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青春ゾンビミュージカル誕生の背景は? 『アナと世界の終わり』監督が語る、キャラクターの重要性

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リアルサウンド

 映画『アナと世界の終わり』が5月31日に公開される。世界各国のファンタスティック映画祭で話題を集めた本作は、故ライアン・マクヘンリーが監督・脚本を担当した短編『Zombie Musical』をもとに、彼の遺志を引き継いだジョン・マクフェール監督らが長編映画として完成させた青春ゾンビミュージカル。イギリスの田舎町リトル・ヘブンのクリスマスの日を舞台に、負け組の高校生アナが、突如襲来したゾンビたちと戦い、町から脱出しようと奮闘する模様を描く。

参考:『アナと世界の終わり』ミュージカルシーン初公開 毎日に飽き飽きしている女子高生が大熱唱

 今回リアルサウンド映画部では、本作のメガホンを取ったジョン・マクフェール監督にSkypeインタビューを行い、本作を手がけることになった経緯や、最も重視したというキャラクター描写、そして影響を受けた映画についてなどを聞いた。

ーーどのような経緯で本作の監督を務めることになったのでしょうか?

ジョン・マクフェール(以下、マクフェール):もともとは、この作品のもとになった短編映画『Zombie Musical』を手がけたライアン・マクヘンリーが引き続き担当する予定だったんだ。だけど、ライアンは惜しくも2015年に非常に珍しいタイプの骨の癌で亡くなってしまった。その後、僕に声がかかって、彼の意志を継ぐことになったんだ。

ーー亡くなってしまったライアン・マクヘンリーとは何かやり取りをしたのでしょうか?

マクフェール:実はライアンとは会ったことがなかったんだ。だから当然、この作品について彼と話したこともなかった。でも、ライアンの病状が悪化した時、彼とは古くからの知り合いでもあったプロデューサーの1人が、彼にこの作品をどうしたいか聞いたら、「作ってほしい」と言ったそうなんだ。その時には既に作曲家の2人、脚本家のアラン(・マクドナルド)、プロデューサーもみんなついていて、そこに後から自分が参加したという感じだね。ライアンが亡くなった後、彼の母親と何回か話す機会もあったんだけど、彼女は「ライアンと僕は似ている」と言っていたよ。「この作品はライアンが作りたかった映画だ。まさしくその通りに作った」とも言ってくれて、すごく嬉しかったね。

ーーあなたはこの脚本を読んですぐに気に入ったそうですが、具体的に惹かれたポイントを教えてください。

マクフェール:最初に脚本を読んだ時、とにかくキャラクターにぐっと心を掴まれたんだ。多くの作品は、例えば学生の話だったら、体育会系やオタク系、そしてゲイのキャラクターなど、すごくステレオタイプなキャラクター造形が多い。けど、この作品はそうではなく、脚本の段階からキャラクターたちが本当にそこにいるような、立体的なキャラクターとして描かれていたんだ。ゾンビとホラーの大ファンとしては、そのよく描かれたキャラクターがこの物語を経験すると考えると、とても面白く思えたね。

ーー魅力的なキャラクター設定やキャラクター描写は本作の見どころのひとつですよね。

マクフェール:そうだね。それぞれのキャラクターを大切にしたよ。若いキャスト全員に、まず1日目にピエロのクラス(クラウニングクラス)を取ってもらったんだ。ピエロの演技って、変な音を立てたり、大きな靴を履いてドタバタしたりするイメージしかないかもしれないけど、実はいわゆるボディーランゲージ、つまり、言葉を使わずにいかに自分のキャラクター、自分の物語を伝えていくかというスキルだから、それを経験してもらったんだ。その中で、それぞれのちょっと変わった部分をきちんと捉えてもらって、キャラクターをよりリアルなものにしようとした。クリスがすり足っぽい歩き方をするように、歩き方などのボディーランゲージを通して、彼らが誰であるか、見ただけでわかるようなキャラクター造形、あるいは表現を意識したよ。中でも一番難しかったのは、最初いじめっ子として登場するニックだね。いじめっ子には根っこにいじめをしてしまう原因が何かしらあるものだけど、この作品ではそれが途中で変化していく。そんな彼のバックストーリーを含めて、ニックのことを受け入れられるキャラクターにできるかは、やっぱりすごく気を使ったよ。最初にそこを受け取ってもらえないと、彼の最後の贖罪も活きないからね。あとは、例えば車中でどのセレブが生き残ったかを話すところとか、どんな国が生き延びているかを話すところも、若者だったらそういう話をするというリアリティとして取り入れたんだ。

