OZworld a.k.a. R’kumaに聞く、『高校生RAP選手権』から1stアルバム完成に至るまで
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沖縄が生んだ現在21歳の新時代最注目ラッパー、OZworld a.k.a. R’kumaが待望の1stアルバム『OZWORLD』を完成させた。2016年開催の『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』で強烈なインパクトを残したR’kumaは、みるみるうちにその名を全国区に拡散。2018年2月にリリースした「畳 -Tatami-」からはOZworldとも名乗るようになり、クセのある中毒性の高いフロウと、内面を掘り下げた詞世界で日本の音楽シーンを侵食し続けている。彼がどんなきっかけでラップを始め、これまでにどんなアップダウンを経験してきたのか。OZworldと名乗る要因になった不思議体験や、アルバムに込めた思い、さらには今後の展望まで幅広く語ってもらった。(猪又孝)【最終ページにプレゼントあり】
「OZworldという名前は本当に降ってきたっていう感覚」
ーーまずはラップを始めてみようと思ったきっかけから教えてください。
OZworld:高1のときですね。ラップとかストリートファッションで目立っていた高3の先輩から「R’kumaもラップやってみれば?」って言われたのがきっかけです。「こんな感じだよ」って、そのとき流行り始めた『高校生RAP選手権』の動画とか見せてもらって「こんなのできないです、絶対」って言ったら「これはフリースタイルだから。歌詞を書くやり方もあるから」って言われて「あぁ、そうなんですね」って、その日にとりあえずリリックを書き始めたんです。
ーーいきなり書けました?
OZworld:小節数も全然わからないし、基本の「き」の字もないんですけど、とにかくYouTubeでビートを落として、それになんとなく合わせてっていうところから始めたんです。
ーーわからないなりにもリリックを書き始めたら、楽しくなってきた、と。
OZworld:そうですね。地元は何も遊ぶところがないんで、フリースタイルするのも曲を書くのも暇つぶしとしてやっていたんです。お金がかからないし。
ーー2015年にMVが公開されたRude-αとの「CoCo ga OKINAWA」が注目されましたが、あの曲はいつ頃作ったものなんですか?
OZworld:ラップを始めて1年ちょいくらいです。その頃、Rude-αのプロップスを使って女の子にモテに行くっていう遊びにハマってたんです(笑)。で、2人で北谷を歩きながらフリースタイルして遊んでいたら、Rudeが「♪オーケストラ」っていうフレーズをその日のフリースタイル中によく使ってて、俺は「♪ここが沖縄」っていうフレーズをずっと歌ってて。お互いずっとそれを言ってるから、「♪オーケストラ、ここが沖縄」っていうメロディをフックにしたフリースタイルを録ってみようと。で、海岸の方に行って撮ってみたら、意外とちゃんとできてるじゃんってことで、YouTubeにあげたんです。
ーーRude-αとはどうやって知り合ったんですか?
OZworld:僕は嘉手納町生まれで、Rudeは基地を挟んで反対側の沖縄市なんです。Rudeは僕より1年前くらいからラップを始めてて。当時、L-LINEっていうミュージックバーがあって、沖縄から『RAP選手権』に出た人が5人ともそこに集まってたんです。若手がマイク使ってフリースタイルできる環境がなかったんで、みんなそこに集まってたんですよね。
ーーその後、2016年に開催された第9回、第10回『高校生RAP選手権』に連続出場して注目を浴び、翌年にはEINSHTEIN、裂固と組んだ「チーム1997」で『フリースタイルダンジョン』に登場。2018年には『SMASH HIT Season 2』でDJ HAZIMEと「She Iz」を制作し、勝利を収めました。順調に見える道程ですが、この間で人生の流れが変わったと思った出来事は何ですか?
