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「7月の物語」ギョーム・ブラックが音楽、舞台、映画作りへのこだわり語る

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ギョーム・ブラック

「7月の物語」のQ&Aが6月8日に東京・ユーロスペースで行われ、来日中の監督ギョーム・ブラックが登壇した。

「女っ気なし」「やさしい人」で知られるブラックが、フランス国立高等演劇学校の学生たちと作り上げた「7月の物語」。レジャーに出かけた若い女性2人組ミレナとリュシーに芽生え始めた友情と、そこに走る亀裂を描いた「日曜日の友だち」、革命記念日で盛り上がる7月14日のパリを舞台に、帰国を控えた留学生ハンネが散々な1日を過ごす「ハンネと革命記念日」の2部構成となっている。

企画はフランス国立高等演劇学校で行われた、カメラの前で芝居を実践するワークショップからスタートしたという。当時を「もともと映画を作る予定はなく、予算もなかった。しかし私には映画を作りたい気持ちがありました」と振り返るブラック。映画への出演経験がある俳優はおらず、雇えるスタッフもたった3人という状況だったが、それぞれ5日という短い撮影期間で、2016年7月のバカンスの始まりに浮き立つ若い男女の戯れを捉えた。

これまで16mmフィルムを好んで使っていたブラックだが、予算の関係もあり本作では初めてデジタルカメラでの撮影に臨んでいる。ブラックはフィルムから得られる映画に必要なポエティック、繊細さの重要性を説きつつ「最終的にはデジタルカメラでの撮影を楽しむことができました。デジタルを経験してしまった今、今後予算があってもフィルムを選択するかは疑問です」と明かす。2013年の「やさしい人」制作時には「フィルム撮影以外はあり得ない」という思いだったが、「デジタルカメラは画面に厳格さが宿り、とても慎重にフレームを考えることを余儀なくされます。デジタルが映画の暴力性、厳格さをうまく表現できる一方で、フィルムはどうしても映像に優しさを備えてしまう」と持論を展開した。

「小さな予算のシンプルな映画を撮るという“控えめさ”に合っていた」という理由で、「7月の物語」ではスタンダードサイズの画面比が選択された。ブラックは「俳優の顔や体、手を同じ画面で撮影するのに適しています。予算がないことを強調しましたが、もちろん映画史の中で多く使われてきた美しい画面であり、このサイズを選択する喜びも私の中にありました」と付け加える。

ある凄惨なニュースがラジオから流れる場面が描かれる「ハンネと革命記念日」。これは実際に撮影が行われていた2016年7月の革命記念日に、フランス・ニースで起こったテロ事件を背景にしている。花火見物のために集まった群衆にトラック1台が突っ込み、80人以上が死亡した痛ましい事件を、ブラックは「日本で報道されたかはわかりませんが、フランスでは多くの人がショックを受けた深刻な出来事」と説明。そして「撮影している段階ではテロを映画に取り込むかどうか判断できませんでした。しかし編集の段階で、テロに触れない限りこの物語を語れないという決断に至りました。若者たちが欲望に従い、呑気に自由を謳歌しているフィクションをすべてかき消すような事件。ですから、このテロをこのときの現実として映画の中に入れることが必要だと思いました」とその意図を述べた。

ブラックは「私の映画は1つの曲で終わることが多い」と自作における音楽のこだわりも語る。選曲の指針となるのは「その曲が人生において重要なもので、どれだけ愛着を持っているか」であり、決して「映画に合うから使用する」ということはないという。そして「これまで無意識に聴いていた曲が、実際に流してみると映画と共鳴しないことはあります。『ハンネと革命記念日』のラストにかかる曲の歌詞は、ニースで起きた暴力的なテロ事件に被さるようなもの、彼らの未来にベールがかかるような意味合いで作品になじんでいると思います」と続けた。

身近なものを劇中に登場させるのは、決して音楽だけの話ではない。ブラックは「『7月の物語』は学生ですが、普段の映画では実生活でも仲がいい俳優に出てもらいます。私がよく知っている好きな俳優たちです」とコメント。また「7月の物語」は舞台がブラックなじみの場所だと言い、「『日曜日の友だち』に出てくるセルジー・ポントワーズのレジャーセンターは、私が子供の頃によく行っていた場所。『ハンネと革命記念日』の国際大学都市は自宅のすぐ近くなんです」と明かした。

「7月の物語」はユーロスペースで上映中のほか、7月13日より京都・出町座、7月20日より愛知・名古屋シネマテーク、2019年内に大阪のシネ・ヌーヴォでも公開。ブラックが自転車愛好家たちにカメラを向けた38分の短編ドキュメンタリー「勇者たちの休息」が併映される。

(c)bathysphere – CNSAD 2018