サンダンスドリーム叶えた「リトルゾンビーズ」監督は「信じるものを死ぬ気で作った」
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左から高橋信一、長久允。
「ウィーアーリトルゾンビーズ」の記者会見が、本日6月5日に東京・日本外国特派員協会にて開催され、監督の長久允とプロデューサーの高橋信一が登壇した。
2017年に「そうして私たちはプールに金魚を、」でサンダンス映画祭短編部門グランプリに輝いた長久の、長編第1弾にあたる本作。劇中では、両親を亡くした少年少女がバンド“LITTLE ZOMBIES”を結成するさまを描き出す。すでに第35回サンダンス映画祭審査員特別賞や、第69回ベルリン国際映画祭ジェネレーション(14plus)部門のスペシャルメンションなどに輝いている。
膨大な情報量の本編が上映されたのち、まず長久へ、カット数について質問が挙がった。「120分で180シーンくらいあるので、全部でおよそ1800カットくらい」と答えた長久は、撮影後約2カ月かけて編集作業を行ったと明かした。
続いて劇中に盛り込まれた、アルベール・カミュの「異邦人」やフランツ・カフカの「変身」「城」へのオマージュについて質問が。特徴的な三つ編みヘアを指して「監督の見た目からはそう見えないけれど、極めて文学的インテリジェンシーのある内容で……」と言われた長久は、笑いながら「僕の哲学的・文学的体験を突き詰めたら、ここに行き着いてしまいました。恥ずかしいです(笑)」と返す。また長久は、大学でシュールレアリスムを学んでいたと明かし「シュールレアリスムを例えるなら、隣り合うAとBではなく、AとZの組み合わせから美しさを感じる学問だと思っています。それを人生の尺度に取り込むと、不条理なことを受け入れるという価値観なのかなと。カミュらの作品は、不条理なことにどう向き合うかの物語であることから、僕の伝えたいことと同じものを感じたので、引用させていただいています」と説明した。
次の質問は、長久が影響を受けた映画に関するもの。長久は「たくさんありすぎてちょっと大変……」と唸ったのち、好きな映画監督として大島渚や長谷川和彦、伊丹十三、北野武といった名前を並べ「邦画だったら1970年代や1980年代の、日本アート・シアター・ギルドの作品が好き」と答える。海外の監督としてはルイス・ブニュエル、ミヒャエル・ハネケらの名前を挙げたあと「実験的な試みを入れているという意味で、リチャード・リンクレイターの幅の広さも好きです」と話した。
また来場者から「海外の観客を想定して製作したのか?」と聞かれた高橋は、「第一命題は、『金魚(そうして私たちはプールに金魚を、)』でサンダンス日本人初受賞した長久監督が、長編第1作でもう一度サンダンスの賞を目指す、というものでした。『金魚』のサンダンスでの評価は『これは私たちの物語である』といった内容で、アメリカの方々が自分自身に置き換えてくれていた。(長久が提案した)今回のテーマも非常に共感性の高いものだったので、監督の作家性が出る形にできればいいのではと考えた」と長久への信頼を明かす。また本作も見事サンダンスで受賞を果たしたことから「“サンダンスドリーム”ってこういうことなんだなというくらい、プロジェクトチームに対して、いろいろなスタジオやプロダクションからお声がけをいただいています」と手応えを語った。
最後に、同じ質問に対し長久は「評価されるために工夫したことはありません。前の作品のとき、自分の信じるものを手を抜かずに作ったら評価していただけたので、今回も同じように、自分の信じるものを死ぬ気で作っただけです」と、胸を張って答えた。
「ウィーアーリトルゾンビーズ」は6月14日より全国公開。
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