「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『町田くんの世界』
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リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、リアルサウンド野球部・横浜DeNAベイスターズファンのパンチョ石井くんが『町田くんの世界』をプッシュします。
参考:池松壮亮が新人・細田佳央太を称賛 石井裕也監督最新作『町田くんの世界』メイキング映像公開
2019年のプロ野球が開幕して早3カ月。横浜・大貫選手、上茶谷選手、阪神・近本選手、巨人・高橋選手、ソフトバンク・甲斐野選手、楽天・辰己選手など、期待のルーキーたちが例年以上に一軍の舞台で大きな輝きを放っています。アマチュア野球界のレベルアップ、フィジカルの向上など成功の要素はさまざまですが、一番大きかったのは、これまで第一線で活躍している選手たちにも物怖じせず、真正面からぶつかっていける覚悟を持っていたことだと個人的には感じています。
交流戦に入り我がベイスターズの調子は……と野球の話はこの辺にしておいて、日本映画界に現れた今年の新人王候補筆頭なのが、『町田くんの世界』でW主演を務めた細田佳央太と関水渚です。本作の企画が発表されたとき、なぜ新人(しかもほぼ無名)を起用するのかと思いました。脇を固めるキャスト陣は、岩田剛典、高畑充希、前田敦子、太賀、池松壮亮、戸田恵梨香、佐藤浩市、北村有起哉、松嶋菜々子と、全員主演作経験者。何の実績もないルーキーが、年俸1億円プレイヤーが揃うチームでいきなり4番を任せられているような大抜擢なわけです。でも、映画を観た後ではこの2人しか考えられない、この2人の今後の活躍をずっと追っていきたいと思わずにはいられませんでした。
とにかく純粋で優しい町田くん(細田佳央太)が、同級生の猪原さん(関水渚)に“初めての感情”を抱き、自分自身の答えを見つけていく、というのが大まかなあらすじです。優しすぎる町田くんは、バスでは必ずお年寄りや妊婦さんに席を譲り、困っている人がいれば声をかけ、思春期真っ只中の16歳の高校生にも関わらず、女子生徒にも照れずに頭をなでてしまうという人物です。町田くんはひたすら人を愛していきます。
町田くんは周りからどう見られているか、相手にどう思われてしまうか、ということを基本的には気にしません。町田くんの姿を見て、「変わっている」「普通ではない」とクラスメイトたちはささやきますが、そもそも“普通”とは何なのでしょうか。映画のキャッチコピー「この世界は悪意に満ちている。」の通り、私たちは無意識のうちに自分を守るために壁を作り、世間に馴染むために自分を偽り、いつしか悪意にも気付くことができないようになってしまいます。でも、町田くんは相手がどうしてほしいのか、自分がどうしたいのかを大切にして、物事を単純化せずに悩みもがきながらひとつひとつに正面から向き合っていきます。
そんな町田くんに触発されて少しずつ変わっていく周囲の人物たちと同じように、映画を観ている自分も観る前と後では少し優しくなれたような気がしました。町田くんによって変化していく生徒たち、特に前田敦子、岩田剛典、太賀、高畑充希の4名は、過去最高の演技と言ってもいいぐらい見事にハマっています。4人にあのキャラクターを与えた石井裕也監督も恐るべしです。また、個人的に白眉だったシーンは週刊誌の記者である吉高(池松壮亮)が、妻(戸田恵梨香)に添い寝をするところ。“悪意”にまみれていた吉高が、本当に大事なものを再確認したシーンに、涙ボロボロでした。
終盤に訪れるミラクルなとある展開は、そこだけ抜き出せば賛否両論を呼ぶかもしれません。でも、映画を観て、町田くんの成長を観続けた観客にとっては、応援したくなる、思わず涙してしまう名シーンになること間違いなしです。細田佳央太、関水渚が日本映画界に残した第1歩目を、映画館のスクリーンで観ることををオススメします!
(リアルサウンド編集部)