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湯木慧が語る、『誕生~バースデイ~』に込めた想い「何度朽ちてもまた何度でも生まれたい」

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 聴く者の感情を揺さぶる21歳のシンガーソングライター、湯木慧(ゆきあきら)。2018年10月に、インディーズでのラストとなる作品『蘇生』をリリースした彼女が、自身の誕生日である6月5日にメジャーファーストシングル『誕生~バースデイ~』をリリースする。“蘇生からの誕生”、輪廻するコンセプチュアルなテーマ性。トラックごとに、葛西大和(Mili)、Sasanomalyら気鋭のサウンドクリエイターとコラボレーションすることで、作品に色が塗られて可視化されていくかのような世界観の凄み。人は何度でも生まれ、何度でも朽ち果て、何度でも蘇生するという力強いメッセージ。曲の世界観を表現する絵画も自ら手がけ“命に向き合ってない人になんか響かなくていい”と言い切る、表現の本質へと立ち向かうポジティビティ=創作への意欲。心に突き刺さる言葉と楽曲、サウンド&ビジュアルの力。2019年6月5日、湯木慧は誕生し、自分自身の色で時代を奏でていく。

(関連:湯木慧が紡ぐ“生きる”ことへの切実なメッセージ 「バースデイ」を聴いて

■一番ピュアな気持ちで表現したいなと思うことが、命や生きること
――インディーズでラストとなる前作のタイトルが『蘇生』で、今回、湯木さんの誕生日にリリースするメジャーでの第一弾が『誕生~バースデイ~』という、繋がりあうコンセプチュアルなテーマ性を感じました。

湯木慧(以下:湯木):前作のタイトルを『蘇生』にしたのは、メジャーデビュー作の制作が始まっていた上で考えたことなんです。生まれるためには一度蘇生させて、そしてまた誕生させたいと思って形にした作品が『誕生~バースデイ~』です。

――これまで発表した楽曲をリアレンジというかたちで“蘇生”して、今回また新しい湯木さんの表現がスタートするという流れに感銘を受けました。表現活動をいかに大事にされているかが伝わってきます。そして、「バースデイ」のMVにおける深遠なる世界感の描き方が素晴らしくて。

湯木:動画が15万回再生を超えました。嬉しいですね。

――MVも表現の一環ですよね。メッセージ性が、ビジュアライズされて心により突き刺さりました。人はあらゆる経験を食べていくんだなということ、それから日々の積み重ねの大事さなどを感じました。

湯木:コンセプトを考えて監督と話し合いました。技術面でどこまで表現できるかがポイントで。今回の「バースデイ」の映像も、私から“食べる”ということをテーマにしたいと提案して、それを元に枝分かれさせて伝えたいことをどんどん細かく表現していきました。

――表現活動を始めたきっかけは何だったんですか?

湯木:アコースティックギターを小さい頃から弾いていました。自分から発信したり、活動するということを意識的にはじめたのは高校生の時の路上ライブですが、それより前にインターネットでニコニコ生放送をしていました。外の人と顔を合わせたというわけではないけど、皆さんに自分の声やパフォーマンスを届けたのはそれが一番最初ですね。

――湯木さん特有のディープな世界観は、第三者と向き合うことで磨かれていったのですか?

湯木:歌を歌って、ただ聴いてもらいたいという活動は、ニコニコ生放送や動画から始めたんですけど、いまの湯木慧に直結する“人格”や、創作することで生まれる“色”は、高校1年生の時に両親が離婚したことが一つのきっかけかもしれないですね。もともと、社会に対する考えは自分の中でありましたが、そこから視野が広がって物事に対する考え方がけっこう変わったのかなって。

――すごく明確に自分のことを語れる方ですよね。それこそ、アート作品についているようなキャプションのように、創作意図が明確です。でも、作品ではすべてを説明しすぎない、語りすぎないバランスも絶妙で。こうやって日々作品を残していくことは、湯木さん自身に向けられていることでもあるのかなと。

湯木:その通りです。周りに聴いてもらいたい、そう思ってるのと同じくらい自分自身に歌うことも大事なことで。過去の自分の曲に助けられるという経験をしたことも理由のひとつかもしれません。今の自分自身のために、未来の自分自身のためにも歌を歌っていて。だからこそ聴いてくださる方にも響いているのかなと思っています。

――誤解を恐れずに言えば、J-POP特有の上っ面の綺麗事を、湯木さんはギリギリまでそぎ落として、ヒリヒリした言葉を前面に出されていて。でも、それがネガティブな感じではなくて。今回の作品のテーマ性ということもありますが、生きることを肯定してくれる、すごくピュアな表現をされていますよね。

