NOT WONK 加藤修平が語る、音楽活動で日常を意識する理由「借り物じゃない自分の歌を歌いたい」
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NOT WONKが、6月5日にニューアルバム『Down the Valley』をリリースした。本インタビューで加藤修平が「僕がどういうふうに生きてるか、何を考えて毎日生活してるのか。音楽ってそうじゃないといけないとも思う」と、自身のバンドや音楽を伝えるために音楽以外のところにも意思を乗せることが必要だと語っていたのが印象的だ。avexからのリリースとなる今作だが(制作はこれまで同様KiliKiliVilla)、音楽にかける思いは変わらず、より真摯に制作と向き合った今作。加藤が音楽に臨む姿勢について詳しく話を聞いた。(編集部)
正確に伝えていくことを意識した
ーー改めて聞くと、NOT WONKって「KiliKiliVillaのバンド」という意識はあるんですか。
加藤修平(以下、加藤):うーん、そうっすね……めちゃくちゃある、っていう感じでもなくて。KiliKiliVillaは、まぁ他にもSEVENTEEN AGAiNとかCar10とかLEARNERSとかがいて。こないだLEARNERSのチャーベさん(松田”CHABE”岳二)と話してて「もちろんキリキリには俺たちもいるけど、もっと若い奴がどんどんやっていったほうがいい」って。そう言われることで「あ、そういう看板も一応背負ってんだよな」とは思ったんですけど。でもライブやる時に「KiliKiliVillaをレペゼンしよう!」とか、そういう気持ちはほとんどなくて。それこそ安孫子(真哉)さん(レーベル代表)が別のインタビューで言ってたんですけど「キリキリはEU的なポジションでいればよくて、あとはバンドが個々で自治をしていく自分たちで自分らのことをやっていく」っていう。わりとそういう関係性だと思いますね。
一一では、自分たちで自治をする、インディペンデントであることには、どれくらいこだわりを持っていますか。
加藤:基本的には、自分たちのことは自分たちでやる。どんな人と一緒にやっても、血の通ってない部分があると嫌だし、人にお任せして物事が進んでいくのは嫌で。作った人が最後の最後まで面倒を見る。インディペンデントって僕はそういうことだと思っていて。ただ……本当はどうなんですかね? インディだろうがメジャーだろうが、自分以外の誰かと一緒にやる時点で別に独立してないような気もするし。
一一D.I.Y.って言い出すと難しいですよね。「CDのディスクだって自分たちで作るのか? 原材料は何だ?」って話になっていくから。
加藤:そうなんですよ。元を正していくとそうなっちゃうし、誰とも関わらずにやるのは不可能で。だから、インディペンデントにこだわるというよりは、自分の血の通うもの、血の通う人と一緒にやる、っていうところを大事にしたい。「これがインディペンデントです」ってどうしたら言い切れるだろうって、僕も今回考えてたところなんですね。これはインディペンデントなのか、その対義語はメジャーなのか、って。
一一ええ。今回avexと組むのは、かなり英断だったと思うんです。
加藤:そうですね。結局は人対人の関わり合いなんだけど、少人数だったのがどんどん人が増えていって、avexのスタッフの中にはNOT WONKがどういうバンドなのか、あんまりよくわかんない人もいるかもしれなくて。自分の手から離れていくと、伝言ゲームみたいに内容が薄れていくかもしれない。だから今回すごく意識したのは、僕らがやってることを正確に伝えていくことで。まずは近くの人に丁寧に伝えていく。「僕らはこういうものを作っていて、こういうふうにしたい」と。それが伝言ゲームみたいに伝わっていく段階で、なるべく誤解がないように。なんとなく、の部分をなるべく減らすっていうか。それは自分が作ったものに対する責任っていう言葉に言い換えられると思うんですけど。全部自分がタッチして、自分の意思を音楽以外のところにも乗せていくことができれば、人が多くても少数精鋭でもあんまり変わらないなと思って。
一一音楽以外のところ、というのは?