OZworld:第9回の『高校生RAP選手権』に出れたのは大きかったですね。その時は3度目の挑戦で受かったんですけど、直前に色々あって気持ちが落ちてた時期でもあったので、3度目の正直でやっと受かって、それから本当に音楽に本気になったんです。
ーーその後2018年2月に「畳 -Tatami-」をリリースしたタイミングでOZworldと名乗り始めました。この別名をつけた理由を教えてください。
OZworld:最初は家のベランダで本を読みながら、名前というより、自分のこれからのことについて考えてたんです。当時、『高校生RAP選手権』とかバトルのイメージが強くて、ファンの子たちからも「バトル、見ました」っていう反応が多いから、その反応を変えるにはどうしたらいいんだろう? って考えていて。R’kumaという名前を捨てるのはもったいないけど、自分はもっとアーティストとして捉えてもらいたい。じゃあ、名前を変えて切り替えようと。OZworldという名前は本当に降ってきたっていう感覚なんです。で、あとからいろいろ調べて行ったら全部自分にぴったり合ってたから、これはもうガイダンスだと思って。
ーーウォルト・ディズニーが生み出したミッキーマウスの原型と言われているキャラクターがオズワルドですよね。
OZworld:自分がオズワルドっていう名前から最初に思いついたのはそれでした。あと、ちっちゃい頃に見てたアニメの青い宇宙人のタコみたいなキャラクターもオズワルドだったし(『Hello!オズワルド』)。オズの魔法使いとか、アニメの『サマーウォーズ』の舞台とか、ジョン・F・ケネディを暗殺したと言われるヤツもオズワルドだし。
ーー調べて行けば調べて行くほど自分の求める世界観とリンクしていったんですね。
OZworld:普段考えてることにマッチするようなことがどんどん繋がっていって。こっちから探しに行くというより、本当にポンと降ってきた感じだったから、ちょっと不思議な感覚でした。
ーー今回のアルバムには、エイリアンやUFOといった言葉が歌詞に出てきますし、収録曲「Lucy」には、〈スピり過ぎて頭おかしくなりそう〉というフレーズも出てきます。もともと宇宙や超常現象、精神世界に対する興味や関心は高かったんですか?
OZworld:もともとはそこまで興味がなかったんですけど、ある時から急に考えるようになったんです。
ーーいつ頃のことですか?
OZworld:今から2年くらい前です。選手権より後で、『SMASH HIT』より前。1年くらいそういう時期があって、その時に沖縄で語り継がれているユタに関わらなきゃならないことになったんです。それをやるようになってから、身の回りにおかしなことが起こるようになって、さすがに頭がおかしくなりそうだったから、それを自分で整理する、納得させるために音楽をツールに使おうと考えたんです。OZworld全開で開き直ってやったら、それはそれで音楽になると思ったし、それが武器になるって切り替えられた。実際、そこから人生が変わったんです。俺の人生の中には音楽があるから、必然的に音楽も変わる、歌いたいことも変わる。そこから全部いい流れを引き寄せられるようになったんです。
ーー極端に言うと、生まれ変わったくらいの変化があった?
OZworld:めっちゃ生まれ変わった感覚でした。脱皮したような、もともと自分の中にいるものを発見したっていう感覚でしたね。
「ヒップホップという枠を取っ払って遊びたかった」
ーー今回のアルバムは、どのようなきっかけで作り始めたんですか?
OZworld:もともと全然違うビートメイカーで、今のレコード会社と出会う前から自分なりに作っていた曲が6曲くらいあるんです。ずっと「出す出す詐欺」みたいなのが3年くらい続いていて。で、これは絶対アルバムに入れたいっていう曲が出来て、そこから気持ち的にスタートした感じですね。
ーーそのスタートのきっかけになった曲は?
OZworld:2曲目の「Lucy」です。最初は2ヴァース目が書けなかったからずっと空けてたんですけど、ふとひらめいてMonyHorseくんにお願いしたんです。それと「Do it」というヨーさん(Yo-Sea)との曲。これが1年半くらい前で、いちばん古いかも。そのときからビートは新しく差し替えていて、ヨーさんも、時間が経ってるからってリリックを変えて歌い直してるんです。
ーーアルバム全体ではどんな世界観をめざしましたか。
OZworld:大きなコンセプトはないんです。今回は、たとえばトラップだけとか、そうやってジャンルを限定せず、アルバムという曲数の多さを活かして、自分が今までやってきてないことも全部やってみようと思って。その挑戦が上手くいった曲たちを入れていったんです。
ーージャンルやスタイルに縛られず、幅広くやってみようと。
OZworld:そう。「まげわすれん」っていう曲とかは「これってどういうジャンルなの?」って聞かれたら、俺も答えづらいような曲だし。今回のアルバムではヒップホップという枠を取っ払って遊びたかったんです。言っていることも、世界観も、音的にも簡単には理解できないだろうなって思うけど、そういうふうに見せたかったところもあるし、逆にここまでやれば何でもありになるんじゃないかって。俺は器用に何でもできるタイプだから、その上でそもそも意味が分からないようなキャラクターがあれば、文句を言われても気にしないでいられる。
ーーOZworldというキャラクターを使うことで、揺るぎない独自の世界観をつくりたかったと。
OZworld:そう。大半のトラックをつくったビートメイカーのHowlin’ Bearとも、「このアルバムで“あり”を作ろう」と話しながら作ってて。
ーーというと?