湯木:そうですね。作品を作る上で惹かれているのが命なんだと思います。自分のことって自分が一番わからないんですよね。どうして自分がこんなに“命”をテーマにしているのか。作品って本当に自分の写し鏡なんですけど、一番ピュアな気持ちで表現したいなと思うことが、命だったり、生きることに対して思うことだったんです。きっと、命がすごく魅力的だと感じるからだと思います。

■“初期衝動”に生きるエネルギーを強く感じる
――今作の1曲目「98/06/05 11:40」では、命が誕生した瞬間が記録されていました。あれは自分自身の音声ですか?

湯木:はい、1998年の6月5日の音声です。自分の第一声が残っていたというのも奇跡ですよね。後ろに流れてる音も実際に病院が流してくれたもので、その時のカセットテープが残っていました。私は大分県で生まれたんですが、地元の人にも愛されてるような産婦人科だったようで。今はもう無くて……訪れることもできないんですけどね。色んな奇跡の巡り合わせであのカセットテープがあって、生まれた時からこの20年間が繋がって出来た作品みたいな感じがするんですよ。自分でも不思議なんですが、この音声を聞いた時に、生まれた時の第一声から”湯木慧”は”アーティスト湯木慧”だったんだなって思いました。

――感動としか言いようがないです。最初に発した産声ですもんね。また、『誕生~バースデイ~』では、人は何度でも生まれ変われるんだというメッセージも感じました。

湯木:どうやったらうまく生きられるかなって、色んなことを考えるんです。生まれ変わるために、この世を絶つというわけではなくて、色んな意味で、何度朽ちてもまた何度でも生まれたいなと思っていて。

――なぜ、そんな風に思えるようになったのですか?

湯木:毎日がスタートで初期衝動が大事だと思っているんですが、例えば初めて行く公園ってすごく楽しい!って思えるけど、だんだんとマンネリ化してその感覚は薄れてきてしまう。でも、また新しい公園に行くと、また楽しいって感じることができる。これって人間や動物でも色んなことに置き換えられますよね。私は、一番最初の「楽しい」「嬉しい」という感覚に、生きるエネルギーを強く感じたんです。なのでその初期衝動を、何度でも感じていたいんです。

――2曲目の「産声」は、生まれたばかりの赤ちゃんは、視力がまだ弱く光しか感じられず、誰もが生まれた瞬間は同じものを見て同じ経験をしているという湯木さんが感じられた視点ですよね。生きることを肯定してくれる本質的な原体験を表現する作品となりました。

湯木:インディーズ時代、一番最初に出したアルバムに「流れない涙」という曲があって。赤ちゃんって生まれる時って泣いてるけど涙を流さないんですね。そこには私たちが知っている“泣く”とは違った、別の意味が込められているんだろうなって。それは科学的にではなくて、あくまでも私のマインド的に思ったことなんですが。そうやって、赤ちゃんについて調べていたら、生まれてからしばらくは視力がほとんどないということを知って。じゃあ、最初に見えるものって何なんだろうって考えてみたんです。例えばお母さんの顔とか、助産師さんなのかなと思っていたら、視力が弱いから最初は光しか感じられないんだそうです。そこからだんだん人それぞれに見るものや感じることが変わってきて。同じ事柄も違うように見えたり感じるようになったりするけど、一番最初って、みんな光しか感じられなかったんだなって思って作った曲です。

――視点の素晴らしさもですが、アレンジを手がけたSasanomalyさんとのマッチングにこだわりを感じました。編曲をお願いするアーティスト選びのセンスの良さも、湯木さんサウンドの魅力ですよね。

湯木:ありがとうございます。「産声」をSasanomalyさんにお願いしたのは、メリーの音を自分で打ち込みをしたデモの段階から入れていたんですが、その時に感じたイメージからアレンジはSasanomalyさんにお願いしたいと思っていました。あと、Sasanomalyさんのアレンジが“心地よく首を絞めつけてくれるようなサウンド”なんだということを『蘇生』で初めてアレンジして頂いた時に気付いて。それってもう、まさに産声だなと。

■自分の作っていく作品は “命に向き合ってる人には必ず響くものでなければならない”
――3曲目はリードトラックでもある「バースデイ」。イントロからバイオリンの響きが美しいナンバーは、鬼才音楽家であるMiliの葛西大和さんですね。

湯木:『蘇生』で「カゲ reborn by Yamato Kasai(from Mili)」をお願いした時から、光と闇の塩梅というか、葛西さんが持っている光と闇が、自分が表現したいバランスとマッチしていて。そんなこともあって「バースデイ」は、是非葛西さんにお願いしたいと思いました。

――この曲は、誕生日を迎えたときに着想を得た曲なんでしょうか?