加藤:えーと、たとえば僕、ボサノヴァは聴かないんですけど、やってる人はボサノヴァが大好きでやってますよね。ただ僕には情報がそもそもないから、どんな経緯で、どんなバックグラウンドや文脈があって、今その音が鳴っているのかはよくわからない。でももしかして、その経緯がわかった瞬間めちゃくちゃ響く可能性もあるじゃないですか。それと変わらないなって実感したんです。僕らは英語で歌ってて、こういう音楽がどれだけ好きで、今まで何をやってきて、今回はどういうアルバムなのか……っていうところ。
一一この一枚だけで背景を全部理解するのは無理ですよね。
加藤:そう。だからひとつひとつ噛み砕いて伝えなきゃいけない。どんな言葉を使えばいいのかなって考えましたね。僕は高校生の時にバンド始めて、来年でちょうど10年になるんですけど、今までKiliKiliVillaでやってきたこと、そのレーベルは銀杏BOYZだった安孫子さんが始めたもので……っていうところから遡って。僕らからしたら今まで普通にやってきたことだし、当たり前になってたことなんですけど。そこをもう一回どれくらい丁寧に伝えられるか、でしたね。
一一それはもう、自分たちがどんな人間なのか、という話ですよね。
加藤:そう。だから自分を見つめ直しましたね。会社の面接とかで自分の悪いところばっかり言う人はいないじゃないですか(笑)。長所と短所があって、もちろん自分のことを手放しで褒めるのって難しいんだけど、その中でも「これは良いと言ってもいいんだな」っていう判断をして。たとえば苫小牧に住んでて、この3人でやってるところとか。あとはどんな音楽が好きでバンドやってるとか。自分たちで当たり前にやってきたことは、ひとつの長所、チャームポイントと考えていいんだなって。
一一「Love Me Not Only In Weekends」には〈普段の自分も好きになってもらいたいんだ〉って歌詞があって。これは苫小牧で生活している日々、週末のライブステージにいない自分たちのことですよね。
加藤:そうです。やっぱりステージ以外の時間にも一貫性があるのが、僕の好きなパンクの人で。もちろん音楽だからステージが良ければ、曲が良ければ、それだけでOKで。自分もそうは思うんだけど、ほんとに格好いいパンクの人ってそれ以外のところまで格好いい。人に見られる部分でも見られていない部分でも、そのバンドのことを知らない人が見ても「あぁこの人は素敵だな」って思えるのがいいなと。だから、24時間ちゃんと「NOT WONKの人である」っていうことを意識して生活したいなと思っていて。
一一実際にやるのは大変じゃないですか。それこそオフの日にボーッとゲームしてたって誰に責められるわけでもないんだし。
加藤:……ダサくないっすか?(笑)。たとえばライブハウスの中で見かけて「あ、NOT WONKの人だ」って思われて。それで僕が物販の席に座って、ボーッとケータイ見て顔がぼんやりと照らされてるの、ダサいじゃないですか。
一一ははは。ごもっともです!
加藤:僕、苫小牧のライブハウスで働いてて、ダサい人をいっぱい見てきたから。打ち上げのほうが元気だったりする人とか、すごく嫌だった。あと打ち上げになったら女の話ばっかりしてる、リハに来たと思ったら昨日打ち上げにいた女の子の話をしてる。それがブスだったのどうのって……「それ本人の前で言えるのか?」って思いますよね。やっぱり人に言えないことはしちゃダメなんですよ。「ああいうこと言っといて、ライブの時だけこんなニコニコされてもなぁ」ってがっかりしちゃう。
一一あぁ、それ間近で見ちゃうと、全部自分に跳ね返ってきますね。
加藤:そう。あと逆もあって。僕、WANIMAがすごく好きなんですけど、WANIMAの人も普段はあの感じじゃないですか。ずっと「ワンチャンがどう」とか言ってて。でも僕、ボーカルの人を一回渋谷で見かけたことがあって。普段からさぞ女の人をはべらせてんのかなぁと思ってたら、ニコニコしながら男の友達とずーっと楽しそうにしてて。それ見ただけで「なんかいいな、この人」って。そういうとこで好きになったり嫌いになったりすること、ありますよね。
一一よくあります。すごくわかる。
