた本作では、ついに中年男女の恋模様が描かれる。政岡いわく、「実は前回の公演で、客演の若い女優さんをチヤホヤしてしまって、後で“なにやってんだ俺……”と反省することが多々ありまして。そう思ってしまう事実はありながらも、自戒を込めて、今度は中年といわれる年齢の女性の魅力を描いてみたいなと」。物語は小林演じる独身男・増田昭彦を軸に、虚言癖のある女や地下アイドル、歌の教室の先生、女子高生など、5人の女性たちが登場。それぞれの関係が展開してゆく。
中年男女の恋を、政岡自身はどうとらえているのか改めて聞くと、少し考えて「手をつないで歩いているような中年カップルには、キモチワルイと感じてしまう」との言葉が返ってきた。ではなぜそれについての物語を書くのか問うと、「面白さを感じるから」と即答。「(自身の持ちネタである)おばさん役にしても、おばさんって図々しいところが嫌いだなと思うのに、ものすごく演りたいんですよね。あの様子に惹かれるんじゃなくて、“怖い”という気持ち。でも、おばさんの強さに“あこがれ”もあるんですよ」と政岡は話す。否定も肯定もないまぜになった感情。そこから目を逸らさないことが、笑いだけではない動物電気の世界を形づくっているのだろう。
旗揚げから26年が経ち、小林は「僕たちと一緒で、以前から見てくださっている方の年齢は上がりましたが、一方で若いお客さんも増えています」と言う。疾走感あるギャグをちりばめながらドラマを展開するスタイルは、2000年前後には多くの小劇団で見られたが、今では数えるほどしか存在しない。動物電気の変わらぬ舞台が、かえって今の若い世代には珍しく、面白さもウケているのだ。「次はどんな風にやってやろうとか考えずに、(政岡)泰志さんがその時々で面白いと感じたものを、劇団員がそのままやっているだけ。奇をてらわないことで、面白さがじかにお客さんに伝わっているんじゃないかな」と小林は語る。
昨年、「定年退職の年になったら、また戻ってきます」と宣言して退団した辻の代わりに、今回から出演するのは19歳と26歳、42歳(!)の新劇団員。「スッポンの鍋みたいに、いろんな劇団のダシが染みついてる」(政岡)ホームの下北沢・駅前劇場で、“少し変わって”、やっぱり“変わらない”動物電気が幕を開ける。6月1日(土)から9日(日)まで。
取材・文:佐藤さくら
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