ーークリスマスという舞台設定もポイントになっています。このアイデアはどこから生まれたのでしょう?

マクフェール:かなり初期の段階では、夏が舞台になっていたんだけど、ライアンと共同脚本家のアランがクリスマスに変えたんだ。クリスマスは1年の中でも楽しい素敵な時期で、軽やかさ、楽しさ、明るさで溢れている。しかも、家族や友人が集まったり、みんながひとつになるイベントでもあるから、この映画が持つテーマ、メッセージ、キャラクターとうまく合致した。この映画を通して伝えたいことのひとつに、ファミリーの一員であるというのはどういうことか、家族とはどういうものか、ひとつにまとまることはどういうことかがあったからね。

ーーゾンビとミュージカルという組み合わせも斬新ですが、本作にはコメディや青春映画などいろいろな要素が詰まっています。何か参考にした作品やアイデアの基になった作品があれば教えてください。

マクフェール:エドガー・ライト監督の『ショーン・オブ・ザ・デッド』はもちろんのこと、彼が手がけたテレビシリーズ『スペースド』の大ファンだったんだ。エドガー・ライト監督の作品はもちろん大好きだし、『ショーン・オブ・ザ・デッド』はロマンティックなゾンビのコメディものだから、当然インスピレーションとしてはあったね。イギリスのテレビシリーズで、『The Inbetweeners』という高校生たちの物語があるんだけど、それもインスピレーションのひとつだよ。ジョン・ヒューズ監督の『ブレックファスト・クラブ』も大きかったね。あと、制作するにあたって「『ハイスクール・ミュージカル』を観ておけば?」って言われたんだけど、10分しかもたなかった(笑)。『glee/グリー』も同様で、ファーストシーズンすら観られなかったね。あとはやっぱりゾンビもの。『死霊のはらわた』をはじめ、ホラーとコメディの要素があるものは参考にしたし、大好きな三池崇史監督の『カタクリ家の幸福』を見直したりもしたよ。それらの作品へのオマージュがあちこちで込められてもいるんだ。ニックが戦いながら踊って5人で前進するシーンは、『ウエスト・サイド・ストーリー』のオマージュだよ。この作品を撮ることが決まってから初めて観たんだけど、すごく気に入ったから入れたんだ。

ーー三池崇史監督を好きなのは意外でした。

マクフェール:一番好きな作品は『殺し屋1』かな。若い頃に観たからかもしれないけどね。木村拓哉主演の『無限の住人』も好きだよ。あとは『オーディション』だね。あの作品は今思い出しても震えてしまうよ。

ーーミュージカルシーンで何か意識したことはありましたか?

マクフェール:それは楽曲によるかな。「Hollywood Ending」の場合は、全員参加型の『ハイスクール・ミュージカル』式で、カラフルで大きな動きの振り付けがある、エネルギー溢れる大掛かりなものでないといけなかったし、それぞれが孤立して自分が求めているものについて歌う「Human Voice」は、逆に曲がドラマチックだからこそ動きが必要なく、顔や身体でどんなことが表現できるかを意識したよ。どの曲もそれぞれキャラクターありきで、そのキャラクターがどんな心境なのか、物語のどこにいるかによって、振り付けや表現を決めていったんだ。『ウエスト・サイド・ストーリー』へのオマージュも、彼らが目的を持って前進しているからこそ、映画に取り入れることができた。やっぱりこの作品は、何と言ってもキャラクターに注目してほしいね。(取材・文=宮川翔)