KING OF PRISM、Mia REGINA、YURiKA、黒崎真音……意義ある“カバーソング”新譜6選
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アニメ音楽・声優ソング周辺の新譜を紹介する本連載。今回はポピュラー音楽の分野においてスタンダードかつ人気の高い「カバーソング」という切り口で6作品をピックアップします。一口に「カバーソング」と言っても、その楽曲をカバーする理由や意義は人それぞれ。なのでここでは各作品の文脈も踏まえつつ紹介できればと思います。
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まずは『KING OF PRISM』シリーズの最新作として現在TV放送中のアニメ『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』(テレビ東京ほか)よりエンディングテーマをフィーチャー。「プリズムスタァ」と呼ばれるアイドルが人気を集める世界を舞台に、その候補生としてともに支え合いながら寮生活を行う7人の男性アイドルの活躍を中心に描く本作。その登場キャラクターたちが毎週持ち回りで担当するエンディングテーマが、すべてTRFの過去のヒット曲をカバーしたものなのです。
実はこれには理由があって、現在までに劇場版を含め3作品が制作されている『KING OF PRISM』シリーズは、元々2013年にTV放送された女児向けアニメ『プリティーリズム・レインボーライブ』の公式スピンオフ作品として立ち上げられたもの。世界観やキャラクターは完全に共有されており、時系列的には『プリティーリズム・レインボーライブ』以降の物語が『KING OF PRISM』シリーズで描かれています。そして大元の『プリティーリズム・レインボーライブ』では、放送当初からTRFとの公式コラボレーションが行われ、ダンス&ボーカルユニットのPrizmmy☆が歌うTRFのヒット曲のカバー(「BOY MEETS GIRL」「EZ DO DANCE」「CRAZY GONNA CRAZY」)がオープニングテーマに起用されたほか、TRFのメンバーであるDJ KOOをモデルにしたキャラクター、DJ COO(CV:森久保祥太郎)が劇中に登場するなどしていたのです。
そういった流れもあって過去の『KING OF PRISM』シリーズ(『KING OF PRISM by PrettyRhythm』『KING OF PRISM -PRIDE the HERO-』)でも「EZ DO DANCE」「CRAZY GONNA CRAZY」などのカバー曲が使われ、2017年にアニソンフェス『Animelo Summer Live』で劇中ユニットのKING OF PRISMが出演した際には、DJ KOO本人がサプライズで登場してキャストたちとコラボレーションするという熱い展開もありました。
なので今回の『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』における一連のカバーは、シリーズのファンにとっては必然にして待望となるもの。楽曲は週替わりということでバリエーションも一気に増え、太刀花ユキノジョウ(CV:斉藤壮馬)の艶めいた歌声と小室哲哉らしい切ない旋律が見事にマッチした「寒い夜だから…」、青森出身でねぶた祭り好きの香賀美タイガ(CV:畠中祐)が「そいやーっ!」と掛け声を上げながら熱く激しく高ぶる「masquerade」など、それぞれのキャラクターにマッチングした選曲&アレンジでTRFの名曲カバーを楽しむことができます(『レインボーライブ』時代からTRFカバー曲の編曲を担っているmichitomoの手腕も流石!)。これらのカバー曲は、各キャラクターをフィーチャーした「マイソングシングル」シリーズに収められる予定です。
また、人気アプリゲームを原作とするTVアニメ『消滅都市』(TOKYO MX)からも印象的なカバーソングが誕生。それがメインヒロインのユキ(CV:花澤香菜)によるキャラクターソング「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」と「Hello, Again~昔からある場所~」です。『消滅都市』は、ひとつの都市が突然消滅してしまった世界で、その消滅から唯一生還したとされる少女のユキと、運び屋の主人公・タクヤが、消滅都市の謎を追う物語。都市の消滅を巡って様々な人々の運命や生死が時空を超えて交差するハードなSFストーリーとなっています。
