Souが“歌うこと”で見せてきた成長の物語 初ワンマンライブ『Salir』を経てさらなる飛躍へ
音楽
ニュース
5月12日にマイナビBLITZ赤坂にてSouが初のワンマンライブ『Salir』を開催した。Souは動画投稿サイトに数々の“歌ってみた”動画を投稿し、若い世代を中心にネットシーンで支持を集めてきた歌い手だ。彼のライブを見て印象に残ったのは、まず歌声の多彩さだ。
(関連:Candy or Whip、CHiCO with HoneyWorks、Eve×Sou…最新チャートから考える、Jポップの今)
その中でもおそらく彼の一番の武器は高域での絞り出すような歌声だろう。それは1曲目の「右に曲ガール」からいきなり発揮される。女性がほとんどを占める会場からの大歓声にも掻き消されない彼の歌声は、大音量のライブ会場でも聴き取り易く、密集したスペースを貫くように響き渡る。「みんなで一緒に!」と煽りつつ、勢いあるバンドサウンドを歌声の方からリードしていく。
そうして「ナンセンス文学」「ケッペキショウ」と序盤の疾走感のある楽曲をストレートに歌い上げる中、跳ねるリズムを持った「ヲズワルド」を披露した。裏声と地声を巧みに入れ替えねばならない高難度のテクニックを要する楽曲だが、それも華麗に歌いこなす。マイクスタンドを離さず、気持ちを込めるように歌っている。ステージ上であまり動きを見せないのが彼のスタイルだ。それによってむしろ、些細な動きにオーディエンスの視線が集中する。アップテンポな「ミルククラウン・オン・ソーネチカ」やゆったりとした「ハレハレヤ」と駆け抜けると、次のMCでこう話した。
「令和になって時代が変わったタイミングで、ワンマンライブという新しい一歩を踏み出すことが出来て感慨深いです」
聞けば、活動7年目にして初のワンマンライブだという。それについて彼はこう続ける。
「周りからも『ワンマンライブをやらないのか』とずっと言われてて。でもずっと逃げてたんです。人前に出ることが苦手で、マジで引きこもってるタイプの人間なので。格好良い動きとかも出来ないし。そういうのがあって自分はワンマンライブをやっちゃいけないんだろうなっていう葛藤があって……」
今でこそこうして立派にステージに立っている彼だが、内心はネガティブでなかなか前へ進む勇気が出なかったのだとか。そういう自分を変えたのがファンの存在だという。期待してくれているファンの声が、彼自身の変わるきっかけになったのだ。
「何が言いたいかというと、僕がワンマンライブを出来たのは、みんながいてくれたからってことなんですよ!」
今は誰もが個人でネット配信を出来る時代。昔だったら埋もれていたような才能がインターネットを介して発見され、ファンによって押し上げられる流れが出来ている。彼もそうした文化から生まれたボーカリストだろう。なるほどこのSouという歌い手は、非常に現代を象徴する存在である。人前に出るのが苦手で自宅に引きこもっているタイプの若者が、ネットで居場所を見つけてワンマンライブを行うまでに成長する……そんなストーリーをファンも期待し、応援しているのだ。
ライブは後半へと折り返す。壮大なピアノバラード「心做し」を泣きそうな歌声を織り交ぜて感情たっぷりに歌い上げると、「帝国少女」「Lemon」「恋」と目白押しの楽曲を続けざまに繰り出し、会場の熱を上げていく。
この日の本編ラストに披露されたのは自身が初の作詞・作曲を手がけた「愚者のパレード」。「今年はひとつのゴール」でもあり「出発点」でもあるという。そんな心機一転の意味を込めてライブのタイトルを“Salir”(=スペイン語で“出発する”を意味する動詞)としたのだとか。初めて自作した「愚者のパレード」は彼にとって、今年の彼の姿勢を表すような楽曲だ。
実は、筆者がこの日最も心震わされたのがこの曲であった。彼の歌声の“美味しい部分”が最も力強く輝く曲だと思う。おそらく彼自身もそれを理解して作ったのだろう。サビでのメロディの動きが彼の良さを上手く引き出している。
また、Souには男性的な勇ましさとは対極の中性的な魅力がある。そして、周りを癒す脱力感、独特の雰囲気がある。彼の一挙手一投足に「可愛い!」という声が何度も上がった。ステージ上でも飾らない姿を見せる彼の素直さは愛すべきポイントだ。そして、それがそのまま“長所”に直結している。
アンコールでは「Q」「世界寿命と最後の一日」「レグルス」の3曲を披露。歌唱後には何度も深々とお辞儀をし、鳴り止まない拍手のなか会場をあとにした。
終演後に歌声についてボイトレなどしているのか直接質問してみたところ「最近になってようやくちょっとだけ始めたんですけど、でも7年もやってれば出るようになるんですよ」と爽やかに答えてくれた。歌うことでファンを魅了し、成長を見せてきたSou。待望の2ndアルバムの発売も発表された。今後の飛躍が大いに期待できる一夜であった。(荻原 梓)