日本と中国で大ヒット、アメリカで苦戦 ハリウッド版『ゴジラ』最新作の興行を読む
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先週末の映画動員ランキングは、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が土日2日間で動員47万9000人、興収6億7700万円をあげて初登場1位に。初日から3日間の累計では動員64万2000人、興収9億1900万円。この数字は、ハリウッド版としては直接の前作にあたる2014年の『GODZILLA ゴジラ』(最終興収32億円)の興収比133%、レジェンダリー・ピクチャーズによる同じモンスターバース・シリーズの前作にあたる2017年の『キングコング: 髑髏島の巨神』(最終興収20億円)の興収比171%。さらに、日本版実写ゴジラの最新作にして、最終興収82.5億円を叩き出した2016年の『シン・ゴジラ』をも上回る(興収比108%)好スタートをきったことになる。例年、日本の映画興行が比較的低調な5月末の公開作であるということもふまえると、これは想定以上の大ヒットと言えるだろう。
参考:ゴジラへの暴走気味の想いが短所であり長所にも 『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の美学
配給の東宝は『シン・ゴジラ』の公開時と同様に通常のマスコミ試写をおこなわず、世界同時公開ということもあって、公開直前までごく限られた作品評しか出回っていなかった今回の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』。初週の快挙から読み取れることは二つ。一つは、もともと日本映画界が世界に誇る屈指の優良ブランドだった「ゴジラ」の価値が、日本版の『シン・ゴジラ』の現象化によって、国内ではさらに高まっていること。もう一つは、『シン・ゴジラ』現象以降の公開であったにもかかわらず、日本での配給が東宝ではなくワーナーで、ゴジラとのリンクもイースターエッグ(隠しネタ)扱いだった『キングコング:髑髏島の巨神』の時には、その効果が表れていなかったということ(ちなみに自分はモンスターバース・シリーズで同作を最も高く評価している)。
『シン・ゴジラ』が外国語映画として限定的に公開されただけの、あるいは公開そのものがされていない海外に目を向ければ、今回の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の興行価値をよりクリアに見渡せるだろう。これまでの作品と違って、中国も含む世界各国の有力マーケットでほぼ同時に公開された『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の現在(6月4日)までの全世界興行収入は約1億8700万ドル。プロダクションバジェットが約1億7000万ドルと言われているので、公開から5日間で早くも制作費分は稼いだということになる(一般的に製作会社に利益がもたらされるのは興収が制作費の2~3倍を超えてからと言われている)。国別で見ると、中国が約7000万ドルでトップ、2位は約5700万ドルでアメリカ、その下はそこからグッと数字が下がってメキシコの約460万ドル、イギリスの440万ドルと続く。日本は現状で約900万ドル程度なので、「ゴジラ」の世界市場においては第3位のマーケットということになる(以上、すべてBox Office Mojo調べ)。
中国の約7000万ドルという興収は、最終興収が7800万ドルだった2014年の『GODZILLA ゴジラ』の数字に早くも肩を並べるほどの勢い。現状の推移をうかがっても、今、世界で最も「ゴジラ」を求めているのは中国であるのは間違いない。一方、アメリカの各映画メディアでは6000万ドル以上のオープニング成績が予測されていた今回の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』のオープニング成績(3日間)は4800万ドルにとどまり、過去のモンスターバース作品、『GODZILLA ゴジラ』の9300万ドル、『キングコング:髑髏島の巨神』が6100万ドルと比べてはっきりと下降傾向が出てしまった。
中国と日本で当たって、アメリカで苦戦している今回の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』。それが、今後のモンスターバース・シリーズの方向性にどのような影響をもたらすのかはまだわからない。そもそも、製作のレジェンダリー・ピクチャーズは2016年、つまり『GODZILLA ゴジラ』と『キングコング:髑髏島の巨神』の間に中国の大連万達グループに買収されていて、中国マーケットへの配慮は既に織り込み済みとも言える(今作に中国の国民的女優チャン・ツィイーが起用されているのも、それが一つの背景)。
日本発コンテンツ、レジェンダリー・ピクチャーズ製作、日本での配給は東宝という、今回の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の座組は、なにも「ゴジラ」だけではなく、つい最近の作品では『名探偵ピカチュウ』もまったく同じだ。日本の観客には「『ポケモン』や『ゴジラ』がハリウッドで映画化」という単純な文脈でこれらの作品をとらえている人も多いかもしれないが、そこでいう「ハリウッド」の内実とは、資本においても、マーケットにおいても、中国が主導しているという視点が今後ますます必要となってくるだろう。(宇野維正)