その第1話と第2話のエンディングテーマとしてオンエアされたのが、ユキによるYEN TOWN BAND「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」のカバー。原曲は岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』(1996年)の主題歌で、主演のCharaが劇中バンドであるYEN TOWN BANDのボーカリストとして歌唱を担当し、小林武史の作曲・プロデュースによるノスタルジーを喚起するようなメロディとアレンジ、岩井、Chara、小林が共作した映画の内容とシンクロする歌詞の素晴らしさも相まって、当時オリコンウィークリーチャートで1位を獲得する大ヒットを記録しました。
過去にも多くのカバーを生んでいるこの名曲を、花澤はユキのミステリアスで儚いキャラクター性に合わせたのであろう、感情の起伏をあまり感じさせない静かなトーンで歌唱。その繊細で今にも消え入りそうな表現が作品のどこか退廃的な世界観とも共鳴する、多くの人の心に残るであろう名唱となりました。同じく原曲は小林武史の90年代ワークとして知られるMy Little Lover「Hello, Again ~昔からある場所~」のカバーも、楽曲のメランコリックな雰囲気と花澤の透明感に満ちたボーカルとの相性が抜群。90年代J-POP再評価の流れを踏まえつつ、多くの視聴者層の懐かしい気持ちを絶妙に引き出す選曲も込みで、技ありの2曲をカップリングしたキャラソンシングルと言えるでしょう。
続いては、アニソン界隈で活躍するアーティストによるアニソンのカバーソング集を紹介。まずは3人組ボーカルユニットのMia REGINAによるカバーアルバム『RE!RE!!RE!!!』です。メンバーの霧島若歌、上花楓裏、ささかまリス子は全員ディアステージに所属しており、元々はTVアニメ『アイカツ!』関連楽曲の歌唱を担当するユニット=STAR☆ANISの一員として注目を集め、2016年に本ユニットを始動させました。そういった経緯もあってメンバーは全員アニソンに対して強いこだわりを持っているようで、今回のアルバムには彼女たちのルーツやアニソンへの愛を感じさせる全10曲を収録しています。
例えば所属レーベルであるランティスの大先輩であるJAM Projectの楽曲からは、歌ってみた動画などで人気の高い「SKILL」や「GONG」といった定番ナンバーはあえて外して、「VICTORY」をセレクト。自身のアーティスト活動の原点にあたる『アイカツ!』シリーズからは、直接は関わりのなかった『アイカツスターズ!』からアイドルたちの連綿と続く「憧れ」の歴史を歌った「STARDOM!」を選んだり、その『アイカツ!』と制作スタッフ的に縁深い作品であるTVアニメ『夏色キセキ』(本作の副監督だった木村隆一が『アイカツ!』の監督を務め、監督の水島精二はスーパーバイザーとして音楽制作などに関わった)より、オープニングテーマのスフィア「Non stop road」を選ぶなど、その選曲理由を知った上で聴くとより楽しめる内容になっています(参照:https://www.lisani.jp/0000129200/)。
ちなみにUNISON SQUARE GARDENの大定番曲「シュガーソングとビターステップ」は元Cymbalsの矢野博康をアレンジャーに迎えてファンキー&グルービーな洒脱ポップスに仕上げていたり、件の「STARDOM!」は華やかなスウィングジャズ風になっていたりと、サウンド面でチャレンジを盛り込むことで原曲とはまた違った魅力を引き出しているのもポイント。カバー集らしい楽しさが詰まった作品ではないでしょうか。
そのようにアレンジの妙も含めて聴かせるカバー集がある一方で、あえて原曲を忠実になぞったサウンドでアニソンへの愛を示したのが、YURiKAによるカバーミニアルバム『ただいま。 ~YURiKA Anison COVER~』。小学生の頃からアニソンシンガーになることを夢見て歌唱力を磨き、2014年にNHK『第1回アニソンのど自慢G』で優勝。オーディションを経て2017年にTVアニメ『リトルウィッチアカデミア』のオープニングテーマ「Shiny Ray」で念願のデビューを果たした彼女。本作には、その『第1回アニソンのど自慢G』で披露していた陰陽座「甲賀忍法帖」をはじめ、自身がアニソンシンガーを目指すきっかけとなったAKINO from bless4「創聖のアクエリオン」、さらに美少女ゲームブランド・Keyの楽曲カバーライブを開催するほどの「鍵っ子」として知られる彼女らしい選曲のLia「時を刻む唄」(この楽曲はKeyの人気作をアニメ化した『CLANNAD ~AFTER STORY~』のオープニングテーマ)などを収録しており、自らの原点に立ち返ると同時にアニソンのアニソンらしい魅力とまっすぐ向き合った作品になりました。
