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きのこ帝国が決断した活動休止の選択 兵庫慎司が近年の活動から感じていたこと

音楽

ニュース

リアルサウンド

「いつもきのこ帝国を応援していただきありがとうございます。本日2019年5月27日をもちまして、きのこ帝国の活動休止をご報告させて頂きます。」

(関連:きのこ帝国が見せた、進化し続ける姿 10周年を前に向き合った“自分たちのスタイル”

  という文章で始まる「大切なお知らせ」が、5月27日、きのこ帝国のオフィシャルサイトにアップされた。

 ベーシストの谷口滋昭が2019年の年明けに脱退の意思をメンバーに伝えたこと、音楽をやめて家業のお寺を継ぐと決めたのがその理由であること、3人はサポートを迎えてバンドを続けることも考えたが、谷口以外のベーシストと続けることは現状イメージができなかった、ゆえに「今後谷口が、またバンド活動を行える状況になった際にはきのこ帝国に戻って来れるように、籍を残したまま活動を休止します」と決めたことが、「きのこ帝国メンバー、スタッフ一同」による文章と、各メンバーそれぞれの文章で発表された。

 「きのこ帝国メンバー、スタッフ一同」の方は、「これからは、残るメンバーがきのこ帝国の活動再開のイメージが湧くまで、それぞれが別の道を歩みます。佐藤千亜妃、あーちゃん、西村コン、谷口滋昭の今後を応援して頂けたら幸いです」という一文で締められている。

 2017年で結成10周年を迎え、2018年9月にアルバム『タイム・ラプス』をリリースし、東阪でライブを行って以降は、きのこ帝国は活動していなかったこと。その『タイム・ラプス』の2カ月前に佐藤千亜妃(Vo/Gt)は初のソロ作品『SickSickSickSick』を発表、バンドが止まって以降はソロでライブを行っており、今年4月4日には新曲「Lovin’ You」を配信&ストリーミングで発表し、4月16日には代官山・晴れたら空に豆まいてで“新曲を次々とやるライブ”も開催していた、つまりこのあとソロのアルバムを作るのであろう、とうかがえたこと。

 などを鑑みて、「ああ、やっぱり佐藤千亜妃はソロになるんだなあ、バンドをやめる布石だったんだなあ」と思った人がもしいたとしたら、その人はあまり注意深くきのこ帝国を追ってこなかったのだと思う。ソロもやりたいけどバンドはやめる気ありません、ソロはソロだけどバンドはバンドです、というサインを(意識的にか無意識にかはわからないが)出しながら行ってきたのが、佐藤千亜妃のこれまでのソロ活動だったからだ。

 ミニアルバム『SickSickSickSick』は、まりんこと砂原良徳を共同プロデューサーに迎えたことが前面に表れているサウンドプロダクトだった。2018年暮れの『COUNTDOWN JAPAN』出演時や、2019年3月のodolのライブのゲスト出演時は、ドラムのboboなど凄腕のミュージシャンが集結してのバンド編成だったが、基本的にギターバンドフォーマットであるきのこ帝国とは異なる、R&BやAOR、ダブ等に寄ったサウンドである。

 つまり、佐藤千亜妃のソロ作品なりソロライブなりが、きのこ帝国と同じような音楽性だったら、バンド活動への不満があると判断してもいいだろうが、そうではなかった、ということだ。きのこ帝国のサウンドフォーマットでは物理的に不可能な音楽もやりたくなった、だからそっちは別ユニットでやる、ということが、聴けば(観れば)わかるようになっていた、ということだ。

 で、本当にそうだから素直にそうしたんだろうけど、そのあたりがまぎらわしくならないように注意しながらソロを行ってきた、というところも、佐藤千亜妃的にはあったのではないかと思う。本人に聞いたわけではないので、僕が“思う”だけですが。

 ギターのあーちゃん(Gt)曰く「そもそも最近バンドの活動をしてなかったのは『10周年も終えたししばらく個々に過ごしてみよう』という、全くネガティブ要素のない理由からでした」という時期に入る時も、「きのこ帝国はしばらく休止します、その間佐藤千亜妃はソロに専念します」みたいなステイトメントを出さなかったのも、同じ理由だと思う。事実上はしばらく活動しないけど、本気の休止じゃないですよ、という。