加藤:音楽やるのも人間だし、聴くのも人間だから。結局はその人間がどうなのかって話で。そこで変な嫌われ方をしたくないっていうのも当然あります。音楽が格好いいのは前提として、その人がどうなのか。やっぱりそこは音に乗っちゃうんですよ。だったら自分がどうありたいのか考えるし。
音楽だけは作る人の特権であり、不可侵の場所
一一そういう考え方であればよけい知りたいんですけど、なんで加藤さんは英語で歌うんですか。
加藤:あぁ……でも、音楽を作る時はそういうことすら意識しないんですね。結局どんなものを作っていても、気持ちって乗せるとか乗せないじゃなくて、なんにせよ乗ってしまうものだと思っていて。自分が意識してても無自覚でも、その人が乗っちゃう。僕はそういう音楽が好きだし、逆に言葉で説明された優しさとかには全然ピンとこないし。だから、音楽を作る時は純粋に自分がやりたいようにやりまくる。人がどうとか、今どんな時代かとか、何が流行ってるとか全部抜きにして、俺がいいと思ったやつだけをやる。それだけなんですね、コンセプトは。
一一つまり、作曲という作業はちょっと別枠にあると。
加藤:そうですね。別枠。バンドで曲を作る、演奏することだけは誰にも邪魔されたくないんですね。誰の意見も聞きたくないし、何の影響も受けたくない。僕が聴いてきた好きな音楽だけをただやりたいっていう。
一一自分にとっての聖域、誰にも穢せないもの。
加藤:そうですね。だからそこで時間の制約も受けたくないし。ほんとに自分のためだけの時間、自分のためだけの快感で。そこを別にしておきたいから、他のところで人としてちゃんと真摯でいたい、みたいなところもあるかもしれない。
一一当然、今回の曲作りも、メジャーから出るからな、みたいな意識は……。
加藤:一切ないですね。作ってた時に話が決まってたわけじゃないし。曲作るのはavexだろうがキリキリだろうがデモ盤だろうがまったく変わらない。単純にグッドメロディが好きだし、借り物じゃない自分のメロディ、いい歌歌いたいなっていうだけですね。
一一もっと派手なほうがいいとか、単純にこの曲は人気だとか、人の声が聞こえてくることもあるだろうけど。その声を活かしてみようと思うことは?
加藤:いや。「知るか」って感じです(笑)。
一一ははは。それくらい作曲という作業は個人的で純粋なもの。でもそこから離れたバンド全体のことになると、他者への配慮とか、どう振る舞うのかとか、第三者に対する意識が強く出てくる。
加藤:そうですね、確かに。
一一面白いですね。「パンクバンドなんて好きにやればいいんだ」っていう考えはもはや古いのかなとも思うけど。好きなことを好きにやる困難さとか、それが誰かを傷つけてしまう可能性を、ことさら考えている印象があります。
加藤:やっぱり今、いろいろ目につくじゃないですか。いろんなニュースを見たりしてると不寛容と寛容がだんだんわからなくなってくる。寛容でいるために何かを潰していたり、誰かの言葉を摘んでしまう感じもあって。だから、自分が意図しないところでも誰かを傷つけてること、もしかしたらあると思うんですね。そう考えていくとお笑いとかあんまり見られなくなっちゃって。テレビのバラエティ番組も笑えないなぁって思う。でもそうじゃない表現の方法って絶対あるはずなんですよ。それは音楽であろうとお笑いであろうと。僕はそういうふうにやっていきたいし、なるべく人に優しく、ピュアでいたいなっていう気持ちでやってますね。
一一ほとんどの歌が、そういう日常の意識を綴ったものですよね。
加藤:そうですね。近くのこと、僕が思ったことを歌ってます。だんだんそっちに目が行くようになってきた。あと「これはこうだ!」って言い切るんじゃなくて、迷ってることも含めて「こう考えているんだよ」ってちゃんと歌にしていいんだと思って。前はやっぱり、強い言葉で言い切りたかったんですね。そのほうが歌として格好いいと思っていて。でも、そうじゃなくてもいいんだなって。「人を先導していく強い言葉」と「それに引っ張られる人たち」の関係性じゃなくて、もっとフラットな関係というか。「お互い、今ここで生きてるモブキャラとして」みたいな。そういうところは意識してますね。
一一それって、いち生活者の視点みたいなもの?