湯木:20歳の誕生日を迎えた時に完成した曲なんですが、きっかけはその1年前に身近で起こったとある交通事故でした。家に帰る途中、目の前でお母さんを事故で失った少年は、その翌日が誕生日でした。その事故をきっかけに私の中で誕生日に対する考え方が変わって……。「ハッピーなだけじゃない、人それぞれのバースデイがあるのかもしれない」とも感じるようになりました。そして、自分が20歳の誕生日を迎えた時に今の自分を誰に伝えたいのだろうと考えたんです。お母さんや家族、親戚、友達、そして今まで出会ってきた私に目を向けてくださっている人や、私のことを知っているすべての人たちに向けて、節目でもある“20歳”の自分が今思っている言葉を提示しておきたかったんです。

――生きていることを日常で意識することはあまりないけれど、“死”を意識した瞬間に“生”に気づかされるということでしょうか。だけど、誕生日は本来“死”を意識せずとも、1年に一度、生きている実感を味わえる日ですよね。

湯木:誕生日って、月日について一番考える日ですよね。これだけ生きてきたとか、まだこれしか生きてないとか、色んな地点があると思うんです。“誕生日”という概念を紐解いた時に、そういった月日が流れるということについても表現したいと思って”食べる”という行為に着眼したんです。人は、悲しくても嬉しくても日々“食べる”んですよ。エネルギッシュな人も、そうじゃない人も、普通に生活してる人も、冷蔵庫を開いて“何か食べるものないかな?”って日々必ず繰り返します。生きるということにごく密接な行為なのに意外と見えていないところだなと思って書いた歌詞であり、MVでも視覚的に表現しました。

――そして4曲目「極彩」では、生きることを“燃えてゆく”と表現されていて。この描き方に美しさや儚さを感じました。タイトルの「極彩」という言葉も鳥肌ものでした。

湯木:“命が燃えている”ってよく言いますよね。生まれた瞬間から燃え続けていて、いつか消えるんですよ。薪がなくなれば、残ったものが灰になる。『誕生~バースデイ~』という作品なのに、もう灰になることを歌っているんですよね。生まれたら必ず死は訪れるから、それを表したいなと思って。生まれるまでは、まだ生み出しているからハッピーなんですよ。だけど、生まれた瞬間から死に向かっていく。その途中で、何を生み出し続けていけるか。だからちょっと怖さや暗さのある毒々しい感じになっています。命が燃えること、その瞬間どれだけ鮮やかさを持っているかは、人それぞれ違うけど、最期はみんな灰色で終わるのではないでしょうか。この曲は、そんな曲です。

――「極彩」のアレンジはアノアタリの西川ノブユキさん。

湯木:西川さんには活動初期からアレンジで参加してもらっていますね。打ち合わせ時から面白くて、視覚的な相談ができるんですよ。情景を想像できるようなアレンジをされる方で。毎回それが楽しくて、違う場所に連れて行ってもらっている気分です。音楽は見える風景が人それぞれ絶対違うはずなのに、同じ景色を会話の中で想像して共有できるって面白いですよね。

――『誕生~バースデイ~』のアートワークも絶妙な色合いで表現されていますよね。

湯木:「バースデイ」では、血管や脈、月日の流れ、そして血液を表しています。「産声」は声の広がり。丸い線は、年輪のようであり空気中を伝う声の波紋のようにも見えるように描いています。中心の白い丸は、はじめて見る光を表していて産道なんですよ。そして、「極彩」での燃える色と灰色。3つの絵で構成されたアートワークになっています。

――メジャーファーストシングル『誕生~バースデイ~』は、濃密なエネルギーに溢れた力強い思いでいっぱいの作品となりました。だからこそお聞きしたいのですが、湯木さんは“いま”どんなことを考えていて、“今後”どんな表現をされていこうとしているのですか?

湯木:どこに何を届けたいという想いよりも先に、これを表現したい、作りたいものが今ここにある、という想いを持って作品を作っています。それが今は「命」だったり「生きることに対して思うこと」だったり。根底にあるのはそこで、だからこそ、自分の作っていく作品は “命に向き合ってる人には必ず響くものでなければならない”と思っています。(取材・文=ふくりゅう)