BTSの“マスター”、相次ぐ活動休止の背景 K-POPシーン独自の文化を解説
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K-POPのコンサートなどでプロ顔負けのカメラを持った人を見たことはないだろうか。彼/彼女らは“マスター”と呼ばれ、アーティストの写真をSNSなどにアップしている。しかし最近、BTS(防弾少年団)の“マスター”たちが相次いで活動休止した。そこで韓国では一般的なマスター文化、そして彼らの活動休止の背景について、韓国カルチャーやアーティストに詳しいライターのDJ泡沫氏に話を聞いた。
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「2000年代前半頃まで、韓国ではアイドルの公式写真コンテンツが少なかった。子供向けのものだからビジネスにはならないと思われていたんですね。当時は今よりコンサートも少なく、無料イベントやアイドルが集まるフェス、あとは音楽番組ですね。そういう時の公式写真がなくて、ファンが撮って生写真のように販売したのが始まりと言われています。日本では“マスター”と呼ばれていますが、韓国では“ホムマ”、つまりホームページマスターという呼び名が一般的。韓国はネットの発達が早かったので、ホームページを作成してそこに撮影した写真を載せるようになったのが由来です」
泡沫氏はホームページに掲載された写真は誰もが見られるわけではなかった、と振り返る。クイズに正解したり、掲示板に書き込んだ回数などで階級が分けられ、見られるコンテンツが異なる。グループ活動の初期はマスターがどれだけ付いているかが人気のバロメーターになっていて、そのグループが売れるかどうかの一つの指標でもあり、良い写真を撮るマスターがいると人が集まってくることもあった。純粋にファンに“推し”の写真を見せる、といった感覚だったそうだ。しかし、その目的が徐々に変わっていく。
「韓国ではファンからアーティストへの“サポート”が盛んです。地下鉄やラッピングバスなどに広告を出したり、コンサートの際に米花輪(編集部注:韓国では花輪とともに米も贈り、その後寄付されるのが一般的)を送ったり、出演番組の現場などにカフェを丸ごと差し入れたり……。こうしたサポートをするお金を集めるためにマスターが自分で撮った写真を使ってうちわやカレンダー、写真集などのグッズを作るようになっていきました」
最近では展示会を開催し、その入場料をサポートに回すという例も。中にはプロのカメラマンになった人もいるようだ。日本ではコンサート含めアーティストの撮影は一切禁止、というのが主流だが、韓国ではサイン会中、自分の番以外では撮影がOKだったり、イベントやフェスでは撮影が許可されているケースもある。しかし、韓国にも当然肖像権は存在し、単独コンサートでの撮影は禁止されている。
「アーティストの中にはマスターを“自分専用のカメラマン”として認知する人がいる一方、もちろん嫌がるメンバーもいます。ところが事務所側はファンに対して、あまり強く注意することができない。ただ最近は対応が厳しくなってきていて、撮ってはいけないところで撮影したマスターが出禁になるということもありました。また、以前はコンサート中にリアルタイムで写真がアップされていることもありましたが、最近、特に日本ではそれは見られなくなりましたね」
それでもグッズを売ってサポートのためのお金を得たいマスターたちの中には、レアな写真を手に入れるために、禁止されている場所で撮影する人も。こうした状況でも、過去に事務所側が厳しくしすぎてファンから反感を買ったという事例もあり、看過されている。
「最近はK-POPが世界的に人気が出たことでファンの数も増えて、マスターが作る写真集の収益も大幅に上がったようです。多い時には何千万円もの金額が動き、国税庁の調査が入ったマスターもいました。サポートのためのお金がどれだけ集まって、どれだけ使ったか、というのは公に言わないのが不文律になっているので、サポート費以外の用途があるのでは、という疑いを持たれることもあるようです」
しかし、BTSのマスターが活動休止に踏み切ったのは別の背景がある、と泡沫氏は指摘する。
「近年増加しているアジア圏以外の海外ファンにはBTSを通じて初めてK-POPを知ったファンも多く、そういう人たちは韓国のファン文化をあまり知らない。アメリカツアーの会場にいたマスターをストーカー扱いしたり、サセン(注:私生活を追いかける過激なファン)と言ったり……。さらにはアメリカの一部ファンが韓国のマスターや韓国ファンに人種差別的な発言をする事態にまで発展し、それにも傷ついて閉鎖していったんです。それに対し、マスターはサセンとは違うし、生で見る機会の少ない海外ファンこそマスターの写真をよく見ているはずなのに、マスターを間違った認識で非難しながらスマホでの撮影は擁護するのは他文化への無知無理解だ、とする韓国のファンが激しく反論し、一部で対立してしまっているという状況です」
K-POPアーティストと音楽そのものが世界的に広まる一方で、ファン文化への理解が追いついていないという一面もあるが、最近では一部のマスターたちが空港でも撮影のための場所取りをし、一般客の迷惑になっているという声も聞かれる。K-POPの世界的な規模拡大に伴い、長らく“グレーゾーン”だったマスターによる撮影はじめ、ファンのルールに明確な線引きが必要になっているようだ。(村上夏菜)