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『アラジン』はウィル・スミスの新たな代表作に ハイテンション演技と悲しげな目つきの説得力

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リアルサウンド

  みんなのウィル・スミスがパワーアップして帰ってきた! テレビの洋画劇場を見終わったあとのような懐かしさと満足感で胸がいっぱいだ。『アラジン』(2019年)は同名アニメ映画の実写リメイクだが、同時にウィル・スミスというビッグスターの新たな代表作として語り継がれることになるだろう。

参考:『アラジン』特大ヒット 音楽の力がもたらす「ビガー・イン・ジャパン」現象

 砂漠の王国・アグラバーで暮らすコソ泥の青年アラジン(メナ・マスード)は、ひょんなことから王女ジャスミン(ナオミ・スコット)と出会い、またたく間に恋に落ちる。2人の未来には天と地ほどの身分差や、悪の大臣ジャファー(マーワン・ケンザリ)が立ち塞がるが、そこにランプの魔神ジーニー(ウィル・スミス)が現れて……と、大筋は原作の『アラジン』(1992年)に沿った内容になっているが、オリジナルよりジャスミンのキャラクター性を深掘りしたり、新キャラクターを出したりと、“2019年の『アラジン』”としてアップデートに成功。

 また、ビジュアル面の印象がオリジナルと大きく異なる点にも注目したい。アニメでは表現が難しい装飾品、いわゆる「揺れもの」で彩られたドレスや、細かい装飾が施されたカラフルな豪華なセットは、まさに実写ならではの表現だ。美術への強いこだわりは、最近のディズニー実写化シリーズの定番だが、本作はインド映画的なド派手な色使いと物量作戦のおかげか、とりわけ華やかに感じられた。ここ数年ディズニーの実写化映画は『シンデレラ』(2015年)、『美女と野獣』(2017年)、『メリー・ポピンズ リターンズ』(2018年)と、年1に近いペースでアカデミー賞の衣装/美術賞には何かを送り込んでいるので、今回も「狙ってきた」感がある。

 しかし、こうした部分と同じくらい作品の魅力を支えているのが、ウィル・スミスの存在だ。もちろん主役2人のフレッシュな魅力も素敵だし、ガイ・リッチー監督のテンポよい語り口も心地よい。マドンナ主演の『スウェプト・アウェイ』(2002年)が嘘のようだ。しかし、劇中のランプの魔神よろしく、スミスの存在が映画の屋台骨なのは間違いない。まさかこんなにジーニー役がハマるとは思わなかった。

 ウィル・スミスといえば、良くも悪くも「俺! 俺! 俺!」と目立つ人である。それは『インデペンデンス・デイ』(1996年)で地球を代表して宇宙人を殴り倒した男の宿命だ。あんな大役を担ったのだから、どうしたって目立つに決まっている。息子の主演作『ベスト・キッド』(2010年)ですら、エンディングの舞台裏映像で普通に出てくる……こういうのこそウィル・スミスである。ジーニーのビジュアルが初めて公開された際に、「ジーニーじゃなくて青いウィル・スミスじゃないか」「ウィル・スミスがウィル・スミスすぎる」と賛否両論が巻き起こったが、ああいった話題が起きること自体がウィル・スミスの知名度とパブリックイメージの強さの証しだろう。普通の俳優なら、そもそも「ウィル・スミスがウィル・スミスすぎる」といったアイデンティティを問うような疑問は浮かばないはずだ。ジー二―という完成されたキャラに、ウィル・スミスという同じく完成されたキャラがぶつかれば、事故って両者がバラバラになるのでは? このような危惧が賛否両論の下地にあったのではないか(ぶっちゃけ私も不安でした)。

 ところがどっこい、本作でウィルは完璧に役目を果たしている。万能の力を持っている魔人をテンションMAXで怪演。90年代に少年時代を過ごした人間としては、特殊効果もあって『マスク』(1994年)のジム・キャリーを思い出した。そんなハイテンション演技をする一方で、悲しげな目つきだけで「1000年も真っ暗なランプの中に1人で閉じ込められていた」という孤独にも説得力を持たせている(ウィル・スミスは明るい会話の中で不意に悲しい目をするシチュエーションが抜群にハマる)。ハイテンション演技は90~00年代の経験、そして後者は00~10年代のウィルのキャリア、先ほど書いたような「俺! 俺! 俺!」的なパブリックイメージからの脱却を図ろうとした苦労の産物だろう。最近でもシリアスに徹した『コンカッション』(2015年)や、『スーサイド・スクワッド』(2016年)で超人軍団の一員として目立ち過ぎず、脇に徹していたのも記憶に新しい。こうした映画で培った“いち俳優”としての実力が遺憾なく発揮されている。

 もちろん目立ちまくりのダンスシーンや、久々にエンディングでラップを決める大サービスも。“いち俳優のウィル・スミス”としてだけでなく、“大スターのウィル・スミス”としても全力投球している。俳優として、存在するだけで目立つスターとして、現時点でのウィル・スミスという男の実力を堪能できる1本だ。(加藤よしき)