 そのため、このたびの谷口滋昭の脱退の申し出は、メンバーにとっては青天の霹靂だったのではないか、と推測する。じゃなかったら、(このあたりはスタッフワークも含めてだが)こんなにバタバタした休止ではなくて、10周年で一区切り、そこからは佐藤千亜妃はソロ、バンドは休止、というふうにプランニングして、ちゃんとアナウンスして進めただろう。いやらしいことを言うと、その方がビジネスとしてもおいしいし(たとえば会場をでかくして活動休止ツアーを行うとか)。というようなバタバタ感が、「ああ、作為なかったんだなあ、本当にそういう事情だったんだなあ」と、僕には思えたのだった。

 あとひとつ。「これからは、残るメンバーがきのこ帝国の活動再開のイメージが湧くまで、それぞれが別の道を歩みます。佐藤千亜妃、あーちゃん、西村コン、谷口滋昭の今後を応援して頂けたら幸いです」というところが、ちょっと気になる。

 「今後谷口が、またバンド活動を行える状況になった際にはきのこ帝国に戻って来れるように、籍を残したまま活動を休止します」と決めて、なおかつ「残るメンバーがきのこ帝国の活動再開のイメージが湧くまで」休止する、というのは、どういう状態のことを指しているんだろう?

 谷口滋昭がいなくても、残るメンバーがきのこ帝国の活動再開のイメージが湧いたら、再始動する可能性がある、ということなんだろうか。でも「今後谷口が、またバンド活動を行える状況になった際にはきのこ帝国に戻って来れるように、籍を残したまま活動を休止します」なんですよね? つまり、残るメンバーが活動再開のイメージが湧いた時か、谷口滋昭がまたバンド活動を行える状況になった時、そのどっちかがあればきのこ帝国をやる、ということか。

 でも、前者はともかく、後者はねえ……実家のお寺を継いでお坊さんになる人が「またバンド活動を行える状況に」なる可能性、とても低いのではないかという気がする……いや、必ずしもそうとは言い切れないか。PLAGUES/Mellowheadの深沼元昭の例もあるし(実家が寺でいずれは継ぐということを90年代から明言していたし、本人のツイート等によると実際に継いだようだが、ミュージシャンとしての活動もやめていない)。

 かつ、「これまで4人で歩んできた10年間の中で、谷口以外のベーシストと、きのこ帝国を続けるイメージは現状出来ませんでした」とも書いてあるのに、「残るメンバーがきのこ帝国の活動再開のイメージが湧く」ことなんて、今後あるんだろうか?……あ、でも「現状出来ませんでした」って、“現状”という言葉が入っていますね。じゃあ今は無理だけど、将来的には「谷口以外のベーシストと、きのこ帝国を続けるイメージが出来ました」ってこともあり得るかもしれないから、ということか?

 というふうに、この文章を何度も読みながらあれこれ考えてしまうこと自体に、ああ、俺もけっこうショックを受けてるんだなあ、と自覚しました。詞曲の確かさはもちろんのこと、初期から「シューゲイザー」とか「ギターバンド」とかのいかにもなレッテルをべたべた貼られながらも、それを一作一作で確実にひっぱがしていくような、そして一枚剥がすたびにオリジナルな表現に近づいていくような、かといってシンプルな音のままで歩んてきたあのバンドを、俺は好きだったんだなあ、と。で、「そろそろゴールかな」とか思ったことはなかったんだなあ、この先の歩みも追っていくつもりだったんだなあと。

 とにかく、今後のそれぞれの活動に期待します。さしあたって、もっともネクストアクションが見えているのは佐藤千亜妃なので、引き続き追いたいと思います、気持ち悪がられない程度に。とうに気持ち悪がられている可能性も大いにあるが。

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「DI:GA ONLINE」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「KAMINOGE」などに寄稿中。