「ウィーアーリトルゾンビーズ」電通所属の長久允、広告業出身の利点と苦労語る
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左から長久允、佐藤雄介。
「ウィーアーリトルゾンビーズ」のクリエイタートークイベントが、本日6月3日に東京・電通ホールにて開催され、監督の長久允と電通所属のクリエイター佐藤雄介が登壇した。
「そうして私たちはプールに金魚を、」の長久が長編デビューを飾った本作は、両親を亡くした少年少女がバンド“LITTLE ZOMBIES”を結成する物語。LITTLE ZOMBIESのメンバーとして、ヒカリ役を二宮慶多、イシ役を水野哲志、タケムラ役を奥村門土、イクコ役を中島セナが務めた。
電通で営業職とCMプランナーを経験した長久。有給休暇を使用して「そうして私たちはプールに金魚を、」を制作し、サンダンス映画祭短編部門グランプリに輝いたことから、現在は同社のコンテンツビジネスデザインセンターに所属している。このイベントでは、長久の同期であり、カップヌードルやNTTドコモのCMを手がけているクリエイターの佐藤とトークを展開した。
トーク中は、彼らがかつて手がけたCMなどを紹介。淀川長治をCGでよみがえらせたhuluのCMや、2人が“広告業界のオリンピック”と呼ばれるヤングライオンズコンペティション(通称ヤングカンヌ)に出品した作品などが上映された。10年来の仲である佐藤は、長久と出会った当初の印象を「会ったときから映画がやりたいと言っていた」と振り返る。そして長久は、自身に広告業が向いていないと悩んだ時期のことを「僕には伝えたいメッセージがあるのに、どうして『このドリンクがいかに健康か』ってことをやっているんだろう、と思ってしまった。それで体もボロボロになって、歩けないくらいになってしまって……。そこで有給休暇を取って、『金魚』を作った。作ってよかったです!」と回想した。
「ウィーアーリトルゾンビーズ」を3回鑑賞したという佐藤は「1回目は『スワロウテイル』のデジタルポップな現代版というか、とにかく音楽が印象に残るなと思った。3回観たら『シン・ゴジラ』と共通するところがあるなと思って。しゃべりっぱなしで、テンポとセリフと画角の美学でできあがっている感じ」と感想を述べる。それを受け長久は、“音”の大切さを語ったのち「普通の映画の現場は、美術セットを作って、役者さんに入ってもらって、リハーサルをしてからカメラアングルを決めていく。でも僕はまず、自分でセリフを読んで、仮の音楽を入れて、音だけのコンテを作っています。さらにそこへ絵コンテを当てはめて“Vコンテ”を作っているんです。この手法は、CMではやることもあるけど、映画でやることはあまりないと思う」と自身の制作方法の特殊さを説明。佐藤は「『シン・ゴジラ』も最初は『2時間に収まらない』と言われていて、音(コンテ)を先に作ったと聞いた」と返した。
そんな自己流のやり方を採用するには苦労したこともあったそうで、長久は「カメラマンさんたちはCMやMVをやっている方にお願いしていたんですが、“助監督”というシステムは映画業界にしかない。たくさんの映画の現場を経験した方たちからしたら、僕のやり方では役者が気持ちを作りづらいという意見もあって。でも後半は理解していただけた」と振り返る。さらに映画監督としては特殊な自身の経歴にも触れ「僕は助監督システムでがんばってきた方々とは違うし、いつもニコニコしているので苦労してなさそうに見える。世間の方々は、僕が映画好きだということも知らないので、この作品が“広告業界の人がノリで作った映画”だと思われてしまうことがある。だからこそ、海外の映画祭で、“電通”みたいなフィルター抜きで評価されたのがうれしい」と、本作が第35回サンダンス映画祭審査員特別賞や、第69回ベルリン国際映画祭ジェネレーション(14plus)部門のスペシャルメンションに輝いた喜びを語った。
長久は本作の監督・脚本だけでなく、プロモーション設計や公式サイトのディレクションまで手がけている。そのうえでCMプランナーの経験が生きたと話す長久は、某大手スーパーマーケットの店頭ビデオを10年ほど作り続けてきたことを明かし「対象に興味のない人たちを立ち止まらせないといけないから、過酷な仕事だった。でもそのときテンポ感や音のアテンションをどうつけるかをやり込んで、体に染み付かせることができた」と話した。
「ウィーアーリトルゾンビーズ」は6月14日より全国公開。
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