『アラジン』作曲家アラン・メンケンが語る、“記憶に残る音楽”を生み出す秘訣
映画
ニュース
ディズニー・アニメーションの名作を実写映画化した『アラジン』が現在公開中だ。ダイヤモンドの心を持ちながら、本当の自分の居場所を探す貧しい青年アラジン、王宮の外の世界での自由を求める王女ジャスミン、そして“3つの願い”を叶えることができるランプの魔人ジーニーの3人が、運命の出会いによって“本当の願い”に気付き、叶えようとするさまを描いたファンタジーだ。
参考:中村倫也、『アラジン』吹き替え版でイケボ放つ 声でも魅了するその実力とは
リアルサウンド映画部では、アニメーション映画『アラジン』に続き、本作の音楽を担当したアラン・メンケンにインタビュー。名曲「ホール・ニュー・ワールド」や新曲「スピーチレス~心の声」などの楽曲制作秘話から、『美女と野獣』など数多くのディズニー映画でどのようにして“記憶に残る音楽”を生み出してきたのか、その秘訣についてまで、話を聞いた。
ーーディズニー実写作品の音楽担当は、2017年公開の実写版『美女と野獣』以来2年ぶりとなります。
アラン・メンケン(以下、メンケン):『美女と野獣』の作業の最後の方で、次に『アラジン』をやることが決まったんだ。そして同じように、『アラジン』の作業が終わる頃に、次は実写版『リトル・マーメイド』の音楽をやることが決まったよ(笑)。
ーー『アラジン』を実写化するということを最初に聞いた時、驚きはなかったですか?
メンケン:いや、『リトル・マーメイド』の方が驚いたよ! 「どうやって実写化するんだ!?」ってね(笑)。ディズニーはどんどん実写のハードルを上げてる気がするけど、『アラジン』の話を最初に聞いた時は、ガイ・リッチーがミュージカルを撮るということにまず驚いたんだ。どうなるのか全く想像がつかなかったよ。
ーー確かにこれまでの彼のフィルモグラフィーからは全くイメージが湧きませんでした。
メンケン:本当だよね。でも、完成した作品はとにかくよくできていた。この作品にはたくさんの人たちが関わっているわけだけれど、その中心にいるガイは確固たるビジョンを持っていた。例えば、「曲は現代的なアレンジに」「アラジンのキャラクター造形にはストリート的なカッコよさを加えたい」といった具合にね。
ーーガイ・リッチー監督からは「現代的なアレンジにしたい」というリクエストがあったんですね。
メンケン:そうなんだ。「アラビアン・ナイト」は、楽器の使い方も含めてよりアラブ風にした。「ひと足お先に」はよりヒップホップ調になっていて、アラジンの自信たっぷりなキッズっぷりが際立つ楽曲に仕上げたよ。「フレンド・ライク・ミー」と「アリ王子のお通り」は、もうウィル(・スミス)に“自分のもの”にしてもらった感じで、彼のパフォーマンスをサポートするようなオーケストラを意識したんだ。「ホール・ニュー・ワールド」はアレンジをより親密に、ポップ要素があるんだけどものすごく感情が詰まったアレンジにしているよ。
ーー今回の作品では、『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』のベンジ・パセック&ジャスティン・ポールとコラボレーションした新曲「スピーチレス~心の声」も大きな話題になっています。
メンケン:「スピーチレス~心の声」は今回もっとも大きな要素だったかもしれない。すごく現代的なポップ要素を持ちながらも、スコア・アレンジを通して、今までの既存の曲やストーリーにもきちんとハマらせる必要があったからね。結果的に1曲を半分にして、前半と後半の2回に分けて使うことにしたんだ。もともとは1曲として書き下ろしたんだけど、最後のジャスミンの感情に合わせて使うには“遅すぎた”。テンションが高まってきているから、物語がそれまで積み上げてきたものとうまく合わなかったんだ。とはいえ、前半で1曲まるまる使ってしまうには、ジャスミン自身の感情が準備できていないから“早すぎた”。そういう理由で、1曲を半分にして2箇所で使うことによって、とてもいい効果が発揮できたと思うよ。成立した時には心からホッとしたね。
ーー『アラジン』は長年コラボレートしていた作詞家のハワード・アッシュマンとの最後の作品ということもあり、あなたにとっても思い入れのある作品なのではないでしょうか?
メンケン:もちろんそうだよ。『アラジン』は僕にとっても大きな転換期になった作品でもあるんだ。当時、ハワードは『アラジン』の楽曲の詞をある程度完成させた状態で亡くなってしまったんだけど、その後バディものだったストーリーが恋愛ものに変わってしまった。そこからティム(・ライス)が参加したんだ。当時はティムとのコラボの結果がどうなるかもわからなかったけど、グラミー賞やアカデミー賞などいろんな賞を受賞できたし、チャートのNo.1にもなった。僕のキャリアにおいてハイライトと言えるね。
ーー誰もが口ずさめるような楽曲やスコアを数多く手がけられてきたわけですが、そういった“記憶に残る音楽”を生み出す秘訣はなんでしょう?
メンケン:僕は一般的なポップサウンドは決して選ばないんだ。大切なのは、キャラクターやストーリー、そしてそれぞれの企画から、その世界にしかない音楽的語彙の特有さに気づくことだね。『リトル・マーメイド』だったらちょっとカリプソ風なレゲエ、『美女と野獣』だったらフランス系のミュージカル、『ポカホンタス』だったらアメリカ先住民風な音楽、『ノートルダムの鐘』だったらフランスの教会やジプシーのような民族的な音楽、『ヘラクレス』だったらゴスペル、『魔法にかけられて』だったらウォルト・ディズニー史を辿るような音楽、『塔の上のラプンツェル』だったらフォークロック、そして今回の『アラジン』だったらハーレム期のジャズや黄金期のハリウッドが持っていたような要素……という具合にね。全ての作品にユニークな語彙があるわけだから、それに助けてもらいながら、求められている音楽を作っていくということだね。
ーー映画にとって、音楽はどのような役割を果たすものだと考えていますか?
メンケン:音楽はものすごい力を持っている。そして、楽曲とスコアは違うものでもあり、同じものでもあるんだ。ストーリーテリングの要素が漂泊する瞬間が楽曲、そして「これからシリアスな場面ですよ」とか「ここはユーモアがあるシーンです」というようなニュアンスを教えてくれる、サブリミナルな効果があるのがスコアだね。映画において音楽は、その感情の構造を支えてくれるものだと思っているよ。
ーーちなみに、普段はどんな音楽を聴いているんですか?
メンケン:そうだな……。実は僕は昔からクラシックロック派なんだ(笑)。でもクラシック音楽は結構聴くほうだね。あとはどんな経験をしたいかによるかな。インスピレーションを得たい時はベートヴェンの交響曲、気持ちを高めたい時はドビュッシーやラヴェルの音楽を聴いているよ。(取材・文・写真=宮川翔)