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今見るべき“親の背中”がここにある 綾瀬はるか主演『義母と娘のブルース』が描いた“普通”

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リアルサウンド

 「子供がこんな発想になって良いのでしょうか。子供は親が嫌われるようなことをしたら、自分も嫌われると思ってる。親は子供が嫌われることを恐れて、言葉を飲み込み、陰口で憂さを晴らす。その背中を見て育った子供は思うでしょう。“長いものには巻かれればいい。強いやつには逆らうな。本当のことは陰で言うのが正しいんだ”って。だって大好きなお父さんとお母さんがそうやっていたんだから! 私事で恐縮ですが、私は大事な一人娘にそんな背中を見せたくありません」

参考:綾瀬はるかの一気コールをどう捉えるか 『義母と娘のブルース』が映し出す“こうあるべき”姿

 ドラマ界に残る名台詞が誕生した『義母と娘のブルース』(TBS系)第3話。みゆき(横溝菜帆)の義母となるため、一流企業の部長というキャリアを捨てて専業主婦となった亜希子(綾瀬はるか)。キャリアウーマンな自分をそのまま母親業にスライドさせようとした第1話、理想の母親を求めて実母のコピーを目指した第2話……と、全身全霊でぶつかりながら義母と娘は距離を縮めてきた。

 無表情ではあるが「私の娘はべらぼうにかわいい」と啖呵を切る亜希子の愛情は、少しずつみゆきに届いているようだ。「亜希子さん、開けていい? ねえ、開けていい?」良一(竹野内豊)が持って帰ってきたお土産の箱を開ける前に、みゆきが亜希子に確認を取ろうとする姿に、2人の中に育まれつつある信頼関係を感じる。血の繋がらない亜希子とみゆきは、新しい母娘の繋がりを作ろうとしているのだ。それは、はたから見れば“普通”の家族ではないかもしれない。しかし、この“普通“ではない家族が“普通”と向き合う姿に、私たちが今一度振り返るべきものがあぶりだされる。

 第3話のキーワードは“親の背中”。亜希子は「私、失敗したくありませんので」と、一貫してものごとを正確に把握し、的確に対処していく。しかし、どれほど几帳面に行動をしても、亜希子は必ず失敗をしてしまう。グリルは火を上げ、揚げものは真っ黒だ。だが、その失敗こそが、亜希子が“デキる女“の秘密でもある。失敗を恐れずに、ちゃんと向き合うこと。わかるまで、何度でもトライすること。「失敗したくない」というのはホンネだが、「最初は失敗しても、同じ失敗は繰り返さない」が、彼女の強み。だが、その姿勢は「わかんないんだったら、黙ってるでしょ“普通“」と、PTAの集まりで一蹴されてしまう。

 「決まるまで帰れませんよ」と、誰かが渋々手を挙げるのを待つ係決め。その係が本当に必要なのか、という改善案が出されることはない。変化を避け、慣習に従い、義務で動くこと。それは、このドラマのPTA会議に限らず、日本のいたるところで見られる“普通”かもしれない。私たちは日本社会という“親の背中”を見て感じているのだ、それぞれが適性を活かして、ポジティブな感情で動き、よりよくするためにアイデアを出し合うなんて理想論だ。トライしても、よりめんどくさくなるのだから、従っておけばいい、と。表立って波風を立てることよりも、陰口を叩きながら凌ぐことこそ“普通”。だが、果たしてそれは幸福な日々といえるのだろうか。

 “親の背中”は次の世代にも受け継がれる。そして、“普通”は変えられないのだと、その思い込みはさらに強くなっていく。今、私たちが「なんでこんな風になっているのだろう」というものは、たいてい“誰かの背中”でしかないのだ。しかも、それが本人にとってもベストな状態ではないこともある。コンプレックスを隠すために着込んだ鎧姿が、“その人の背中”になっていることに気付きもしない場合も。

 きっとPTA会長は亜希子にキャリアウーマンとしての自分を、亜希子はPTA会長に完璧な母親を、どちらも自分にはないコンプレックスに近いものを感じたのだろう。自分が持っていないものを持っている相手と出会ったならば、お互いの手を取り、足りない部分を補い合うことが理想だが、それは“普通”なかなかできない。

 その“普通”を壊すには、きっと悔しい思いや、恥ずかしい思いをしなければならないのだ。今の日本社会に取り巻く鬱憤とした雰囲気は、きっと誰よりも自分たちが自分自身の恥を恐れているからできあがったように思う。「恥をかかせないで」と言われて育ったからだろう。だが残念ながら、それでも人は恥をかくものだ。わからないことは恥を忍んで聞くしかないし、やったことがないことは恥をかく覚悟でやってみるしかない。もちろん、誰もが最初から成功するわけがない。だからこそ、その恥から他者へのリスペクトが生まれるのだから。真正面から失敗していくこのドラマこそ、私たちが今見るべき“親の背中”なのかもしれない。(佐藤結衣)