続いては通常のカバーソング集とは少し趣きが異なるのですが、黒崎真音のニューアルバム『Beloved One』初回限定盤のみに付属するミックスCDをピックアップ。「とある魔術の精霊讃歌(アルトルムフィア)~DJmix~」と題したこの特典CDは、アニメおよびゲーム版『とある魔術の禁書目録』シリーズで使用されたこれまでの主題歌・挿入歌を黒崎真音の歌唱によりノンストップクラブミックス化したもの(ミックスはDJ WILDPARTYが担当)。黒崎と言えば1stシングル「Magic∞world」と2ndシングル「メモリーズ・ラスト」でTVアニメ『とある魔術の禁書目録II』のエンディングテーマを担当。それから8年ぶりのTVシリーズとなった『とある魔術の禁書目録III』では、シンガーとしての先輩である川田まみの引退を受けて、それまで彼女が担当してきたオープニングテーマの大役を受け継ぎ、「Gravitation」「ROAR」という作品の世界観に寄り添った名曲を生み出すなど、『とある魔術の禁書目録』シリーズには欠かせない存在となっています。そんな彼女が川田の「PSI-missing」「No buts!」といったヒット曲を含むシリーズを象徴する楽曲を歌唱し、ミックスCDにまとめ上げるという行為は、非常にユニークかつ大きな意味を感じさせます。2010年のデビューからシーンの第一線で活躍してきた彼女の、アニソンシンガーとしての矜持が詰まった作品になることが期待されます。
最後はリリース未定なので厳密に考えると新譜ではないのですが……この4月よりTV放送されている『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』(NHK総合)のエンディングテーマがあまりにも素晴らしいので紹介させてください。2015年から2018年にかけて劇場公開されたアニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』全6話を再編集のうえ、新たなオープニング&エンディングテーマを加えてTVシリーズとして構成した本作品。LUNA SEAによるオープニングテーマ「宇宙の詩 ~Higher and Higher~」「悲壮美」も話題になっていますが、大のガンダム好きで「機動戦士ガンダム40周年プロジェクト」の総合音楽プロデュースを務めるSUGIZOが手がけたエンディングテーマは、物語の展開に合わせて全4曲が順次公開されていくという仕組みに。現時点(6月5日現在)では2曲がオンエアされていますが、そのどちらとも過去の『ガンダム』シリーズの名曲を採り上げたカバーなのです。
まず第1弾として解禁されたのが、映画『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』(1982年)の主題歌をカバーしたSUGIZO feat. GLIM SPANKY「めぐりあい」。原曲は井上大輔が朗々とした歌声を響かせる壮大かつ感動的なバラードでしたが(歌詞は井荻鱗・売野雅勇、作曲は井上、編曲は鷺巣詩郎)、今回のカバー版では松尾レミのジャニス・ジョプリンを彷彿させるハスキーボイスと亀本寛貴の乾いたギターサウンドがブルージーな雰囲気を演出。原曲よりもロック色を強めながらも、そこはかとなく漂う哀愁が何とも言えない気持ちにさせる名カバーに仕上がっています。
そして第2弾は、TVアニメ『機動戦士Zガンダム』のオープニングテーマとして知られる森口博子「水の星へ愛をこめて」のカバー。こちらは水曜日のカンパネラのコムアイをフィーチャリングボーカリストに迎え、ハープを交えた流麗なオーケストラサウンドをバックに、コムアイがシャーマニックな歌声をエコーたっぷりに聴かせる幻想的な楽曲になっています。ララァ・スンがエンディングのアニメーションにフィーチャーされていることからも、彼女をイメージして作られたカバーであることは明らか。アイナ・ジ・エンド(BiSH)とmiwaが参加予定の第3弾および第4弾がカバー曲になるかは不明ですが、残りの2曲もSUGIZOのガンダム愛が結晶化したような内容になることは間違いないでしょう。(北野創)