加藤:そう。やっぱバンドやってると「特別になりたい、特別な存在でありたい」って気持ちはもちろん出てきますけど。でも同じくらい「千人いたら、ちゃんと千分の一にちゃんとなれるか」っていうことも僕は考えるんです。勘違いしたくない。「NOT WONK格好いいね」って言ってくれる人はいますし、それはすごく嬉しいんですけど、でもバンドをやってるのは僕の側面のひとつでしかなくて。みんなそれぞれ、バンドじゃなくても格好いいところが当然あるんだし。それ言い出してもキリないじゃん、みたいなことを、ちゃんと考えなきゃいけないと思うんですね。
一一バンドを特別視していないし、同じくらい生活が重要。そうなると、バンドで食いたい、音楽だけをやっていたいとは思わない?
加藤:うーん、まぁ……できたらいいのかもしんないですけどね。
一一そこまでの目標でもないと。
加藤:目標にしたことは一回もないです。ほんとに好きなことだけやって、このまま一個も、何も変えないでいいんだったら、このままやってたいなとは思いますけど。でもそれを目標にした瞬間何か失ってしまうものがあるのなら僕はいいや、って感じですかね。あんまり期待してないかもしれない。NOT WONKに関わることを毎日やってるわけじゃないし。平日は普通に仕事して、子どもと一緒にいるし。
一一子どもと一緒なんですか?
加藤:そう。僕、今NPO法人で働いてて。発達障害の子どもたちの発達支援の仕事なんですよ。中にはいろいろトラブってる奴とかもいて。でもみんなそれぞれいいところがちゃんとあって。さっきの話と通じることなんですけどね。で、僕はそこでも「NOT WONKの加藤くん」でありたいんですね。だったら相手に何を言うのか、どんな言葉を使うのかって、それは考えてます。仕事中はピンクのTシャツ着てるんですけど(笑)、それをNOT WONKのお客さんに見られても恥ずかしくない。そうちゃんと言い切れるかどうかが大事だと思ってて。
一一そういう考えを持っている加藤さんが、今も地元に住み、日々仕事をしながらこれだけの音楽を作っている。これって、いろんな人の背中を押す事実になると思います。
加藤:あぁ、結果的にそうなれるなら嬉しいです。何度も言いますけど、音楽は音楽としてちょっと切り離しておきたいんですね。そこだけは作る人の特権であり、不可侵の場所で。だから、そこで何を言うか、じゃなくて、何が乗るか、ですよね。僕がどういうふうに生きてるか、何を考えて毎日生活してるのか。音楽ってそうじゃないといけないとも思うし。こういう人間がいること、こういうバンドが北海道にいるっていうことが、何かポジティブな方向に気持ちを動かすなら嬉しいなって思います。
(取材=石井恵梨子/写真=中村ナリコ)
■リリース情報
『Down the Valley』
発売:2019年6月5日(水)
CD+DVD(初回生産限定盤)
価格:3000円(税抜)
CD(通常生産盤)
価格:2,500円(税抜)
<収録曲>
1.Down the Valley
2.Subtle Flicker
3.Of Reality
4.Shattered
5.Come Right Back
6.Count
7.Elation
8.I Won’t Cry
9.The Bare Surface, I’ve Longed For You
10.Love Me Not Only In Weekends
アナログLPはKiliKiliVillaより同時発売
発売:2019年6月5日
LP+DLコード
価格:3000円(税抜)
■MV
Down the Valley MUSIC VIDEO
■ライブ情報
『Down the Valley Tour』
6月15日(土)札幌BESSIE HALL
6月29日(土)十三FANDANGO Info: 清水音泉 06-6357-3666
7月6日(土)小倉Cheerz Info: Cheerz 093-531-5583
7月7日(日)福岡public space四次元 Info: 四次元092-741-0552
7月13日(土)名古屋HUCK FINN Info: JAILHOUSE 052-936-6041
7月14日(日)渋谷WWW X Info: ATFIELD 03-5712-5227