OZworld:自分らが今後やるのが“あり”になるという状況を、ちゃんと音でまず見せたかった。「俺はなんでもできるぜ」って口で言うだけじゃなくて、「これがOZworldの世界です」、っていうことをちゃんと音で示したかった。それを自分なりにわかりやすくまとめたものが今回のアルバムなんです。
ーーなるほど。
OZworld:「Lucy」みたいな曲もあれば、「She Iz」みたいな曲もある。それが同じアルバムに入ってるのは、ある意味「え?」だけど、俺はそれを全然やっちゃいますっていう。だから、専門店というよりデパートみたいな感じ。いろんなテナントが入ってるビルというか。でも、全体的に見てバランスはおかしくないと思ってるんです。流れで聞いてもらったときにちゃんと違和感なく聞ける曲順にしてますし。
ーー1曲目の「あさがたのミートパスタ教」は、どんな思いから書いた曲ですか?
OZworld:俺は基本的に、こんな曲を書きたいなって思って作ることはあまりないんです。ビートを聞いて1発目に出る言葉、最初の出口……それがフックになるかヴァースになるかわからないけど、最初に気持ちよく出た言葉から作っていくんです。「あさがた」は、〈I luv ma brothers〉っていうフレーズが最初に出てきてそこから広げていきました。で、作っていく途中から、これがアルバムの1曲目っぽいなと思って。MVの世界観を想像しながら書くことも多いんですけど、とりあえず仲間がいるイメージや自分のバックボーンとかを自分なりに上手くまとめたつもりです。1曲目になるから自己紹介文というか、ここから始まるOZworldの世界観を少しだけでもわかってもらおうっていうイメージで作った曲ですね。
ーー「あさがたのミートパスタ教」というタイトルは、どこから思いついたんですか?
OZworld:このタイトルにはちょっと皮肉も込めているんです。この曲では、超スーパー自由でありたい、っていうことを言いたくて。「あさがたのミートパスタ」までだったらめっちゃピースな言葉だし、どう考えても悪いイメージは広がらないと思うんです。でも「教」をつけるだけで、そこに宗教観が生まれる。日本人は宗教って聞くと怖がったりするじゃないですか。
ーー不安がったり、まがまがしいものと考えがちだし、何かを強制されたり、支配されるようなイメージもあります。そういうことに対する生きづらさを皮肉めいて歌ってるということですか?
OZworld:そうです。そもそも「あさがたのミートパスタ教」という名前には意味がまったくないんです。でも、「意味がないことにも意味がある」「意味はないのに意味がある」っていう意図も込めていたりする。
ーーそもそもミートパスタは好きですか?
OZworld:ミートパスタは好きです。でも朝から食べたことは2回くらいしかない。そのうちの1回はAK-69さんの日本武道館ライブに出た日の朝だったんですけど、「朝からミートパスタなんて食べられるもんじゃない」と思ったから(笑)。そういうところもウケるなと思って、このタイトルをつけたところもあるんです。
ーーちなみに、パスタは何味が好きですか?
OZworld:カルボナーラです(笑)。ミートパスタはいちばん選ばない(笑)。っていうくらい自由だよ、っていうことなんです。
ーーラスト曲「NINOKUNI feat. 唾奇」は、ゲームや映画の『ニノ国』からインスパイアされて作ったんですか?
OZworld:唾奇さんがそのゲームをやってて。唾奇さんも世代が近いといえば近いし、一緒に沖縄のシーンを作ってる世代なので、ここから二ノ国をつくりあげるみたいな。世界を救おうっていうレベルではないけど、でも世界を救うにはまず俺たちが変わらないといけないと無理でしょ? 隣を変えないと無理でしょ? っていう感じ。そうやって俺たちが生きやすい世界をちゃんと作っていこう、という曲です。
物事の陰陽を上手く歌えているのが今回のアルバム
ーーその唾奇をはじめ、今回のアルバムにはYo-Sea、Lazy Wii、Len Kinjo as 1otu5という沖縄のラッパー/シンガーが参加しています。他にもAwichやCHICO CARLITO、Rude-αなど、近年、沖縄のアーティストの活躍がめざましいですが、その要因はどんなところにあると思っていますか。
OZworld:沖縄って出る杭を押さえる文化がないと思うんです。みんな伸び伸びやってるし、1人人気や知名度が上がっていったら、よっしゃー! って感じでみんなで押し上げるところもあるから、誰にも邪魔されずにやれてるんです。あと、ヒップホップだからこうじゃなきゃいけないって押しつける人もいないから、ヒップホップを純粋に音楽として捉えてる。それに、そもそも沖縄って歌えることがいっぱいあるんですよ。基地問題もあるし、リアルな話もいっぱいあるから、ヒップホップ的な内容を歌おうとすればいくらでも見つけられるんです。
ーーたしかにトピックは豊富でしょうね。
OZworld:あと、Awichさんがわかりやすいけど、社会的なことやLOVEとか、本質の部分を歌う。それは唾奇さんもそう。CHICO CARLITOさんもそう。Daiaさんもそう。じゃあ、同じことを東京の人が歌えるか? と言ったら、たぶん同じ目線では歌えないと思うんです。それが自分たちの武器になるということに、沖縄のラッパーたちがちょっとずつ気付いてきたんだと思いますね。
ーー今回のアートワークについても聞きたいんですが、「俺の正体はこんな人」だということをビジュアライズした感じですか?
