『海獣の子供』『ゴジラ』『まんぷく』……芦田愛菜、声優/ナレーション業で発揮する豊かな表現力
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子役から女優へと、いま大きな転換期にある芦田愛菜。同じように、少女から一人の女性へと大きく変わっていこうとしている14歳の彼女は、主演声優を務めた『海獣の子供』で、今しかできない、そして今だからこそできる、そんな健闘をみせている。
【写真】『まんぷく』ナレーション時の様子
今年は春から夏にかけ、話題の劇場アニメの公開が相次ぐが、声優陣に旬な若手役者たちが配されていることも、また大きな話題を集めている。その中で、先陣を切って公開された『バースデー・ワンダーランド』では松岡茉優が主演。20代半ばの彼女が小学生役の声を演じ、演じ手としてのたしかな実力を再確認させられたところだ。このようにして、演者の実年齢とは異なるキャラクターをも演じることができるのが、声優という職業の魅力であり、また演じきってみせるのが声優の力というものだろう。
しかしやはり実写作品と同様に、役に対して演者の年齢が相応であれば、その方が良いに越したことはない。ところが例えば子ども役のように、実際に子役が声をあてれば良いというものでもないだろう。それなりの経験値や度胸がなければ、声だけで何かを表現するというのは困難なはずである。
さて、『海獣の子供』で芦田が演じるのは琉花という女子中学生で、芦田自身の年齢に相応する人物である。その声にはまだまだあどけない感じが残りつつも、画面に映し出される琉花の表情とともに、ときおり大人びた印象をも観る者/聞く者に与える。つまり、成長の過渡期にある芦田本人の声はそういった要素を潜在的に持っているわけであるが、琉花の“他者とコミュニケーションを取るのが苦手”という性格が加わり、ここで芦田は声の表現力を試されることとなるのだ。
本作は夏が舞台の作品だが、彼女の快活な声は澄み渡る青空を思わせる。物語に晴れ晴れとした力強さを与えながら、主役として作品を牽引する、堂に入った声優ぶりを披露しているのだ。そこに、言わば思春期特有の性格が絡んでくるのだが、対面する相手によって変わるセリフの調子だけでなく、ほんの少しの声色の違いで芦田はキャラクターを表現。本作は舞台である海だけでなく、宇宙をも感じさせる深遠なるファンタジーではあるものの、彼女の声はそれを地に足の着いたものとしている。
思えば、1週先に封切られたハリウッド映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』でも、芦田は日本語吹き替え版にて声の出演を果たしている。こちらもまた、同年代のキャラクター。ゴジラたち怪獣を巡る両親の思想の違いに翻弄されながら、彼女は彼女で、自身の考えを持って行動していくという役どころだ。セリフよりも、苦しそうにあえぐ声や悲鳴などが多いのだが、それら一つひとつの表情が実に豊かである。それは『海獣の子供』への期待値がより高まる好演と言えるものだ。
いわゆる“天才子役”として名を馳せ、幼少期より華々しいキャリアを積み上げてきた芦田だが、それに伴い豊かな表現力を育んできたことは、多くの者が知るところだろう。本稿を読んでいる方のほとんどが、現在に至るまでの彼女の成長を見てきたはずである。数多くの作品で主役や、主人公の幼少期の姿といった主要な役どころを務める傍ら、劇場アニメや海外作品の吹き替え声優を務めてきた。
そんな中で芦田の声の仕事といえば、朝ドラ『まんぷく』(NHK総合)でナレーションを担当したことも記憶に新しい。溌溂としていて温かみのある彼女の声は、激動の時代に一つの目標に向かって一丸となり突き進んでいく多くの人々を包み込み、その物語の推進力としても機能していたように思う。史上最年少でのナレーター抜擢とあって、彼女の代表作の一つとして語られるであろう作品である。
冒頭で述べたように、どれも“今しかできない”、そして“今だからこそできる”芦田の物語る上手さだが、これからの彼女への期待感を、大いに煽られるものに違いはない。
(折田侑駿)