アニメ×音楽のCMはなぜ印象に残る? 花王、ロッテ、日清ら大手企業の事例から考察
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最近、大企業によるアニメーションCMがますます増えてきた。先日公開された日清食品「カップヌードル」のCMシリーズ「HUNGRY DAYS」最新作では、高校生となった漫画『ワンピース』のキャラクターの青春の日々を描く、という内容が大きな話題を呼んでいる。同CMのようにストーリー仕立ての作品は思わず話を追ってしまったり、監督や声のキャストが気になって調べてしまったりと、何かと視聴者の関心を引きやすい。また、アニメーションとアーティストの親和性を楽しめる作品も多く、そういった作品はアニメファンだけでなく音楽ファンからも大きな反響があるものだ。そんなアニメーション×音楽のCM作品から、特に印象に残っている作品をいくつかピックアップし、紹介していきたい。
先日公開された花王『ビオレ さらさらパウダーシート』の新WEB CM。このCMは花王の「がんばれ!隠れ汗 プロジェクト」という、女子高生の青春を応援する企画の一環として制作されたストーリー仕立てのアニメーション作品。主役はそれぞれがフルート奏者、フォトグラファー、舞台役者を目指している女子高生3人組で、時に壁にぶつかりながらも文化祭の発表に向けて部活に邁進する姿が映し出されている。監督は菅野芳弘が務め、CMソングはKis-My-Ft2やKing & Princeなどの作詞家としても活躍中の若手シンガーソングライター・井上紗矢香が手掛けた。夢を追いかける全ての人へポジティブなパワーを授ける楽曲「I can」には、彼女たちの心情を代弁するようなワードも散りばめられている。
汗拭きシートや制汗剤のCMと言えば運動系の作品が多いイメージだが、今回スポットが当てられたのはあえての文化系で、キラキラした青春の裏に隠れた努力がテーマになっているのが新鮮にも思える。商品の売りや企業からのメッセージを限られた短い尺の中で伝えるため、一見してわかりやすいテーマを扱うことは重要かもしれない。しかし、ある意味この縛りを自由にしたのがアニメーションCMで、実写では再現するのが難しい凝ったストーリーや設定も、二次元だからこそエンターテインメントとして形になるものは実際に多いだろう。そしてそれを彩るものとして最適なのが、アニメーションの世界観に沿ったCMソングだ。井上紗矢香の「I can」はまさに、女子高生3人組の青春ストーリーを総括するような楽曲として、作品に伝わりやすさを加える役割を果たしている。
昨年12月に公開されたロッテ70周年のスペシャルアニメーション「ベイビーアイラブユーだぜ」は、BUMP OF CHICKENが書き下ろした楽曲“新世界”がテーマソングとして使われている。男子中学生が通学時に通りがかるロッテの売店で、チョコレートをきっかけに女子高生と運命的な出会いを果たすストーリーとなっており、擬人化されたさまざまなロッテのお菓子たちも登場。どの人物が何のお菓子のキャラクターなのかを想像しながら観るのが楽しく、ワクワク感を煽る楽曲も併せて何度も繰り返し再生したくなる作品だ。また本作は、監督を務めた松本理恵とBUMP OF CHICKENがアニメ『血界戦線』以来の再コラボレーションをしたことでも話題になり、YouTubeにアップされているフルバージョンの再生回数は現時点で1150万回以上を記録している。
『君の名は。』の新海誠が監督を務める大成建設のCMシリーズも、毎回目を引く作品が多い。このシリーズは建設現場で働く主人公の歩みを描いたアニメーション作品で、昨年5月より放送がスタートした「シンガポール」編のCMソングはスキマスイッチの「ミスターカイト」が起用。さらに、新海誠×スキマスイッチによる「ミスターカイト」のコラボMVとして、過去に放送されたCMをまとめたスペシャルムービーも公開されている。向かい風と共に高く舞い上がるカイトのように広い世界へ跳んでいくという、スキマスイッチならではの言葉で希望が表現された楽曲と、未来に向かって生き生きと仕事をする人々の風景を切り取った新海誠ワールド全開のアニメーションが合わさることで、このタッグならではの輝きが生まれている。
今年3月から放送されている日清カレーメシの新CMには、日清食品「カップヌードル コッテリーナイス」のアウトサイダー広告代理人に就任したマキシマム ザ ホルモンの新曲「ハングリープライド」が使われている。2040年の東京を舞台にした、まるでVRアトラクションのようなスピード感溢れる映像と、ホルモンの楽曲の相性はこれ以上ないほど抜群。また、CM内に登場する個性豊かな7人の美少女は『Re:ゼロから始める異世界生活』で知られるイラストレーター・大塚真一郎がデザインし、声優・加藤英美里が1人で7役を演じ分けている。公式サイトにはキャラクターの詳しい設定や相関図が紹介されており、今後も第二弾、三弾とシリーズ化していきそうだ。
アニメ映像ならではの表現の自由度やテンポ感、音楽とのマッチングは、実写とはまた異なるダイナミズムを視聴者に与えることができる。強いインパクトや話題性を求められるCMにおいて、今後もアニメCMは重要な役目を果たしていくだろう。
■渡邉満理奈
1991年生まれ。rockin’on.com、Real SoundなどのWEB媒体を中心にコラム/レビュー/ライブレポートを執筆。趣味は読書でビートたけし好き。