OZworld:ある意味そうですね。ただ、僕もまさかこんなことになるとは思ってなかった。(特殊メイクを担当した)Amazing JIROさんも十分宇宙人だと思ってるんですけど(笑)、彼から見た俺がこうだったんだなって捉えてます。あと、入れたいものをとにかく入れていったんです。自然が好きだから花を入れて、でもサイケな色にして。裏面にはUFOや月も入れてる。ちなみに俺の髪形は“松ぼっくり”のイメージなんですけど、それを6個つけているんです。
ーー6にも意味があるの?
OZworld:意味があります。その意味は一瞬で理解できないだろうけど、それでいいっていう感じなんです。
ーージャケットにちりばめられたアイコンや文字の秘密を解き明かす鍵やヒントは、アルバムを注意深く聞けばわかる、と。
OZworld:そうですね。このジャケを公開してから、SNSのDMとかでもすごく反応があるんです。あからさまにスピな世界を表してるから、こっちが驚くくらいの情報をくれるような人からもDMが来るようになって。そういう人たちを引き寄せるんですよ。俺にコンタクトを取ってくる宇宙人が多いな、と思ってます(笑)。
ーー最後に、今後の目標や夢を教えてください。
OZworld:今、アートのアウトプットとしての音楽をやっているけど、絵を描くことも好きだし、言いたいことはもう自分の中でまとまってて。言いたいことの根本は変わらないだろうから、それをもっといろんな表現方法でやってみたいです。
ーー音楽以外のアート表現もやっていきたいと。
OZworld:そう。「Magarikado Trap」でも〈金稼いだらバリ島に家買う〉って言ってるけど、俺はバリ島と沖縄を行き来する人生が送れれば幸せだから。なんのためにお金を稼ぐか、っていう目的が自分の中で定まったので、そのために「できないことをできるようにしよう」というよりは「できることの応用でもっとできることを探したい」って考えてる感じです。
ーーOZworldの「言いたいことの根本」とは何ですか?
OZworld:ラブとかピースです。超簡単なこと。そこから仲間もファミリーも繋がっていくから。でも、ラブ&ピースの気づき方って、ポジティブな面からだけじゃない。物事には陰陽がある。そこも上手く歌えているのが今回のアルバムだなって自分では思ってます。
(取材・文=猪又孝/写真=西村満)
■リリース情報
OZworld a.k.a. R’kuma『OZWORLD』
2019年6月9日(日)発売
価格:¥2,315(税別)
<収録内容>
1, あさがたのミートパスタ教
2, Lucy feat. MonyHorse
3, OKU
4, Peter Son feat. Maria & yvyv
5, U.F.O.
6, Magarikado Trap
7, まげわすれん
8, Do it feat. Yo-Sea
9, Betty boop feat. OZworld a.k.a. R’kuma / DJ JAM(YENTOWN)
★XLARGE® “3WAY BLUE FIRE BAG BOOK” タイアップ曲
10, She Iz / DJ HAZIME × OZworld a.k.a. R’kuma
★AbemaTV “SMASH HIT” 2nd season 制作曲
11, 畳 -Tatami- REMIX feat. JP THE WAVY
12, Mist feat. Lazy Wii & Len Kinjo as 1otu5
13, NINOKUNI feat. 唾奇 ニノクニフィーチャリングツバキ
■配信情報
第1弾先行配信シングル
2019年4月24日 デジタルリリース
「あさがたのミートパスタ教」
第2弾先行配信シングル
2019年5月22日 デジタルリリース
「Peter Son feat. Maria & yvyv」
■関連リンク
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